6-28.魔物たちの拠点
それに僕自身についても。
「ここの村人の大半は、素朴に生きてきた良い人たちです。今後も真っ当に幸せなまま生きていける。大変なことはあっても立ち直れる。そのお手伝いができれば嬉しいと思いまして」
ティナは僕の頭を撫でながら優しく語りかけた。
この身に流れる父の血は、つまりジェイザックの血だ。血縁を恨む僕が、遠い昔に血を分けた、英雄の別の子孫にも同じ目を向けないとは限らない。
限りなく薄いとはいえ血の繋がりがあるレリュードという男が、詳細は不明だけれど魔物と手を組み悪事を働いた。僕がジェイザックの血をより恨むことにならないかと、ティナは心配したんだ。
血を恨んで、それが流れる僕自身にも恨みが向かないかと。
ジェイザックの子孫たちの村が幸せを取り戻して平穏な生活を送れるなら、僕も同じことをしていい。復讐だけがすべてじゃないと見せたかったのだろう。
「ありがとう、ティナ。助けられてばかりだね」
「いえいえ。近衛兵として当然のことです」
胸を張るティナが可愛らしく、自然と笑顔になった。
ラルフのことはすっかり頭から抜けて、レダウスに対処を任せきりになってしまった。説得に成功したのか、確認もできなかった。
翌朝。幸いにして夜間の襲撃は無く、兵士と冒険者の増援はしっかりと来た。
皆、やる気は十分。ここ最近の魔物の頻発とこの件が本当に関係しているのかは不明だけど、意思を持つ敵に初めて反撃できる機会を逃したくないのだろう。
彼らと、復讐に燃える村の若い男たちと共に森に入った。
レダウスはラルフをちゃんと説得したらしくて、森の中に入る一行に彼はいなかった。レダウス自身はクリストンやカレンと一緒に、列の最後方にいた。
とりあえず、昨日オーガと対峙した場所まで行く。そこからハレハが捕まっていた建物まで、あまり遠くはないらしい。どれ程の距離かは夢中で走っていたハレハ自身も覚えていないし、方向もわからない。
「ま、なんとかなるだろ。あんだけデカいオークの集団が走ってたんだ。足跡は大量に残ってる。草花が踏みしめられた跡もあるし、低いところに生えてる枝も折れる。方向はわかるぜ。あっちだ」
キアは確信がある様子で一方を指差した。確かに足跡がある。
「さすがだね」
「おう。もっと褒めていいぜ。でもこれ、アタシが先導して、アタシが最初に敵と遭遇するんだよな」
「大丈夫。僕が守るから」
「じゃあ、わたしはヨナ様をお守りしますね!」
「なによ。わたしだってヨナを守りたいわ! ティナだけずるい!」
「そうね。抜け駆けはいけないわね。みんなでヨナくんを守りましょう」
「なあ。アタシが一番危ないって話をしてなかったか?」
「みんな。静かにね。森の中だ。いつ魔物が襲ってくるかわからない」
騒いで、わざわざこちらの居場所を知らせる必要もない。
先導するキアに、僕と数人の兵士が同行する。ミレーネもいてくれた。
絶えず周囲を警戒しながらの進軍。敵の襲撃の他、罠を張って待ち構えている可能性もあるから、それも探さなきゃいけない。緊張が続いて、正直かなりきつかった。
しかし森は不気味なほど静かだった。やがてオーガと遭遇した地点を通りすぎ、さらに奥に進めば。
「あった。あれじゃないか?」
キアが小声で言いながら指差した方向には、少し開けた場所があった。確かに木造の建築物があった。一階建てで、それなりに大きい。屋根は平べったく、周囲の木々よりも背が低いために、森の中ではかなり近づかないと見つけられない。
地下にも空間はあるんだっけ。
建物の周りに、数十体ものオークとオーガがいた。オーガのうち十体ほどは、バイコーンに騎乗している。
オークもオーガも武器を持っていた。棍棒や、錆の浮いた古い剣など。中には弓を持っている者もいる。
こちらを待ち構えているかのように、整列して森の方を睨んでいた。こちらの存在には、まだ気づかれていないのかな。
「どうする? 一斉に襲いかかるか?」
「待った。兵の指揮官を呼んでくる。我々は森に守られている状態だ。位置的優位を捨てるべきじゃない」
ミレーネが静かに告げて後方に下がった。戦闘を今か今かと待ち構えている冒険者たちにも、落ち着くよう指示していた。
少ししてから前方にやってきた兵隊長も同じ意見らしい。最初に矢を射掛けて、こちらに誘い込んで討つ。敵の数が少なくなれば建物に入って中の少女たちを救い出す。
隊長が引き連れてきた弓兵と数人の冒険者たちが弓を構えた。もちろん、もふもふの上のアンリも同様。
「放て」
隊長の声と同時に弓が斉射され、木々の隙間を縫って魔物たちに刺さる。オーガの一体が落馬して、オークたちも何体もが命を落とすか負傷した。
魔物たちが弓を放って反撃したが、それは木々の硬い幹に阻まれこちらには届かない。次に、奴らは突進を仕掛けてきた。
「来るぞ! 迎え撃て!」
こちらに迫る魔物たちを睨みながら、皆武器を抜く。僕も落ちていた枝を拾って構えた。
騎乗したオーガ含めてこちらに突っ込んでくる魔物たちだけど、密度の高い木々に阻まれてまっすぐ走ることが困難で勢いは削がれていた。
さらにアンリたち弓兵が先頭にいる魔物へ矢を放てば、木々を避けるために速さを出せない敵はこちらに接近する前にこれを受けることになる。
負傷して倒れた魔物に後続が躓き、さらに突進が遅れた所に再度矢が襲いかかった。僕たち近接戦闘員も落ち着いて待ち構えることができる。
もちろん、いずれは敵の接近を許すわけで。
「歩兵は前に!」
号令に応えるように、前に出た兵士が一列に並び、盾を構えてオークの激突を受け止めた。




