6-12.王族の馬係
さすが王族。馬専用の世話係がいて、それも貴族がやっているなんてね。
「この馬は見事だ。本当に格好いい」
「王様なんかにあげないわよ?」
「もちろんだ! そんなことはしない。ただ世話係として、この馬を放っておくことはできない。大きな体。黒々として艷やかな毛並み。力強い佇まい。凶暴な内面を隠し持っているのがわかるけれど、それを表に出さずに堂々とした態度でいる。外見も中身も完璧だ」
「ですって。もふもふ、褒められているわよ。良かったわね」
ラルフに褒められて嬉しいかは知らないけど、アンリの言うことは無視しないため、もふもふは短く鼻を鳴らした。
「残念なのは、毛並みがほつれている所だ。ブラッシングとか、普段はしないのかい?」
「体を撫でてあげることはあるわ。ブラッシング?」
「毛並みを整えるんだ。こうすることで馬はより美しくなる」
「もふもふに美しさなんて考えたことなかったわ。そのままでも格好いいし、可愛いし。それに、戦ってばかりだから毛並みなんかすぐに乱れちゃう。今朝なんかゴブリンにしがみつかれたのよ?」
「父が聞けば卒倒するね。こんな馬になんてことさせるんだって」
「もふもふは王様のお飾りなんかにはならないわ。わたしと一緒に英雄になるの!」
「わかっている。けど、馬だってブラッシングされると気持ちいいんだよ。体の汚れを落とす意味もあるし、やるといいよ。方法は教えてあげる」
「そうなの!? じゃあお願いするわ!」
「うん。まずは話しかけながら体を触る。自分に敵意はないって示すんだ。真正面に立つと警戒されるから注意すること」
「ふふっ。もふもふはね、強いから正面に人がいても、すぐに攻撃しないのよ」
「そ、そうなんだ。けれど立ち続けると、やっぱりストレスだから気をつけたほうがいいよ。側面に立って体についた汚れを……」
丁寧に説明するラルフと、熱心に聞くアンリ。打ち解けたようだ。アンリにとっては、ラルフは友達にしていい相手と思えたらしい。
クリストンの方は忌々しげに見つめていたけれど。
馬を見て口が出たとか、こんな気性の荒い馬を手名付けるなんて悪い人じゃないとか、仲良くなる根拠がラルフにはあった。クリストンには無いけど、友の楽しげな様子を止めるのも気が引ける。
そんな心情が伝わってきた。
こっちも悪人ではないのだろうな。
――――
父とグラドウスから城を追放されて、その後刺客を送られた。僕が異能に目覚めなければ死んでいた。
異能はどうやらジェイザックの聖剣に関係しているらしく、それについて調べる旅になった。旅の途中で騒動に巻き込まれて、結果としてグラドウスやテナンドウスの死に繋がった。
グラドウスは愚かにも自らドラゴンを王都に解き放ち、僕を王都に呼び寄せた上で殺された。テナンドウスは原因不明の火災から逃げる途中で、僕に襲われて死んだ。彼もまた、王家直轄領の外でやりたい放題していた。
とまあ、これまでの経緯を説明した。
「たしかに、ふたりの兄が愚かな真似をしていた。けど、殺したのはヨナウスの意思で間違いない、よな? ドラゴンや火災に巻き込まれたのではなく、ヨナウスがそれらに紛れて殺した」
「うん」
「なんでだ」
「両方とも僕を殺そうとしていたので。グラドウスは僕が邪魔だから。テナンドウスも僕を探して父に突き出そうとしていたから」
「だから、殺した?」
「そう。じゃないと僕が殺されていた」
聞いた話を自分の中で整理し受け止めようとするレダウスだけど、苦労しているようだった。
兄の死がそんなにショックか。
「このことを、他に知っている人は? つまり、父上たち王族以外で」
「ガリエル公爵家は承知している。その上で、僕を守ろうとした。今の王家に危機感を持っている公爵は、なにかあった時の切り札として僕を使いたがっていた。今も考えは変わらないだろうね」
領内で騒ぎが起きたから、一時的に僕を放り出した。けどしばらく経てば、戻っても受け入れてくれるだろう。
シャルロットを使い婿養子にする考えは、今も変わらない。それを受け入れるかは別として、公爵家は僕の味方だ。
「ガリエル公爵か。王家にも劣らない軍事力を持つ家。それがヨナウスの後ろ盾か」
その表現は正しいのだろうか。確かに公になっていないとはいえ、味方してくれている。だから間違いでもないか。
「レダウスはどうしますか? このこと、国に帰って父に告げ口しますか? 得意ですよね?」
「……」
僕の挑発に、レダウスの眉がぴくりと動く。隣に座るカレンは、膝の上で拳を強く握ってきた。レダウスよりこっちの方が怒りに震えてるって様子。
当人は、一度深呼吸をして、こちらを見据えた。
「言えない。ガリエルは大きな家だし強大な軍を持っている。王家と対立して戦にでもなれば、国は大きく乱れる」
そうなればいいのに。無能な王家では公爵家に勝てないだろう。王が失墜して国が変わるチャンスだ。
僕の内心など知らないレダウスが続けた。
「それに、俺は家の命令に背いてここに来ている。ここで見聞きしたことを王家に言えば、俺の立場が悪くなる」
レダウスは自分たちの置かれた立場を教えてくれた。
父は学園にいる子供たちに、外出禁止を命じた。兄弟の死の詳細も伝えられず家族に会えない事態に、リードウスは動揺しているしフィオーラは悲しんでいる。
そしてレダウスは将来のために、家に黙って学園を抜け出して、民の様子を見に来た。ご立派なことだ。
僕と鉢合わせたのは偶然らしい。




