6-17.二等級の強さ
けど、それよりすごいのが。
「おりゃっ!」
槍をひと振り。ミレーネは地面で身構えるホーンラビット三体をまとめてすくい上げるように飛ばして、クリストンと同じように木に激突させた。三体まとめて、より短時間で。
「慣れてますねー」
「うん。普段からやってるって動きだよね」
「ウサギたち、みんなミレーネさんに襲いかかってますよ」
「あの人が一番脅威で、倒さないといけないって認識したんだね」
「それに動じず、全部返り討ちにしてるのがすごいです」
「二等級ってさすがだなあ」
多くのホーンラビットをひとりで片付けたミレーネ。槍を構えたまま、他の敵がいないか周囲を警戒する姿も様になっている。
辺りには角付きウサギの死体が一面に転がっている。動いているのは見当たらない。
「キア。まだ来そう?」
「いいや。森に動きはない。静かなもんだよ」
「わかった。レダウス、大丈夫?」
「大丈夫……ではない、かもしれない」
「そっか」
戦闘が終わったにも関わらず、彼は振りもしない剣を握ったまま震えていた。
小さなウサギでも、全開の殺意で襲ってくるのは怖かったか。敵の角は鋭くて、刺されば傷を負い下手すれば死ぬのは明らか。
「あの。みなさん怪我はありませんか? 治しますので。わたし、それしかできなくて……」
カレンが僕を見ながら遠慮がちに言った。一応、こちらに気を遣っているらしい。戦闘はなにもできず、警戒すべき僕とその仲間に頼りきりになっていたことを気にしているのだろう。
僕たちは誰も怪我をしていないようだった。レダウスの仲間も、アンリともふもふが守ったから無事。カレンは所在なさげに俯いた。
「お前も何か武器を持ったほうがいいぜ。自分の身くらいは自分で守らないと。大好きな王子様が、治せない怪我を負うのを見る前にな」
「なっ!? なにを不躾なっ!」
まだ木の上にいて周囲の警戒をしているキアに言われて、カレンは顔を真っ赤にして怒りを見せた。
それは役立たずと言われたからか、レダウスの死なんて最悪の想像をさせたからか。あるいは、大好きな王子様って言葉のせいか。
「こういうナイフなら、その細い腕でも扱えるだろ? なんなら町で、合うナイフを選んでやろうか? この町なら品揃えいいだろうし」
「余計なお世話です! あなただって木の上で口を出すだけで戦ってないじゃないですか!」
「ほら」
「ひっ!?」
木を登って攻撃してきたのがいたのだろう。いつの間にか仕留めていたホーンラビットの死体を落とす。目の前に音を立てて落ちた血まみれの死体に、カレンは悲鳴をあげた。
「アタシだってちゃんと戦ってるぜ。周りを見張って、この魔物は食えないかって考えながらなー」
「魔物を食べる……野蛮な……」
「ははっ! 森で生きるには必要な考え方だよ。お嬢様育ちにはわかんねえか?」
「あなた! 人のことを馬鹿にするのもいい加減にしなさい! わたしはっ!」
「カレン。そこまでだ。ろくに戦えず、ヨナウスたちに助けてもらったのは事実だ。俺たちは足手まといなんだ」
怒るカレンと、やはり怒ってキアを睨むクリストン。仲間たちを、レダウスは宥めようとしていた。
「キアも。そこまでにして。喧嘩しても意味ないよ。あと、キアも別に魔物を食べたいとか思ってないでしょ」
「だなー」
キアの方は涼しい顔で木から飛び降り、僕の隣に来る。新たな敵が来る気配はない。
衝突はしないけれど、なんとなく気まずい空気が流れた。ずっとこんな調子だ。
「よしっ。じゃあ予定通り、村まで行こうか。道中にも魔物がこんなに出ているんだ。村も襲われているかもしれない」
「ミレーネさん。見ての通りレダウスたちは」
「わかっている。いざとなれば、わたしが守るから。心配するな」
「でも……」
彼らは引き返させた方がいいんじゃないか。レダウスの方も同じ思いのはず。けれどミレーネは取り合わない。
「一緒にいた方が、彼らを守れるだろう? お前たちも、今から町に戻るよりは弟たちと一緒にいた方が安全だ。お前たちだけで町に戻ると、その途中で魔物に襲われるかもしれないからな」
そう言われれば、彼らもついて行くしかなくなる。
今日はとりあえず、近くの村の様子を見るだけ。戦闘が起こらなくても、夜までに町まで戻る方針だ。
レダウスたちは、何も起こらないことを祈っている様子。
「ヨナ。さっきは悪かったな。あいつらを怒らせて、喧嘩したいわけじゃねえんだ」
歩いている途中、キアが隣にきて話しかけた。
「わかってるよ。キアなりに心配してたんだよね」
「ああ。男たちはいい。腰が引けて戦えなくても、戦いに慣れれば動けるようになる。武器もあるからな。でも女の方は駄目だ。怯えてるだけで、何もしようとしない。小さいウサギちゃん相手だから無事だったけど、相手が悪けりゃ死ぬ」
「僕も同感。何か武器を持つべきだ。そうじゃなくても危険なのに。ミレーネは何を考えてるんだろう」
「一緒に戦えば仲良くなれるってことだろ? ヨナと兄貴だけじゃなく、アタシたち仲間同士の繋がりも強くしたい」
今のところ、うまく行ってるかは微妙だけど。ラルフとアンリは相変わらず仲が良さそうだけど、カレンもクリストンも僕たちを警戒し続けている。
「ま、何があっても守れる自信があるんだろうさ」
「さすがは二等級だね」
「頼れるな。ヨナたちのこと考えて、世話焼いてくれてるんだぜ」
「感謝してるよ。やり方が強引でもね」
魔物との戦いの前線地ならば、強引なやり方が利口な方法になることもあるのだろう。うまくいかせるだけの実力にも恵まれている。
ミレーネはこうやって人望を集めてきた。僕たちの先頭を堂々と歩くミレーネの背中は、確かに頼もしかった。
すると、その背中の向こうに何かおかしなものが見えた。




