6-38.カカエラ
魔物は人を愛したりしない。レリュードに対してもそう。魔物は、なにか目的があって、愛してるふりをしていた。
理由は知らない。彼女に話す気などないだろう。
ただ、魔物を愛して、死ぬ覚悟もしていた男がいただけ。
覚悟か。レリュード本人もそう言っていた。意味はよくわからなかったけど。
「わたしたちの計画は失敗。仕方ないわね。敵も町も欺いてやるなんて無理があったのよ。でも、あんな奴の野望をそのまま叶えるのも嫌。だから抵抗しに来た」
「敵? 計画? 何の話?」
「詳しくはレリュードに聞きなさい。カカエラが会いに来たって言えば教えてくれるわ」
カカエラ。それが女の名前か。
「あなたと、あなた。どっちに覚悟があるかしら。正義感だけあって覚悟は無いって言うなら、それはそれで笑えるけど。あーあ。ひとり殺しておけば、もう少し話は楽だったんだけどねー」
「あっ! 待て!」
「嫌よ」
言いたいことだけ言って、魔物は浮き上がる。阻止するべく後ろから矢が飛んできたけど、これも回避して建物の裏に隠れて空高く飛び上がった。
アンリも来てたのか。
「ヨナ様お怪我はありませんか!? カレンさん治してあげてください!」
後ろからティナと、みんなが駆け寄ってくる。
「ヨナは大丈夫そうだ。それよりアタシの方が派手に怪我したんだけど。腕をぶつけて痛い。治してくれ」
「ヨナ様が先です!」
「こいつは……おいヨナ。アタシが聞き耳立ててたのは、こいつらにやれって言われたからだぞ! 悪いのは全部こいつらだ」
「あぁっ!? キアだけずるいわよ!」
「そうよ! キアだって気になってたんでしょ!?」
「みんな。レリュードに話を聞きたい。兵士に取り次いでもらうにはどうすればいいかな?」
僕を尾行してたらしいキアたちについて言いたいことはあるけど、それどころじゃない。
レリュードは、何か理由があって娼館を作った。それを探らないと。
彼は重大事件の首謀者として厳重に警備されている。面会は容易ではない。そう思ったけれど、案外簡単に面会できた。
町の真ん中に魔物が現れるという非常事態に兵士が急行して、僕たちも事情を聞かれることに。昨日の森での功労者だと言えば、一緒に森に入った隊長が挨拶に来てくれた。
先程の出来事を話せば、レリュードから事情を聞けることとなった。
「僕とレダウスと、レリュードの三人で話せませんか?」
「それは……わかった。ただし、私も同席させてもらう」
「わかりました」
それは仕方ない。
兵士たちが集まる、軍の本部。その地下牢にレリュードはいた。鉄格子の前に椅子を置いて、僕とレダウスは並んで座る。隊長は何かあればすぐに動けるように、槍を持って立っていた。
レリュードの顔は、所々赤く腫れていた。
「こんにちは。また会ったね。昨日より格好良くなってる? 兵士に生意気な口聞いて殴られた?」
「生意気なのはお前の方だよ。クソガキめ」
「ははっ。確かに。元気そうでなによりだよ。それにお喋りする気もあるみたいだし」
「……」
挑発に乗ったと思われるのが嫌なのか、レリュードは口を閉ざしてしまった。
レダウスは僕とレリュードを見比べて不安そうな顔をしている。こんなので会話なんて出来るのか心配なのだろう。
無用な心配だ。
「レリュード。さっき、カカエラが会いに来た」
「なんだって?」
ほら、会話に応じてくれた。
「あなたには覚悟が出来ていない。そんなことを言っていた。あとは、こうも。あんな奴の野望を叶えるのも嫌だと。どういう意味か教えてくれる?」
「……」
レリュードは隊長の方をちらりと見た。聞かせて良いものか迷っているのか。けれど、さすがに兵士の立ち会い無しに、犯罪者と秘密の会話はできない。
「お前たちは、自分の血について知っているか?」
「ジェイザックの血を引いていること? 僕と兄の何代か前の先祖はこの村の出身だと聞いた。僕たちは、英雄の子孫で作られる町がどんなものか見たくて、王都から旅して来たんだ。だよね、兄さん?」
「え、あ。ああ。そうだな。その通りだ」
王族だなんて言えるわけがないから、咄嗟に嘘をついた。それも平気な顔で。レリュードはそれを疑わなかった。
真実を知っているレダウスだけが戸惑い、話を合わせるために頷いた。
「そうか。村から出る者は定期的にいるね。魔物に脅かされる村なんて、みんな出ていきたいに決まってる。あの村は旅に出る気力も無い者で構成されいる。あとは、英雄の血を引いている自分の使命が、魔物の進行を止めることと考えている勇敢な者だけだ。かつての僕みたいに」
レリュードは自嘲するように口にして、少し考えてから言い直した。
「いや、今も思ってるさ。英雄の子孫である僕だから、魔物の企みは止めるべきだ」
どういう意味だろう。レリュードは魔物であるカカエラと組んだのに。
「あの女は何者?」
「森の奥に潜む、高い知能を持つ魔物だ。貴族みたいなものが魔物にもある。知能の低い魔物を率いる知的階級になるべき家系。とはいえカカエラの家は、ちょっと特殊だけど。魔物の社会に関われず、森の中心部から離れた、人間に近い地点に追いやられている。だからこそ僕はカカエラと出会えた」
「それで恋に落ちたの? なんで魔物なんかと」
レリュードの左手に光る、カカエラとお揃いの指輪を見ながら、疑問を口にした。




