6-34.守れなかった命
倒れていたのはラルフだった。心臓を刺されていたのか、既に死んでいた。
「いやっ! ラルフ! ラルフ!」
友の亡骸を見たカレンは取り乱して、しゃがんで彼に治癒を施した。傷が塞がっていく。
けれど一度失われた命は戻らない。
「カレン。無理だ。もう、どうにもならない。ラルフは」
「無理じゃない! わたしは! 聖女です!」
「無理なんだ、カレン。ラルフは死んだ」
「でも! でもっ!」
肩に手を置き、カレンを止めるレダウス。彼も涙を堪えているような口調で。
カレンだって理解しているのだろう。信じたくないだけ。レダウスとクリストンに無理やり体を引き剥がされたカレンは大声で泣いて、レダウスの胸に顔を埋めた。
「……戻ろう。森から出よう」
こんな時に、魔物に襲われたくない。
「アンリ。もふもふにラルフを乗せてあげられる?」
「ええ。後ろに寝かせて」
ラルフと親しかったアンリも、さすがに堪えた様子だ。数人がかりでラルフの体を乗せて、ゆっくりと進んだ。
村に戻った僕たちは、今度は村長の訃報を知ることとなった。
書き置きには、不肖の息子を持って申し訳ない。世間様に合わせる顔がないから、こういう形で責任を取ることを許してくれと書かれていた。
レリュードはしっかり裁いて、厳罰に処してほしいとも。
娘たちが戻ってきたことを村人たちは大いに喜んだ。けれど、この村の将来には不安しかないという様子だ。
「ここから先は、彼ら自身で立ち直るしかない。わたしも手伝いはするけどな」
そう言って、ミレーネは村人たちひとりひとりに声をかけていく。元気づけるために。
「そうだね。手伝いをしないと。僕たちもできることをしよう」
「はい! わたしは皆さんのお食事を作りますね!」
「うん。手伝おうか?」
「いえ! ヨナ様は料理苦手なので! お兄さんと一緒にいてあげてください!」
「あ、うん」
料理を邪魔するなと言われたな。こういうのはティナに任せた方がいいよね。僕は間違いなく苦手だし。
レダウスと一緒にいたほうがいいのは確かだし。
町の兵士や冒険者たちは既に引き上げていた。兵士が何人か、村の警護のために残っている。レリュードは町に連行されていった。
村人たちは保護された娘たちの世話に忙しい。もちろん、村の後片付けもまだ残っている。大量に出た死者の葬儀の準備もしなければいけない。
やるべきことはたくさんある。
住人のいなくなった民家を遺体安置所にして、その中にラルフも寝かせる。レダウスはそれを前に立ち尽くしていた。
なぜラルフが森に入ったのか、経緯は聞けた。少し待っていれば戻ってきた村の男を、なぜ探しに行ったのか。
理由は察していた。
「もっと強く言うべきだった。何があっても森に入るなって」
安置されたラルフを見ながら、レダウスは悔やみきれない様子で話す。
後ろにはクリストンとカレンもいた。ふたりとも顔を伏せて、悲痛な表情を見せないようにしていた。
「俺の間違いだ。ラルフがどれだけ、あの馬に夢中になっていたか気づけなかった。軽く考えていた俺が悪い」
「もうよせ、レダウス。後悔してもラルフは帰ってこない」
「でも!」
「あいつは馬に人生を懸けていた。魔物の馬であってもだ。あいつの情熱を俺たちが一番わかってるはずだろ!」
自分を責め続けるレダウスを見ていられないのか、クリストンが声をかけた。
「仕方なかったんだ。不用意な行動をしたラルフが悪い」
「でも、俺は。俺のわがままでラルフをここまで連れてきて……」
「そうだな。後悔は当然だ。ああ。悔め。けど、あんまり自分を責めないでくれ」
嗚咽を漏らすレダウスの肩を、クリストンは叩き続けた。
その後、しばらくはそっとしておくべきだと考えたらしいクリストンは、カレンを伴って安置所を出る。僕はといえば、レダウスの後ろから様子を伺うだけ。
彼にも仲間がいて、慰めてくれた。僕の出る幕なんかないのでは。
でも、ティナに言われた以上は何もせずに帰るのも気が引けて、レダウスから離れらなかった。
ふと、レダウスが僕の存在に気づいた。泣き腫らした真っ赤な目が僕を見つめる。
悲しそうな顔なのは、ラルフの死が原因というよりは。
「すまないな。格好悪い所を見せた。弟の前では、頼れる兄でいないといけないのに。駄目なことばかりだ」
「あんまり自分を責めるなって、クリストンが言ってた。僕もそう思う。悲しいのはわかるけど」
「ああ……。でも、自分が許せない時はどうすればいい?」
「わからない」
「そうか」
咄嗟に出た返事に、レダウスは困った顔をした。
本気でわからなかった。だって。
「生まれてこの方、僕は誰かを恨み続けてきた。それだけ、周りが悪かったのだと思う」
「そうだな。本当にすまなかった。……格好悪いな。俺は。なあ。どうすればヨナみたいになれる? 仲間もみんな強くて、自分の役割をわかっていて、活躍できる。今日も先頭で戦って、捕まった女たちを救った」
「うん。みんな、本当に頼りになる。でも、僕はまだまだだよ。格好良くなんかない。今日だってオーガと戦って怪我したし。それで助けられてばかりだし。……前だってそうだ。守れなかった人だっている」
また、ソフィの顔が浮かんだ。
「僕に憧れて、英雄に憧れて、死んだ女の子がいたんだ。彼女の死を、僕はたぶんずっと引きずると思う」
僕は英雄じゃない。ジェイザックの生まれ変わりでもないのに。




