6-35.ラルフの遺体
ソフィのことを話せば、レダウスは少し驚いた顔を見せた。僕にも失った物はあると、思いもよらなかったのか。
「引きずって、それでも僕は生きなきゃいけない。彼女の仇はしっかり討った。もう出来ることはない。あとは、もう悲しい思いをしないよう気をつけるしかない。レダウスも、そうするべきじゃないかな」
「……ああ。そうだな。なんだか前向きになれた気がした。弟に励まされるなんて」
「それだけ、色々あったからね。けどレダウスだって、今日はちゃんと戦えてたよ。アンリを守ってくれたし。本当にすごいと思う。ありがとう」
「かわいい弟のためなら当然だ」
レダウスはようやく笑顔を見せた。
なんというか、幸せだった。普通の兄弟の会話とは少し違うかもしれないけれど、居心地の良さを感じた。
僕が家族とこうやって接する日が来るなんて、思いもよらなかった。
クリストンたちの所へ戻った。表情が明るくなったレダウスに、クリストンもカレンも安堵したようだった。
翌日。予想外に長居してしまったけれど、元々村には日帰りの訪問の予定だった。
村の復興は、ここからは町の仕事。僕たちはそろそろ町に帰らないと。
今回の件で、ギルドから特別に報酬が出るらしい。それに、どうやら魔物が大量に発生して、町の周辺を襲うのは継続中らしい。
レリュードの作った娼館は、ここ最近の大量発生とは無関係だったということ。町の危機は続いていて、冒険者も軍も対応に迫られている。
僕たちも手伝わないと。
何より大切な仕事もあるし。
ラルフの遺体を王都に送らなければいけない。
彼は貴族の子息であり、跡継ぎである。王家所有の馬を管理するとあって、爵位こそ低いが、王族の覚えめでたく王都では存在感のある家系だ。
その跡取りが死んだとなれば多少なりとも騒ぎになるだろう。しかも王都とはかなり離れた国境近くの町でならば。
「ラルフは家族に、休暇中に旅に出ることは伝えていたそうだ。もちろん、俺と一緒なのは極秘だけれど」
だから彼は旅先で死んだということにして、住民が親切にも王都まで送ってくれたことにすればいい。
旅人が故郷から離れた場所で死ぬことは、珍しくはない。こんな、魔物との戦闘が日常の場所なら特に。
棺に彼を入れて、家族に説明する手紙を添えて、ギルドで冒険者に依頼して持っていってもらう。
「レダウスも一緒に帰りなよ。この町が危険ってわかったでしょう?」
彼の身を案じて提案した。
別に、遺体と共にというわけじゃない。棺に添えた手紙はレダウスが書くのではなく、町の住民が善意で添えたという体で誰かに書いてもらう。
自分はこっそり学園に帰って外出なんてしていない風を装い、友の客死の知らせを受けて悲しめばいい。親兄弟からは友の死を同情されて、やはり外は危険だから学園から決して出るなど改めて言われるだけ。
レダウスが父の命令に背いた事実は明かされない。それでいいじゃないか。
「ああ、そうだな。俺には、この場所は危険すぎた。クリスたちをこれ以上危険に晒すわけにもいかないし」
レダウスが思ったよりも素直に帰還を決めたことに、僕は心底安堵した。
王族としてとかの、取るに足らないプライドを優先して、危険から逃げない判断をするのではと危惧する気持ちが少しだけあったから。
それはそれで立派かもしれないけれど、レダウスには似合わない。
「でも、レダウスの今回の旅は、無駄じゃなかったと思う。彼の死は残念だったけれど、レダウスのこれからの糧になると思うよ」
だから、慰める言葉をかけた。
彼は少し微笑んで。
「そうだね。俺の……王族としてのこれからに、大きな意味を持つと思う。ラルフの死は無駄じゃない。けどいいのか?」
「え?」
「ヨナウスは、王族を殺したいんだよな? 特に父は」
「……」
返事はしない。けど、ゆっくり頷いた。
親やきょうだいへの恨みは消えない。今も憎み続けている。
レダウスを殺そうとは思っていないだけ。
そんな僕が、レダウスの将来を願った。他の王族と共に国のために努力することを。
自分の考え方に狼狽えて、それが顔に出てしまったのだろう。レダウスは少しだけ笑った。
「俺としては、ヨナウスが少しだけでも平和な考え方になったのが嬉しい」
「別に、僕はそんなつもりじゃ」
「ヨナウス。明日、俺と一緒に町を歩かないか?」
「え?」
「王都に送るラルフの棺は買った。手紙も入れる。でも、それだけじゃ味気ない。棺に何か入れたくて。ラルフの好きな物とか。公的には俺からだとわからなくても、俺からの贈り物をあげたい」
いいと思う。棺に贈り物を入れるのはよくあることだ。それを買いに行くのもわかる。
でも。
「どうして僕と? 友達と行かないの?」
「ヨナウスとゆっくり話したくて」
「……」
警戒はした。僕を説得するつもりなのかと。父やきょうだいを殺す気持ちを揺らがせる気かと。
でも、レダウスのことは嫌いではないから。
「いいよ。話すだけなら」
結局、了承した。
兄とこうしてふたりで過ごすなんて、これまで無かったから。気になったのも事実だった。




