6-8.ここでも英雄視
懸念を伝える前にミレーネは立ち止まった。
「ここがギルドだ。仕組みは他の町と変わらないから、気軽に使うといい。おいみんな聞いてくれ!」
そしてミレーネは止める暇もなく、ギルド内にいる冒険者たちに大声で語りかけた。
ミレーネはこの町のギルドでも一目置かれた存在らしく、彼女の言葉に皆耳を傾けている。
近くの村が大勢のゴブリンに襲われたが、旅の冒険者の活躍によって被害は抑えられた。しばらく町に滞在して町のために戦ってくれるらしい。
このヨナという少年は異能者で、なんと伝説の聖剣に例えられるほどの切れ味を持つ剣を作り出すことができる。魔物どもを次々に斬り捨てていた。
そんな紹介をしたら、冒険者たちもギルドの職員も、一斉に僕の方に集まってきた。
「本当か!? まだ子供なのに」
「馬鹿お前、ミレーネさんが嘘をつくはずないだろ!」
「異能なんだから年齢は関係ないでしょ?」
「おい少年。聖剣ってどういうことだ見せてくれ!」
「この町を救ってくれ頼む!」
「なんか……君は顔つきもジェイザックに似てるね」
「どういうことだ?」
「前にサラシオという町にいたことがあった。そこに建っていた子供の頃のジェイザックの像と彼はそっくりだ!」
「おお!」
「すごい!」
「おいおい……」
最後のは、勝手に盛り上がる冒険者たちに呆れるキアのつぶやき。去ったはずの町の出来事に再び遭遇したことへ困惑もある。
確かにサラシオに近い町だから、像を知ってる人もいるだろう。
あの町を出ても、像は僕にまとわり続けるのか。
冒険者たちは僕を、ジェイザックの生まれ変わりだと受け入れた。増える魔物の襲来に不安になっていた心に、英雄という心強い存在が来たことをあっさり受け入れてしまった。
「ジェイザック万歳!」
「これで町は安泰だ!」
ゾンビ事件を不安に思っていたサラシオの町と同じように、僕のことを英雄として受け入れてしまった。
聖剣が使えるって、そんなに重要なのかな。重要なのかもしれない。この地もまた、ジェイザックの伝説が色濃く伝わっている場所なのだから。
「後は任せる。僕はちょっと外に出る」
「え。はい。ヨナ様はなにを?」
「もふもふをモフモフする」
ミレーネの話に聞き入って盛り上がっている冒険者たちは、たぶん僕がいなくても元気なままだろう。
だから僕はサラシオと同じように、木の仮面を冠って逃げた。ギルドの表に繋がれているもふもふの近くに行く。アンリもついてきた。
「もふもふはね。首筋を撫でられると喜ぶのよ」
「あ。うん」
「こんなふうにモフモフするの」
「なるほど」
本当にモフモフするつもりは無かったのだけど、アンリに教えられて触れてみる。モフモフの毛並みが心地よい。
「ヨナも大変よね。あちこちで英雄って呼ばれて。すごく羨ましいけど」
「代わってみる? 人に注目されるの、すごく疲れるよ」
「代わってみたいわ! みんなに見てもらえるの、気持ちいいと思うの!」
根の性格の違いだなあ。というよりは、置かれている状況の差か。
逃亡者である僕は、目立つのはあまり良くない。さっきのギルドにはサラシオの町から来た冒険者がいた。じゃあ、王都出身の冒険者だっているだろう。ちょくちょく町に出ていた僕の顔を知ってる者もいるかも。
だから、人の注目を集めたくない。
アンリとは根本的に求めるものが違うんだな。
「でも安心して。ヨナが危なくなったら、わたしが守るから。それに……ふふっ。わたしがアンリーシャみたいにすっごく活躍して目立てば、ヨナはあんまり目立たなくなるかもね!」
「うん。そうなればいいんだけど」
これが両方にとって最善。実現するかはわからない。
アンリがこれでも、僕のことを考えてくれてるのは嬉しかった。
ギルド内は、急にやってきた希望にまだ盛り上がっていた。その中でもミレーネは職員に朝のことを話して報酬を貰い、ついでに僕たちにも報酬が渡されたらしい。手続きはティナたちに任せてたから、詳しくはわからない。
確かなのは、まとまった金を受け取れたこと。
「よっしゃー! これでもう文句ないよな! 飲むぞ! 今日は飲むからな! 誰もアタシを止められない!」
キアが元気だった。
いいけどね。今日はキアは大変だった。ちょっとくらい良いことがあってもいい。
「ミレーネがいい店紹介してくれるってさ!」
「ただの大衆酒場だけどね。冒険者が集まる場所さ」
「そっかー。仮面は外せないな」
「ヨナ様、あまりそう警戒することないと思いますけど」
「ううん。なんか嫌な予感がするから」
その予感は当たっていた。
人の噂が広まるのは早い。酒場には他の冒険者や市民たちが来ていたのだけど、みんな町に来た聖剣使いの英雄の話をしていた。
しかも、どんどん話が大きくなっている。睨んだだけで魔物を退散させたとか、ひと振りで数十体の魔物を殺したとか。
聖剣にそんなことはできないよ。いや、伝説の中の聖剣はできるのかもしれないけど、僕には無理だ。今のところ、めちゃくちゃ切れ味のいい剣でしかない。




