6-14.レダウスといっしょ
けれど、なんとかしなければいけない。それだけは一致していた。
「王の器……」
ふと、頭に浮かんだ言葉が口から出た。
「え?」
「死ぬ直前、グラドウスが言っていた。僕には王の器なんかないと。でも、父上にもないと思う。グラドウスにもなかった。師匠……ガリエル公爵はテナンドウスこそ次の王に相応しいと見ていたけれど、それも違った。レダウスはどう思う? この国の王になる器を持っているのは誰?」
「それは……ジグドウス兄上かリードウス兄上のどちらかという意味か?」
「姉上のどちらかでもいい。本当に王位継承者の男児がいなければ、姫が婿を取った上で女王として君臨するのは歴史上あった。それか……レダウス自身でもいい」
「そんなことはできない!」
食い気味に否定された。兄や姉を差し置いて、自分が王位に就く発想はありえないのか。
絶好のチャンスなのに。僕の存在を利用して、他のきょうだいを皆殺しにすれば、自分が王になれるのに。
やっぱり、レダウスは。
「器を問うなら、俺にだってそんなものは無いはずだ。ヨナウス。馬鹿なことはやめてくれないか。家族の中で殺し合うなんて。悲しすぎる」
「向こうは僕を家族と思っていないよ」
「でもっ!」
「そこまでだ。両方とも譲れないことだってあるんだろ。とりあえず、わたしの家で血なまぐさい会話もやめてくれないか? 王様を決めるのを、こんな所でするのも無しだ」
ミレーネが強引に話を打ち切ってしまった。
「本当に、ふたりの話は大きすぎるし現実感がない。だから信じられないっていうのが本音だ。でもわたしは信じる。ふたりとも嘘をついてはないのは、わかる。で、ふたりとも自分の信念を曲げないこともわかる」
こちらのことをよく見ているな。理解しているからこそ、話し合いで解決できないと判断した。
どうにもならない。けど、ミレーネはからっとした笑顔を向ける。
「話し合いで解決できなくても、ふたりとも喧嘩したいわけじゃない。結構なことじゃないか。仲良くすればいい。そうすれば、お互い妥協点は見つかる」
「そうかなあ」
「そうですよ。妥協点が簡単に見つかるかは別として、おふたりは仲が悪いようには見えません」
「うーん」
たしかに、レダウスをこの場で殺そうって衝動は収まっている。
「心の中にモヤモヤしたものがあるなら、体を動かして発散すればいい。よしっ! しばらくふたりは一緒にいろ! 町で一緒に過ごせ!」
「……え? なんで?」
聞き返した僕。一方のレダウスは乗り気な様子。
「俺はいいと思う。ヨナウスのことを、もっと理解したい」
「ええ……」
なんでそうなるんだ。
「とりあえず年越しまでは、わたしの仕事を手伝ってくれ! 町を助けるためだと思ってな! ふたりとも、今夜の宿は決まってるか?」
「決まってないです」
「俺も」
「よし。一緒の宿に泊まれ。それも、これからしばらくな。ついてこい」
立ち上がったミレーネについていって部屋を出る。キアは、ようやく少し落ち着いたらしい。フラフラだけど自力で歩けるくらいにはなった。
外ではアンリと、ラルフと呼ばれていた男が親しげに話していた。
こっちは何があった?
「あ! ヨナ聞いて! この人すごいのよ!」
ラルフと仲良くなった経緯を教えてくれる。なるほど、王族の馬の世話役か。純粋に、もふもふの姿に惹かれたと言っていた。
ここが仲良くなったら、ますますレダウスを殺しにくくなる。今すぐやる気はなくても、選択肢としては常にあった。
でも、彼らが悪人でないことも受け入れなきゃいけないらしい。カレンとクリストンは相変わらず僕を警戒しているけれど、それも純粋な忠義心によるものだから。
ミレーネはこの町の冒険者の顔役として、訪れた冒険者の世話を積極的に焼いているらしい。魔物との戦いの前線であり、戦力は貴重だから。来た相手は逃さないという意志を感じさせる。
すっかり夜だけれど、こんな時間まで開いている宿はあっさり見つかった。ミレーネがよく案内する宿であり、主人も慣れた様子で案内してくれた。
ミレーネとしては、男女別の部屋割で寝泊まりさせたかったらしいけど、それは一部が反対した。僕とレダウスを同じ部屋に入れることに抵抗がある者がいる。
僕もそのひとりだ。
結局、普通にパーティー別で別れることに。
僕たちには慣れたこと。
お金持ちのお坊っちゃんお嬢様のレダウスたちも、この選択を躊躇いなく受け入れた。女のカレンを含めてみんなで一緒に寝ることは、旅の中で何度かあったのだろう。
庶民の旅とはそういうもの。民の姿を見るために学園を抜けたのは、本当なのだろう。
一部屋のベッドの数には限りがあるから、僕も誰かと同じベッドで寝ることになる。
「誰がいいですかヨナ様。わたしですよね。ありがとうございます!」
「え。うん。ティナ、お願い」
「はい!」
「ねえ! そうやって押し切るの、どうかと思うわよ!?」
「そうよ! わたしだってヨナと寝たい! てかこの酔っ払いと同じベッドは嫌!」
「うえー。ここ、どこだー? なんか頭が痛い。吐きそう……」
「吐くなら外でやってきなさい! ベッドの上では絶対やめてね!」
「なんかさ、さっきヨナにナイフ盗まれた気がするんだよな。あと、ここじゃないどこかに寝かされてた気がする」
「どっちも気のせいじゃないわ。やってたの」
「水がほしい……」
「自分で飲みに行きなさい。井戸が裏手にあるから。ああ待ってあたしも行く。あんたひとりで行かせたら井戸に落ちそうだから。ほらアンリちゃん手伝って」
「いいけど。なんでキアのお世話なんかしなきゃいけないのかしら」
「まったくね。あたしだってヨナくんと一緒に寝たいのに」
ぶつぶつ言いながら、ゾーラとアンリはキアの肩を支えて外に出る。
賑やかだった部屋は静寂に包まれた。
「ヨナ様、疲れましたよね。お休みになってください」
「うん」
ベッドに横になれば、ティナもその横に寝転んだ。




