6-25.人語を話す魔物
一番寄り添ってあげるべきなレダウスは、クリストンと共に村の片付けに尽力していて、ラルフの方を見ていない。彼とて、理想の王族になるために努力しているのだろう。近くにいる友をあまり見れていないとしても。
ラルフの悩みを伝えてあげるくらいは出来るかな。そう考え近づこうとして。
「皆さん! あの! ハレハさんから話を聞いたのですけど、ちょっと大変なことになってしまいました!」
ティナが出てきて、僕は動きを止めた。
「大変なこと?」
「はい! 他にも捕まっている女の子がいるそうで。彼女たちは、えっと。その」
僕の近くに来たティナは、背後に回って僕の両耳を手のひらで塞いだ。
「いや。なんでさ」
「ヨナ様にはちよっと刺激が強いかなと思いまして。教育に悪いです」
「そこまで話しておいて聞かせない方が教育に悪いよ。教えて」
「は、はい。ええっと。兵隊さんの偉い人にも伝えなきゃいけません」
「どうして?」
「捕まっている女の子たちを救うのに、それなりの規模の部隊が必要になります。魔物たちが徒党を組んでいるので」
僕たちとレダウスたち、さらにミレーネ。そして駆けつけた兵士の指揮官と村長をはじめとした村の指導者層を集めた会合を開くことに。半壊した村長の家に集まる。
証言をしたハレハは、疲れからか再び眠っているそうだ。
まずティナが村長に確認する。
「半年ほど前から、村の女の子が行方不明になることが連続している。ハレハさんもそのひとりで間違いないんですね?」
「あ、ああ。何人も姿を消して、帰ってこない。探しても見つからない……」
「漆黒の森の中にいます。この村の他、近隣の村からも少数ですが連れてこられた女の子がいます。みんな、嫁入り前の若い、というか小さな子供たちです」
「近隣の村から!?」
「いや、確かだろう。そういう報告を聞いた覚えがある。最近は行方不明が出なくなって、捜索規模も縮小されたが」
兵士の隊長が静かに言った。
女の子が消えたのは半年前のある期間に集中していて、その後は新たな行方不明者はいなかったと。
彼女たちは人知れず森の中に連れ去られた。
「連れ去ったのは魔物とのことです。空を飛べる女の魔物に、ひとりでいるところを攫われたと」
「女の魔物?」
「はい。青っぽい肌に、頭から生えた角と背中の羽で、明らかに魔物だとわかります。けれど容姿は人に近くて、女っぽい顔だったと」
僕はなんとなくゾーラの方を見た。歴史学者である彼女は少しだけ考えて。
「記録には残っているわ。かつて行われた、人間と魔物の戦争の中で、女の魔物を見たという証言が記録されている。大昔のことだし、詳細な容姿は不明。でも、ありえないことではない」
「さらに、その魔物は言葉を話していたそうです。大人しくしなさいと、攫った際ハレハさんに言ったようです」
「え」
ティナの説明に、さすがにゾーラも目を見開いた。
前にも話した通り、会話をする魔物は確認されていない。けれど、いると推測されている。魔物を指揮している者がいるなら、高い知能と言語能力があるべきだ。
その個体が確認されたことへの驚き。
「ハレハさんは森の中の建物に連れ去られたそうです」
「建物?」
「粗末な小屋ではなく、それなりに大きくて中に部屋がいくつもあるそうです。地下には連れ去った女の子たちを閉じ込める牢獄もある。聞く限り、ホイさんがいたような自称神殿よりもずっと手が込んでいると思われます」
あの神殿は大部屋がひとつあるだけのシンプルな造りだったから。
ティナの例えを、僕たち以外はもちろん理解できない。
とにかく、攫ったハレハたちを捕らえておく場所は、森の中に建てた割には立派なものだった。
「周りを複数の魔物で警備していて、人が入るのは困難な状況です。許可を受けた人間なら入れるそうですけれど」
「うん?」
ちょっと待って。
「魔物が女の子を拐って、魔物が守る施設に捕えている。そこに人間が許可を受けて出入りしている?」
「はい」
「魔物と人間が襲い合うことなく、共に何かをしている?」
「ハレハさんの証言では、そうです」
ゾーラを見れば、信じられない様子で首を振る。
けど、事実なら受け入れるしかない。
では何をしているかといえば。
「訪れる人間は、上等な服を着ていたらしいです。彼らを相手にハレハさんたちは、その、娼婦のようなことをさせられていたと。もちろん、無理やり。服も着せてもらえずに」
ティナがさっき、耳を塞いで来たのはそういう理由。
今更だよ。そういう物があるのは知ってるし。
確かに子供に聞かせる話じゃないけど。
もちろん、ハレハみたいな子供にそれを強いるのは許されざる非情行為。しかもハレハだけではなく、捕らえた他の娘にも同じことをしている。
魔物に囲まれながら、人間を相手に。
娼婦ということは金を取っていたのだろう。訪れる客が上等な服をしていたということは、近隣に住む町の貴族だろうか。
普通の娼館にはいない、小さな女の子たち。それを買えるとなれば、大金を払う物好きもいるのだろう。
変態どもめ。
「辛いし、怖かったでしょうね」
「うん。暴力も受けたいたようだし」
彼女の体にあったとされる大量の傷や痣は、大半が娼館に来た男につけられたものだろう。きっと僕の想像通りの扱いを受けていたのだろう。
小さな女の子には過酷すぎる。




