6-27.レダウスと過ごす夜
すでに秘密が広まっているから、向こうが逆に守りを固めている可能性もあるけれど。それでも警戒は怠るべきではない。兵士や村人や、もちろん僕たち冒険者も協力して交代で森を見張る。
メインは、明日戦うことがない村人たちの仕事になるだろうけど。最初の方は僕もやったよ。
それにレダウスも。
交代の時間割を組む時に、一緒の時間になるように掛け合ってもらった。
夕食後の、人々の気持ちが一番緩む時間帯。ふたり並んで松明を持ち、森の近くに立つ。他にも見張りはいるが、近くにはいない。ふたりきりだ。
お互いの同行者も、ふたりきりにしても危険はないと判断したらしい。こちらを見る目はなさそう。
「あの子の作ったパン、本当に美味しかった。急遽作ったとは思えないよ」
夕食時に振る舞われたティナのパンは、レダウスにとっても満足のいくものだったらしい。少し興奮気味に話しかけた。
「元は王都で有名なパン屋の娘だから。設備と材料を選べる場所なら、もっと良いのを作れる」
「そうなのか。あれより美味しいものを。それは気になるな。いつか食べてみたい」
「いつか、ね。町に戻ったら、作ってもらえるか聞いてみる」
「そうか。楽しみだな」
自分が、もうしばらくレダウスと一緒に行動することを受け入れているのが、自分でも意外だった。
だからこそ、言わなきゃいけない。
「レダウスも明日、捕まった女の子たちの救出に行くの?」
「ああ。もちろんだ。人間と魔物が手を組んで悪事を働いているなんて、放置はできない。前例の無い出来事ならば、なおさらだ。王子として、国の中で何が起こっているのか見る必要がある」
「でも、危険だ」
「……わかっている」
レダウス自身、ついていって自分が貢献できるとは思ってなさそうだった。
見る必要と言っていた。力になりたいではなく。
「さっきオーガとバイコーンに遭遇した時、レダウスたちは何もできなかった」
「ああ。不甲斐ない」
「明日は、あれの集団と戦うことになる。悪事を働いている拠点に攻め込むんだ。敵の抵抗も激しくなる。危険だ」
「だけど、見たいんだ。大丈夫、自分の身くらいは自分で守れる。だから行かせてくれ」
「……」
本当に守れるかは怪しい。敵を前に震えるしかできなかった男が。
けれどレダウスには王子として、そして兄としてのプライドがあるのだろう。僕が前線に立って戦うのに任せるわけにはいかない、とかの。
「カレンがいれば負傷者を治せる。クリストンは俺よりも強い。もちろん、俺だって稽古を怠らなかった」
「師匠……ガリエル公爵の指導は受けなかったけどね」
「ああ。もったいないことをした。けど学園では剣術を頑張った」
レダウスは譲るつもりがない、そんな顔をしている。ため息しか出なかった。
「わかった。でも、ラルフっていう馬係だけは村で留守番をさせて」
「ラルフが? なぜだ?」
気づいてないのか。
「彼はバイコーンに見惚れていた。馬係として、あれを美しいと思ってしまった。できれば手に入れたいとか、世話して飼いならしたいと思ったのだろう。でもありえない。魔物は人間を害することしか考えない。だから危険だ。……それに明日、僕たちは美しいバイコーンを大勢殺すことになる」
「ラルフはその光景に耐えられない、か。わかった。確かにラルフは行かせるべきじゃないな。彼は置いていこう。俺が説得する」
レダウス一行の中で、ラルフが最も心配だった。それを留められたことは良しとしなければ。
本当はレダウスにも来てほしくないのだけど。そこまで説得するのは無理だろうな。
「ヨナー。そろそろ交代よ! ティナが夜食作ってくれるって!」
もふもふに乗ったアンリが近づいてきた。もうそんなに時間が経ったのか。
いやそれより。
「夜食? 夕飯食べたばかりだけど」
「村の人が美味しいって言ってくれたから、ティナが喜んじゃって。料理とかパン作りのことを教えてるのよ」
「いやいや」
明日はティナも戦いに行くわけで。そんなことして余計な体力を使う必要なんかないだろうに。
「きっと、村の人たちを元気づけたいのだろうな。最も簡単なのが食事の改善だ。それが村の復興に繋がると信じているのだろう」
レダウスが静かに言った。なるほど。それは確かに重要なこと。ティナはさすがだな。
僕より先にレダウスがティナの心情を読み取れたことに、なんかモヤモヤした気分になったけど。
ということで。とある民家のキッチンにいたティナの所へ急いだ。
「ティナ。頑張るのはいいけど、明日は戦いになるんだから。程々にね」
「はい! でもヨナ様にも美味しいもの食べてほしくて! 追加のパンも焼きましたよ!」
「あー。おいしそう。一緒に食べよ。で、一緒に寝よう」
「はい! ふふっ」
「なにさ」
「ヨナ様は、わたしに疲れてほしくないんですよね。お気遣いありがとうございます」
「うん」
「でも、わたしはこの村にも元気になってほしいんです。だってここは、ジェイザックの子孫が暮らす村じゃないですか」
「そうだったね。意識しないと忘れるけれど」
「村長さんの息子さんは、悪の道に逸れてしまいました。彼もジェイザックの子孫なのでしょう。けれどわたしは、子孫全員が悪人ではないと思いたいんです」
王族のことを言っているのは、すぐにわかった。




