6-37.聞き耳
確かに、隠れてヨナの様子を見に行ったことは過去にもあった。三人がここまで言うから、自分でも気になってきたのも事実。
こいつらの同類になりたくないだけだ。
とはいえ。
「なんなのあいつ。なんでレダウス様とあんなに仲良くしてるの? あんな顔、わたしにはお見せにならないのに」
「まあまあカレン、落ち着け。兄弟にしかわからないこともあるだろ」
「クリスは黙ってて!」
「えぇ……」
尾行にカレンとクリストンもついてきてた。こっちはこっちでうるさい。そして、何の会話をしているのか気になって仕方ないって様子だ。
カレンはこちらにチラチラと目を向けていた。昨日喧嘩したことは引きずっていて、お願いするのは癪だけど、会話を聞きに行けるなら行けって感じの顔だ。
クリストンも似たような感じで、申し訳なさそうにこっちを見ていた。
味方がいない。
「ああもう! わかったよ! 聞いてくるから、お前らは大人しくしてろよ! 騒ぐな! 絶対にな!」
「さすがですキアさん!」
「キアならやってくれると信じてたわ!」
「さすがね。頼りにしてる」
「だから! 声を出すな喋るな!」
言い残して、近くの建物の屋根に登る。そして屋根から屋根へと跳び移り、ヨナの近くの建物に行く。ヨナは頭上を全く気にしておらず、見つかる心配もない。
「ヨナウス。何か食べたいものあるか? 肉の串焼きとかどうだ?」
「食べてもいいけど、レダウスが一旦手に取って僕に渡して」
「なんでだ?」
「僕が手に取ると聖剣扱いになって、肉が全部切れて落ちちゃう」
「ははっ! それは不便だな」
「食事の時も、ナイフやフォークはそうなっちゃうから、一旦持ってから一度落とすんだ。置くと、慎重にしないとテーブルに傷がつくから」
「思ったより大変だな。気がつかない間に切ってしまうこともありそうだ」
「聖剣になったら気づくから、その心配はないよ。手間が増えるだけ。それが大変なんだけどね」
「異能は面白いな」
なんだ。普通の世間話じゃないか。
「レダウスはどうなの? カレンから異能の話とか聞かないの?」
「聖女だからな。王族とはいえ、あまり突っ込んだ話は聞けない。とはいえ、自分で願って発動する力だから、ヨナウスみたいな面白いことは無いと思うぞ」
「わからないよ。ちゃんと話してみたら、面白い話もあるかも」
「そうだな。今度聞いて見るか」
「カレンも喜ぶと思う。あの人、レダウスのこと好きだよ」
「なっ!? え?」
「気づいてなかったの? 友達とか、そんな関係よりも踏み込みたいって思ってるはずだよ」
「そ、そうなのか? 知らなかった……」
「本当は僕じゃなくて、カレンを誘うべきだったんじゃない?」
「そうだな……いや、いいんだこれで。ヨナウスとは今しか一緒にいれない。カレンとはこの先何度でも出かけられるからな」
「うん。そうだね」
「ヨナウスだって、彼女たちとこうして出かけることはあるのか?」
「時々は。みんなで行動することも多いけど、ふたりきりになるのも時々ある」
「そうか。楽しそうだな」
「うん。楽しいよ。みんなといると退屈しない」
本人たち不在の場で話すのだから、これが素直な気持ちなんだろう。
どこまでも普通で、あいつらが危惧するような内容じゃない。さっさと戻って教えてあげよう。
その時、ふと気づいた。空に小さな黒い点が見えた。
鳥だろうか。確かに羽をはばたかせて飛んでいた。けれど形が普通じゃない。
どんどん大きくなっていく。高度を下げてこちらに近づいているんだ。しかも、ヨナに真っ直ぐ落ちるように急接近する動きだ。
近くに来てわかった。知った相手だ。昨日、森の中にいた女の魔物。逃げ出したはずのあいつが、なぜか柵で覆われた町のど真ん中にいる。空を飛べれば町にも入れるよな。見張りはいても、見えないくらい高く飛べば見つからない。
女の魔物は手にナイフを握っていた。どう見てもヨナに刺すつもりだ。
「ヨナ! 上だ! 気をつけろ!」
「え?」
急に屋根の上から声をかけたキアにヨナは驚きながらも上を見た。そして敵に気づき、レダウスを突き飛ばして自分は剣を抜く。
魔物の狙いがレダウスだった可能性もあるけど、彼女は急に動きを変えることもできず、その場にいたヨナに突っ込むしかできない。
キアは屋根の上で少し下って、助走をつけて飛んだ。魔物がヨナにぶつかる寸前で彼女に横から体当たりして、二人揃って近くの露天に突っ込んだ。何かの穀物らしい商品をなぎ倒しながら揃って倒れ込む。
当然、ヨナは無事だ。
周囲は騒然となった。空から魔物が降ってきたとわかれば、市民たちは悲鳴を上げて逃げ出した。町の中にまで魔物が攻め込んできたと思ったか。
「キア!?」
「アタシは大丈夫だ! こいつを取り押さえてくれ! ナイフを持ってる!」
「わかった!」
地面に取り押さえられている魔物だが、女の子をひとり抱えて飛べる力がある。キアを跳ね除けるくらいは平気でするだろうし、握ったナイフを振り回してきた。
駆け寄ったヨナが魔物の腕を蹴れば、ナイフが宙を舞ってどこかへ飛んでいく。次に剣を突きつけようとしたけれど、魔物はその寸前でキアを押しのけて立ち上がった。次に後ろにステップを踏みながら距離を取り、背中の羽を動かして微かに浮き上がる。
「ふうん。やるじゃない。どっちかは殺せるとおもったのに」
「殺す、ね。レリュードの仇討ちに来たの?」
「まさか。レリュードは捕まって、そのまま死罪になる覚悟ができていた。わたしにも、後は追うなと言っていた。はんっ。そのつもりもないけど。愛なんて、バカバカしい。特に人間なんて」
魔物は左手を振りながら話す。薬指にはまった指輪は既に、意識すらしてないって様子。




