6-16.ホーンラビット
というわけで早速出かける。
町の外を森の外周部に沿って歩けば。
「れ、レダウス様! そっち! そっちに行きました!」
「わかった! なんとかする!」
「いいやレダウス! 俺が叩き落とすから止めを刺してくれ! うわ空振った!? レダウス避けろ!」
真っ白でモコモコのウサギがレダウスに飛びかかる。ウサギの額には長い角が生えていた。
ホーンラビットと呼ばれているらしいその魔物は、狙いを外してしまったクリストンの剣を一瞥もせずに、まっすぐレダウスの心臓に角を刺そうとして。
「あー。もう。みてられないわ!」
アンリの放った矢に胴を貫かれて死んだ。矢の勢いで死体の軌道が横に流れ、角の狙いも逸れてレダウスは無事。
空中にいたから、ホーンラビットは回避ができない。クリストンの剣が当たらなかったのは、単に彼の腰が引けていて狙いがブレブレだったから。
クリフは剣こそ抜いているものの、腕はブルブル震えて振れそうもなかった。カレンに至っては武器も持っていないらしい。男たちの後ろに隠れてオロオロするだけ。けれどウサギはカレンの背後にも容易に回って襲いかかるものだから、結局逃げ回ることになっている。
当然だけれど、戦闘経験がないんだな。学園では対人戦の訓練くらいはしているだろうか。でも魔物を相手にした実戦訓練なんてするはずがないよな。
ミレーネについていって近隣の村まで見回りに行き、魔物に襲われてそうなら助ける。その道中で魔物の群れに遭遇したというわけだ。
ホーンラビットは、さほど強い魔物ではない。普通のウサギの大きさしかないし、武器も角だけ。その角は鋭くて刺されば大怪我しかねないけど、それだけ注意していればいい。
けれど群れで大量に襲いかかってきたら、さすがに脅威か。人間に対しては殺意を隠さず挑むわけだし。鍛えられた脚力で心臓を狙ってくるウサギは、戦いに慣れてない者には怖いよね。
レダウスたちを同行させたのは間違いだったかもと思い始めてきた。
「おーい。王子様。また新手が来るぞ。一斉に飛びかかって来るから注意しろよー。おっと」
漆黒の森の端の木の上からキアが声をかける。木登りして襲いかかろうとした、気合の入った一体を足蹴にして落とした。ウサギって木登りできるんだ。魔物だからかな。
警戒しろと言われたレダウスは顔面蒼白になった。
「新手ってどれくらいだ!? というか見てるだけじゃなくて助けてくれ! あと俺だけじゃなくてヨナウスも王子だろ!」
「ヨナはヨナだ! ヨナたちが本当にやばくなったら助けにいくぜ。数は、二十匹くらいかな」
「そんなに!? 俺たちも助けてくれないか!?」
「やだよ。せっかくスカート新しくしたのに、引っかかって破れたら大変だ」
それが木から降りない最大の理由か。まったく。
「アンリ、助けてあげて」
「ええわかったわ! もふもふ!」
馬を走らせるアンリ。森から出てきてレダウスたちに一斉に飛びかかるホーンラビットたちに、横からぶつかっていく。白い毛玉が黒い馬体に激突してボトボトと地面に落ちていった。
もふもふはさらに、ウサギたちを踏み潰していった。重い馬だから、小さなウサギにはそれだけで致命傷だ。アンリも、動けなくなったウサギに上から矢を射て的確に殺していく。
「た、助かった。ありがとう……」
「馬をこんな乱暴な方法で使うなんて。いや、戦場ではこれが正解なのか……」
「みんな安心するのは早いぞ。まだ敵が来るはずだ」
クリストンは、騎士としてのプライドを振り絞って剣を構え続けた。
レダウスたちが戦意を喪失しているのに比べれば、よくやっていると思う。実際、倒れたホーンラビットが復活して飛びかかってくるのに気づき、蹴飛ばして木に当てた上で剣で刺して殺していた。
「アンリはそのままレダウスたちを守って! キアも、危なそうなら降りてきてね!」
「おう! ヨナ、そっちに新手が向かってるぞ」
「わかった。タイミングを教えて」
「もうちょっとだ。あと少し……今だ!」
こちらからもホーンラビットの姿が確認できた。十体くらいが走ってきて、木々の隙間から一斉に飛びかかってきた。木々の密度が凄まじいから、地面からだと直前まで姿が見えないのが厄介だ。
飛びかかるということは、空中で攻撃目標を変更することはできない。僕とティナとミレーネは後ろに下がった。心臓を刺そうとしていたウサギの狙いは外れた。
ゾーラはといえば、目の前に闇のカーテンを展開。それに受け止められたウサギをそのまま包んで、地面に落とす。カーテンの中でジタバタするウサギを闇の球体で殴って殺していた。
彼女の横を通り抜けたウサギが、背後から攻撃を仕掛けようとした。改めてこちらに飛びかかろうとする者もいる。
ティナと僕とで、ウサギたちを踏み潰したり、飛びかかってきたのを剣で叩き落として数を減らしていく
「ふふっ。さっき騎士さんが、ウサギを叩くのを失敗してましたよね! ヨナ様は完璧にできて素晴らしいです!」
「ありがとう。ティナも上手だよ」
「えへへー。ですよね! どんどん頼ってください!」
「うん」
レダウスたちに悪印象を持ってはないティナも、戦闘の場での体たらくには思うことがあるらしい。それでも、僕の背中を守るのに専念して、彼らを助けようとはしないのがさすがだ。
「あの人も、慣れたらできるようになると思うけどね」
「ですねー。騎士の家なだけはありますね」
実際、クリストンは勇敢だった。体も大きく力もある。飛んできたウサギを手で掴んで木に投げて、幹に血の跡を作っていた。
いまだに何もできないでいるレダウスたちを守るように奮戦していた。




