6-36.兄とお出かけ
みんなにも、このことは話した。明日は各自ゆっくり休んで良いと。レダウスもカレンやクリストンに言ったことだろう。
みんな、ちょっと驚いた顔はしつつも、特に反対はなかった。
というわけで翌日。宿の入口で待ち合わて、商店が集まる区画へ行く。
魔物の発生は今も続いていて、年の瀬というのに町のムードは暗かった。それでも新年を迎えなきゃいけないのは変わらず、買い物へ行く住民たちで商店の辺りはは賑わっているようではあった。
気づけば新年はすぐそこまで迫っているんだな。明後日には年が変わっている。
「手紙はミレーネさんに書いてもらう。ラルフは町の窮状をなんとかしようとして、冒険者を助けた上で死んだと書くよう頼んだ。これで、町の現状が王都に伝わる」
「王都が町のために何かしてくれるって期待してる?」
「ほんの少しだけ。父は動かないだろう。他の王族も、今は保身に精一杯だ。けど、ラルフの父は違うはずだ。息子の死を無駄にしないためにも、他の貴族に働きかけてくれる」
それで何か動くかは不確実だ。でも、やる意味はある。
レダウスは、こういう希望を持つことに躊躇いがなかった。
「じゃあ、ラルフの棺にも気持ちを込めないとね。何を入れるの?」
「商売道具が定番かな。馬の手入れをするブラシとか」
「わざわざ買わなくても、ラルフも持ってたでしょう?」
「それも遺品として入れるけど、どうせなら良いやつも入れておきたい」
「この町で手に入る最高級の?」
「そうだ。王都ほど品揃えは無いかもしれないけど」
「他には何か入れる?」
「好物とか。ラルフは果物が好きだった」
「もしかして、馬にあげる物を自分でも食べてた?」
「そう。馬と同じ物を食べたいっていつも言っていて。生で齧るのが好きだった。行儀悪いからやめなさいっていつも言われてたな」
「それは、カレンから? あの人そういうのうるさそうだし」
「ああ。言ってた言ってた。あと親からも」
「馬の世話する家系でも、そんなことは普通しないんだ」
「そうなんだよ。ラルフはとびきり馬好きだった。好きすぎたんだよ」
「ははっ! じゃレダウス、試しにやってみよっか」
「え?」
「果物、生で齧ってみようよ」
「おおっ! やってみよう!」
ラルフのためと、屋台で真っ赤な果実をふたつ買って、皮付きのまま齧る。
「どう?」
「切った方が食べやすい」
「確かに!」
ふたりの口から自然に笑みが漏れた。
「これ、棺に入れられるかな?」
「さすがに、運んでる途中で腐って見苦しいことになるよ」
「そ、そうか。じゃあどうする? 砂糖漬けなら保存が効くが」
「砂糖なんて高級品、ここじゃ手に入らないよ。乾燥させて水分を飛ばして、保存できるようにするんだ。味も濃縮されて美味しくなる」
「なるほど……ヨナウスは物知りだな」
「旅の中で知っただけ」
「じゃあ、干した果物を入れるか。それかケーキにするのもありだな。フルーツケーキもラルフは好きだった」
「よく焼いて保存出来るようにすれば、腐らないだろうね」
「君の仲間に頼んで作ってもらえないか?」
「ティナに? 頼めば作ってくれると思うけど、食べないケーキってどうなんだろう。それに保存するためによく焼くのも、あんまり好きじゃなさそう。こういうのは焼き立てを食べるのがいいんです。焼き加減をわざと間違えて美味しくしないなんてありえません。って言いそう」
「ははっ。確かに言いそうだ」
「あはは」
ふたり、自然に笑い合った。
――――
「おふたりは何を笑っているのでしょうか!? なんか、とても楽しそうなんですけど!?」
「そうね。なんか悔しいわ。ヨナがわたし以外と、あんなに仲良くしてるなんて」
「デートじゃないし、いいだろ。男同士だし。兄弟で仲良くお出かけなんだから、微笑ましく見守れよ。いや見守るな。邪魔をするな」
「甘いわねキア! 王都では同性同士のはカップルも少しだけどいるのよ! 世間的にはまだまだ少数派で冷たい目で見られてるけど、偏見に負けない強いカップルがいるの! 男の子同士の恋愛を書いた小説だって評判になることが多いのよ!」
「な、なんか禁断の愛って感じですごいわね。しかも兄弟でなんて。背徳感って、こういうことなのかしら!?」
「ふ、不埒です! お話の中ならともかく、現実のヨナ様でそんな想像しないでください! 不敬です! 不潔です!」
「お前らは何の話しをしてるんだ」
物陰に隠れて様子を伺う三人を後ろから見ながら、キアはため息をついた。
ヨナとレダウスがふたりで出かけると聞いて、三人が尾行を決断するまでは一瞬だった。もふもふは宿に停めたまま、ヨナの姿を物陰から見守って、一挙一投足に反応する。
騒がしすぎて、向こうから見つかってないのが奇跡だ。
それほど、ヨナが兄との外出を楽しんでいるのだろう。その事実も、三人には受け入れられ難いのかも。
自分たちといるより兄といた方が楽しいのかと。
でも実際、ヨナは楽しそうだった。店で買うものを物色したり、果実を買って齧ったり。なんの話をしてるのかは知らないけど、笑い合ったりしていた。
キアには、仲のいい兄弟にしか見えないのだけど。
「ちょっとキア!? なに突っ立ってんのよ!? ヨナくんたちが何の話しをしてるのか、近くに行って聞いてきなさいよ! 得意でしょ!?」
「そうよ! なんか危ない話しかもしれないから! 禁断の兄弟愛みたいな!」
「わ、わたしはそんな想像してませんよ!? ヨナ様は健全にお兄さんとお付き合いしているはずです! けど万一! 万一がありますから! これはヨナ様の教育のためなんです!」
「おいおい……」
三人が振り返って期待の目を向けた。
普通に嫌なんだけど。仲良くしてるところ邪魔したくないし。
でも応じなければ騒ぐばかりだろうな。




