6-31.魔物の館
僕もすぐに向かうけど。
「うわっ!? 中暗い!? オークいた!? もふもふ頑張って! いや待って狭い! 一旦下がって!」
敵が潜んでいてアンリはピンチらしい。地下はそんなに広くなく、体の大きなもふもふが動くのは困難。もちろん敵であるオークも同じだろうけど、ピンチを悟ったアンリは慌てて後退しようとした。
助けに行かないと。駆け出したけど、背後から蹄の音が近づいているのに気づき振り返った。
外で戦っていたオーガとバイコーンが、こちらに攻撃するために建物内に入ってきた。アンリの方へ走ると、敵に追いつかれて背中を刺されるだろう。だから迎え討たなきゃいけないのだけれど、早くしないとアンリが危険だ。
「ヨナウス! あの子は任せろ! 俺たちで助けに行く!」
レダウスの声。見れば、クリストンとカレンを引き連れて階段の方へ駆けていた。任せていいのかと心配にはなるけれど、現状そうするしかない。
迫るバイコーンに向き直った。奴は頭を下げて、二本の角でこちらを突き刺そうとしていた。角の動きを見定めて、それに当たらないようにしながら僕からも聖剣を突く。
木の枝がバイコーンに深々と刺さり、同時に僕は馬の肩に当たる場所に強かに激突した。後ろに大きく突き飛ばされる僕と、致命傷を負って崩れ落ちるバイコーン。
オーガが落馬して床に叩きつけられる。けれどさすがは頑丈でタフな体らしく、すぐに起き上がって僕を睨む。
僕も構えないと。体中痛いけれど、ちょっと強めに打っただけだから問題ない。持っていた木の枝はバイコーンに刺さったまま。腰に手をやったけど、そういえば剣はティナに渡していた。
オーガが持っている棍棒を振る。回避すると、廊下の木製の壁がバリバリと音を立てて砕けた。
破片の中に、細長い木片を見つけた。しゃがんで掴もうとしたけど、敵もそれを許すとまずいと悟ったのだろう。床に伸ばした手に向けて棍棒を振り下ろした。僕は手を引っ込めたけど。床が砕けて木片は他の破片と混ざって行方不明。
「こいつっ!」
だったら聖剣なしで戦ってやる。
振り下ろされた棍棒に片足を乗せる。敵もすぐに棍棒を振り直そうと持ち上げたから、僕の体が一瞬床から離れた。
棍棒を蹴ってオーガに接近。そいつの鼻を思いっきり殴った。くぐもった悲鳴と共にオーガはよろけたが、すぐに僕に腕を伸ばした。大きな腕が僕の肩を掴み、みしりと音がした気がした。
引き剥がされまいと、片腕をオーガの首に回して掴みながら、片手を奴の目に伸ばす。親指でオーガの目を押して力を込めれば、嫌な感覚と共に眼球が潰れて液体が溢れ出して手を汚す。
悲鳴と、一際強い力。僕の体は再度オーガによって投げ出されて、床に叩きつけられた。オーガは目を押さえて後退っている。片目は無事で僕が見えているはずだけど、痛みや動揺でそれどころではないのか。
周りを見れば、細長い木片を見つけた。体中が痛むけど、なんとか立ち上がってこれを掴みオーガへ駆ける。振り払おうとする奴の片腕を避けて心臓を一突き。
巨体がぐらりと揺れて倒れる。それと同時に、僕の体もふらついた。
「あれ?」
戦ってる間は気づかなかったけど、額に生暖かい感覚がした。血が流れてるのかな。触れた手はオーガの体液まみれで、よくわからなかった。
「あっ」
意識が薄れていくのがわかり、その場で崩れ落ちていき。
「ヨナ様!?」
何度目かの地面との激突の前に、ティナが駆け寄って抱き止めた。
「ごめんなさいオーガにおひとりで立ち向かってるとは気づかないで! 呼んでくれれば助けにいけたのですけど! もう大丈夫ですから! カレンさん! ヨナ様が負傷しました! 出血しています! あ! ゾーラさん闇で包帯作ってください!」
僕の肩を支えて建物の奥まで向かうティナ。周りはだいぶ静かになっていて、戦闘は落ち着いたらしい。こちらが勝ったということか。
どこかの部屋のベッドに横にされる。ここは娼館であり、このベッドが何に使われていたかはなんとなく理解できた。
「大丈夫よ。出血箇所を押さえておけば、血はすぐに止まる。安静にしてなさい」
ゾーラが僕の髪をかき上げて傷口を確認。杖を振って闇製の包帯を作って巻いていく。もちろん応急処置で、後でちゃんとした包帯に変えるはずだ。
「アンリは無事? なんか悲鳴を上げてたけど」
「無事よ! 危なかったけど」
もふもふとアンリが部屋に入ってきた。元気そうだ。
「危なかった?」
「地下に牢屋がいっぱいあって、廊下が狭かったの。で、オークがそこにいて剣を振り回してて。反撃しながら慌てて後ろに下がったけど、もふもふがちょっと怪我しちゃって」
「大丈夫なの?」
「ええ! カレンが治してくれたわ! オークも、レダウスとクリストンが倒してくれた! もふもふの下をくぐってオークの近くまで迫って刺したの。オークはめちゃくちゃに剣を振ってたから、途中で牢屋の隙間に挟まって動けなくなって。その隙に、ぐさって」
「そっか」
みんな、ちゃんと戦ってくれたんだ。
「ラルフのためだよ。あいつが惚れた馬が傷つくなんて、悲しいじゃないか」
扉からレダウスが顔を出した。任せろと言ったことをしっかりやれて誇らしい。そんな顔だった。
「ありがとう、レダウス。本当にありがとう」
「兄として、弟の仲間を助けるのは当然だよ」
「あの。カレンさん。ヨナ様の怪我も見てください」
「ええ。わかりました」
余裕があるのか、聖女然とした口調のカレンが僕に近づく。




