6-6.英雄の子孫の村
とにかく、しょうもない言い争いをするティナたちに呆れていたミレーネは、改めて僕たちの自己紹介を受けることになった。
「初めまして。あたしはゾーラ。王都で学者をしているわ。このパーティーのリーダーは、一応あたしってことになってる」
ゾーラが学術院の職員証を見せて説明する。王都の役人なのがわかって、ミレーネは少し驚いたらしい。
「学者先生でしたか。他の皆様はそうは見えませんが、一体どのような集まりでしょうか」
「旅の中で偶然集まって、あたしを守ってくれてるのよ。旅の目的は、あたしが国の各地を回って歴史学の資料を集めること。それから、彼の異能について調べるためにジェイザックの旅の足取りを辿っているわ。主に聖剣のあった場所を探すのが今の目的」
本当のことを混ぜた説明を行う。もちろん、僕が王族であることは隠している。ジェイザック旅路を知れたのに、ゾーラの師匠との血塗られた思い出があることも言わない。
僕は単なる王都のいち市民で、ある日謎の異能に目覚めたから学者先生を頼って、気になったから旅に出た、みたいな説明だ。
異能のインパクトが強いから、ミレーネは他の情報を何も疑わなかった。
「そうか。ジェイザックの伝説か。興味深い」
「あなたもそういうのは好き?」
「ヴォンネルの町の近くにも、英雄の伝説は残っている。魔物に捕らわれた少女を助けるために、ジェイザックは漆黒の森に入って戦ったと言われている。その娘と恋に落ちて、子を作ったとも」
僕以外にジェイザックの子孫がいる。驚くことじゃない。きっと、他の地域にも似たような話はいくつかあるのだろう。
やっぱり彼は女好きだったんだな。そういう伝説が残るほどには。一体何歳くらいの時の話だったんだろう。この場所、十二歳で旅立った故郷からそんなに離れてないよね?
「それって、アンリーシャと出会った後の話?」
「え? いや、そこまでは詳しくないが……」
「前の話よ。アンリーシャが出てくるのは、もう少し後」
「なーんだ」
アンリの興味は相変わらずだな。
村を襲ったゴブリンはいなくなった。引き続き警戒は必要だけど、僕たちが長居する理由もない。ミレーネはギルドに今回の件を報告するために町に戻るという。僕たちもついていきながら、話の続きをする。
「ジェイザックの子孫が集まる村というのが、町の近くにある。森に隣接していて、魔物との戦いの最前線になっている」
「それは興味深いわね。伝説の中でジェイザックが救った少女のいた村ってことかしら?」
「ああ。その少女が産んだ息子の血脈が代々続いている。だが、村の位置は一度変わったらしい。魔物多くの魔物に攻め入られて占領された際、近くに新しい村を立てたと。その時も、絶望に打ちひしがれる人々を、ジェイザックの直系の子孫とされる男は鼓舞して立ち直らせたそうだ」
「直系の子孫……」
それは僕のような王族に対して使われる言葉。けれど、この地方にもいるのか。あくまで、伝説が本当ならだけど。
「直系の子孫というのは、今も村にいるのですか?」
「本当かは不明だが、いるらしい。村長の家がそうとされている。昔からの記録は残っていないから、伝説でしかないが」
その家は僕と繋がりがあるってことなのかな。ジェイザックがいたのはずっと昔だから、本当に薄い繋がりだけど。
「その村に行けば何かわかるかもね。場所を教えてくれる?」
「いいだろう。明日にでも案内してやろう」
「いいの?」
「君たちは、さっきの村を助けてくれた。そのお礼だ」
「ありがとう。ついでに聞きたいんだけど、ラーゲリックの泉という地名に心当たりは? ジェイザックが聖剣を手に入れたとされる地だけど」
「ラーゲリック……いいや、わからないな。この地でジェイザックは、普通の武装で魔物を追い返したとされている」
「そう。森の中に泉があるって話も聞かない?」
「聞いたことがない。少なくともわたしや、知り合いの冒険者が入った範囲にはないはずだ」
「そう」
「すまない、力になれなくて。奥深くまで入れば見つかるかもしれないが、森には魔物が多い。危険だからな。奥に行けば行くほど、熟練の冒険者でも勝てない敵が出てくる。行くのはお勧めしない」
「忠告ありがとう。危険な橋は渡らないようにするわ。探し方は考える」
魔物か。僕の聖剣には、奴らを怯えさせて近寄らせない力もある
さっきだって、聖剣は使って、ゴブリンの動きを少しだけ止めた。
とはいえ、それだけだ。あとは切れ味がやたら鋭いだけの剣。
伝説の記述によれば、聖剣に備わった力はもっとあるはずだし、一度は王都でドラゴンを殺すのに使えた。あの光の筋だ。けれど、あれ以降一度も出せていない。
僕には使いこなせてないのだろうか。けれど、使えるようになれば漆黒の森の最奥にだって行けるはずだ。
「ヨナ様」
僕の方に手を置いて、ティナが優しい声をかけた。
「お気持ちはわかりますが、焦ってはいけませんよ。御身が何より大事です。安全を確保しながら、ゆっくり行きましょう」
「うん。わかった」
ティナの言うとおり。焦って突っ走ってはいけない。
僕が森に入れば、みんなついてくるだろう。みんなを危険に晒すわけにはいかないな。
「森は今、危険だ。さっきも言った通り、ここのところ魔物の活動が増えている。森から出て村を襲うことが増えている。町の兵士や冒険者たちも奮闘しているが、徐々に疲弊している状態だ」
「どこかに援軍を頼めないの? 領主を通じて他の土地から増援を手配するとか」
「今の領主は無能だ。安全な城壁の中に閉じこもって、外に目を向けようとしない」
「そう」
ヴォンネルの町も、どこかの貴族が領主として治める領地の一部。領地の中心部である城塞都市もあって、領主はそこにいるはずだ。




