6-32.レリュード
彼女の異能により、体の痛みが引いていくのがわかった。頭の出血も止まり、傷が塞がっていく。
「ヨナウス、横になったまま聞いてくれ。地下牢には何人もの娘が捕まっていた。牢屋を開けようにも鍵が見つからない。ヨナウスの力なら、扉を切断もできるよな? 後でやってくれないか?」
「ヨナ。わたしからも頼みがある」
扉の影からミレーネが顔を出した。
「最奥部に部屋があったが、入れない。ご丁寧に鉄で補強された扉があって、斧で破って入ることもできない。部屋に窓もないらしい。おそらく中に、施設の長がいるはずだ」
「レリュードと女の魔物?」
「たぶん。中にいるはずだ。耳をすませれば会話している声が聞こえた」
「立てこもっているのかな。逃げ場がないなら、捕まるのは時間の問題だろうけど」
扉を斧で破れなくても、外壁を壊すとかしていつかは侵入される。建物は兵士に包囲されて逃げ場はない。
地下に抜け穴を作っている可能性もあるけれど、悠長に会話しているのが不自然だ。
とはいえ、何か策があって逃げる可能性があるなら、さっさと扉を破った方がいい。
「僕の異能が欲しいんだね?」
「ああ。怪我をしている所で悪いが、頼めないか?」
「わかった。行く」
「ヨナ様!?」
「その部屋の中に地下牢の鍵もあるはずだ。早くみんなを出さないと。誰か棒を持ってない?」
「これを使って」
アンリが矢を一本、羽と鏃を折って床に置いた。カレンのおかげで傷はすっかり癒えていて、問題なく起き上がってこれを掴む。ちゃんと聖剣に変わった感覚があった。
問題の部屋は、確かに頑丈そうな扉をしていた。冒険者や兵士、そして村の男たちが忌々しげに睨んでいる。
村人にとっては、中にいるレリュードが憎くて仕方がないだろう。連れ去られた娘は、彼らの親しい人だったかもしれない。
僕が棒を振れば、扉はスパスパとあっさり切り裂かれて、いくつもの厚めの鉄板になって床に落ちていく。おお、というざわめきもそこそこに、兵士たちは扉だったものをくぐって中に突入した。
待ち構えていた敵が反撃する様子もなかった。
あまり広くない部屋に男と魔物の女。ふたりは同じ椅子に座って体を密着させていて、関係の深さが察せられる距離感を見せつけたいた。
女の方はさっき屋根で見た。男は初めて見る顔だ。
「レリュード! 貴様! ぶっ殺してやる!」
激高した村人が名を呼んで、彼が村長の息子だと判明した。がっしりとした体格の若い男は、こちらをじっと見つめている。その顔から感情は読み取れなかった。
それが癪に触ったのか、若い村人が武器を持ってレリュードに近づこうとする。けど、周りが止めた。レダウスも制止に参加していて。
「落ち着け! 気持ちはわかるが駄目だ! 捕まえて罪を償わせろ! それにここを使っていた貴族の身元を聞き出さないと! 奴らも捕まえる必要がある!」
ああ。もっともだ。こいつは殺してはいけない。
殺すべきだとは僕も思うけど。
逃げ場の無い敵を前にしての混乱に、女の魔物がくすりと笑った。そして。
「あの子と、あの子」
女がこちらを指差した。意味はわからない。けど、片方の指は僕を向いている気がした。
もう片方は、レダウスに? あの女は何を見ている?
「そうか。本当にありがとう。愛してるよ」
「ええ。わたしも。さようなら」
次の瞬間、女は天井に向けて飛び上がった。
屋根に開けっ放しの窓がついていた。抜け穴は上にあったのか。
レリュードの声には熱が籠もっていて、愛していると本気で言っているように聞こえた。
女の方は、どこか冷淡な言い方だった気がするけれど。レリュードに向ける目も、冷めていた。
アンリがすぐに弓を引いたが間に合わない。女は天窓から出てどこかに飛び去ってしまった。
兵士たちは即座に、残るレリュードに迫る。強引に押し倒して手足を縄で縛られている間、彼は一切抵抗しなかった。
こうなることを理解していたように。
「逃げようとしないの? 町に連れて行かれたら、間違いなく死罪になるけれど。あの魔物に抱えて飛ばなかったのはなぜ?」
レリュードのそばに行って尋ねた。僕を見たレリュードは、魔物に向けていた熱っぽい視線からは打って変わった冷たい目をしていて。
「小娘ならともかく、僕を抱えて長時間の高速飛行は無理だ。矢の餌食になる。それに、殺される覚悟はできている。最初からこのつもりだった。心残りはあるけれど」
どういう意味なんだろう。詳しく聞く前に、彼は兵士に連行されてしまう。
その時、気付いた。レリュードの左手の薬指に指輪がついていた。
さっき、女の魔物がつけていたのと同じに見えた。
「ヨナ。鍵があったぜ。これで牢屋を開けられる」
「あ。うん。村の娘たちを助けに行かないとね」
そうだ。やるべきことをやらないと。レリュードの真意なんて、兵士が取調べで探ってくれるだろうから。
地下に降りる。上で騒ぎが起こっていたことを、牢の中の娘たちは知っていたのだろう。不安げな表情をしていた。
「さっき降りた時、必ず戻るとは言ったけど。彼女たちはすがりつくように、行かないでと声を上げたんだ」
そう言うレダウスの姿に、娘たちは表情を明るくした。
助けに来てくれた英雄と見なされているのだろう。




