6-26.村長の息子
やらせた人間は何者なんだ。こんな非道なことが出来るなんて。
「ハレハはそこから逃げ出したの?」
「そのようです。隙を見て、他の子と共に。全員ではないでしょう。捕まったままの子もいるらしいです。そして、大量の追手が来た」
「さっきのオーガ?」
「はい。それにオークの集団も。奴らによって、女の子たちはほとんどが再び捕まってしまいました。ハレハさんだけは村の近くまで逃げられました。けれどそのせいで」
「村そのものがオークと遭遇した?」
「はい」
それで今朝の襲撃に繋がる。
村に戻ったハレハに、森の中の娼館の存在が知られるのはまずい。そう誰かが判断した。オークの指揮を取っていたオーガあたりかな。
だったら村ごと消してしまえ。ついでに追加の女を攫ってしまえ。その結果、村は壊滅した。
「ハレハさんは木の陰に隠れて、生まれ育った村が壊れていく音と悲鳴を聞き続けた。それが収まったあたりで、森の中を探し続けていたオーガに見つかったと言っていました」
「なるほど……」
オーガはハレハを連れ戻したかった。だから、足元をチラチラ見ていたのか。
ハレハにとっては辛い出来事だ。牢獄から逃げ出したと思えば、自分のせいで村が襲われ家族も死んだ。
もう死にたい。彼女はそう言っていたそうだ。気持ちはわかる。
死なせるつもりはないけれど。
「ハレハは村の女たちに世話をさせます。立ち直ってくれれば良いのですが。攫われた他の娘たちも心配です。兵士さん、冒険者の皆さん、お願いします。村の娘が今も捕らわれているならば、助けてもらえないでしょうか。戦い続きになることは承知しています。しかしどうか、どうかお願いします」
村長が頭を床につけて懇願した。
兵士をまとめる隊長は渋い顔をする。
「村長さん、顔を上げてください。そうしたい気持ちはありますが、危険です。森の中は魔物だらけだし、どこまで中に入りこめばいいのか、敵の戦力はどれくらいか、情報がない。少なくとも、今の兵力では無理だ……」
「町に増援を頼むことはできるのだな? 半年前から町が把握していた事件の続報だ。動かないわけにはいくまい」
ミレーネが静かに語り、視線が集まった。
「わたしはこれから町に戻り、冒険者たちに声をかける。兵士が動かずとも、我々冒険者は動く。きっと助けに行くさ。おそらくこの件は、最近の魔物の大発生とも無関係ではないはずだ。冒険者たちもはりきって動く。明日にでも救出に動く」
本当に関係しているかは不明だけど、魔物の住む漆黒の森に大勢で挑むことに、冒険者が乗り気になるのは理解できた。
ミレーネがやる気になったのを見て、兵隊長も口を開いた。
「軍が動かないとは言っていない。大きな問題になりそうだから、上に掛け合って軍勢を送らせる。すぐにでも町に使者を送って、増援が来次第作戦に移る」
「ありがとうございます! 皆さん、ありがとうございます!」
村長は感激したとばかりに頭を下げ続けた。
僕たちも、村の娘の奪還作戦にには参加したい。とはいえ、敵の情報はもっと知るべき。それを聞いているはずのティナの方に視線が向く。
「大勢のオークとオーガが周囲を警戒しているそうです。バイコーンに騎乗したオーガもいるらしいです」
「さっきの襲撃に回したオークは一部と考えるべきね。その数倍の戦力を覚悟するべき。指揮官はいるの?」
「はい。建物を管理している、魔物と人間がいるそうです」
やはり主導している側にも人間がいたか。娼館に人間の客を呼び込むのは、同じ人間なのだろう。
人と魔物が手を組んでいる。驚くべきことだ。
「魔物の方は、ハレハさんを連れ去った羽の生えた女だそうです。人間の方は若い男性とのことでした。レリュードさん。そう、知り合いだったような口調で話していました」
なぜ自分を酷い目に遭わせた人間に、さん付けをするのか。みんな疑問を抱いた。
ただひとりを除いて。
「レリュードが?」
頭を下げ続けていた村長が顔を上げた。真っ青になっていた。
「ハレハは、レリュードで間違いないと言ったのですか?」
「は、はい。あの。どなたですか?」
「わたしの息子です……」
そういえば、村長の跡継ぎが行方不明って話を聞いたな。
魔物にやられたのではなく、自分の企みが明らかになるのを察して逃げたということか。
「申し訳ございませんっ!」
魔物と共謀して村の娘を拐かし、さらに村が襲われ壊滅した原因が息子にあると知って、村長は再度平伏した。
何に対しての詫びか。兵士の向こうにいる町の権力者なのか、あるいはここにいない死者たちにか。世間様に対してか。
今まで平穏に生きていた村長にとって、大変なことが一度に起こりすぎた。
息子が魔物と組んで悪事を行っているだなんて、この純朴そうな村長には耐えられないことだろう。この先息子が捕縛されたとすれば間違いなく死刑。父親である彼にも咎が及ぶ可能性もある。
「顔を上げてください。とりあえず、目の前の問題に対処しましょう」
声をかけてみるけれど、今度は顔を上げる気配はない。
これは彼の気持ちの問題だ。こんな息子を持ってしまったことが申し訳ない等の類の。だから他人が何か言って解決することじゃない。
落ち着くまで、そっとしておくことにして、他は解散となった。ミレーネと伝令兵がそれぞれ町に戻っていく。
「敵が再度襲ってこないとは限らない。見張りは頼んだよ」
ミレーネは僕にそう言い残した。空を見れば日が沈もうとしている。今度こそ村を全滅させるべく、魔物が大挙として押し寄せる可能性はあるからな。




