6-5.ミレーネ
娘の方を見る。冒険者の女がゴブリンの一体を蹴り上げて、別の一体を槍で切り裂いた。そのゴブリンの体を踏みつけ押さえて槍を抜くと、女の子を片手で抱えあげて残りのゴブリンに槍を向ける。
片手で槍を振り回し、残るゴブリンたちを次々になぎ倒していく。やられたゴブリンは不利を悟ったのか、女に背を向けて逃げていった。
「アンリ!」
「ええわかってる! 蹴散らしちゃえー!」
もふもふに乗ったアンリが近づいているのを見て、呼びかける。それだけでアンリは意図を察して、逃げるゴブリンたちの背中に矢を射る。さらに追いついて、もふもふがゴブリンの体を踏み潰していった。
僕もアンリを追いかけたけど、出る幕がないうちにゴブリンは全滅した。
周りを見ると、生きているゴブリンは他にいないようだった。
朝からきつい戦闘だった。
「いい腕前だったぞ、少年」
女の子を助けた冒険者の女が声をかけた。既に母親まで娘を届けていたらしく、母娘が抱き合って泣いて無事を喜んでいた。
彼女はわざわざ、僕の方まで戻ってきたわけか。
その姿を改めて見る。髪の長い美人だ。着ている鎧は特注品らしい。所属を表す紋章が無いため、やはり冒険者なのだとわかる。
鎧の胸元の膨らみが体型に合わせて作られているならば、中は結構な大きさなのだろうな。
大きいのは胸だけではない。結構な長身だし、体つきもがっしりしている。子供の僕からすると威圧感がある。
歳は二十代半ばくらい。
敵意は向けてないのだから、臆することはない。
「ありがとうございます。助かりました」
「少年がいてくれたから、親子どちらも助けることができた。見ない顔だが、旅人か?」
「はい。王都から来ました」
「そうか。ところで……」
女は僕が持っている物干し竿に目を向けた。
「それが君の得物か? ただの棒に見えるが」
「ただの棒です。村の宿から借りた物干し竿です」
「なぜ剣を抜かずに、そんなもので戦った?」
僕の腰の剣を見て、女は怪訝な顔をする。もっともな疑問だ。というか、彼女が疑っているのは。
「さっきその棒でゴブリンを両断していなかったか?」
「はい。しました。この棒は、剣です。そういう異能です」
「異能か……興味深い。詳しく教えてもらえないだろうか」
「それは……」
異能について教えるのはいいけれど、向こうが興味を持つ理由がわからない。
珍しい異能だから惹かれたとかなら良い。けど、僕と王家との繋がりに気づくようならまずい。
まあいいか。王都から遠く離れた地だ。英雄ジェイザックゆかりの地であっても、王家には関わりは薄い。
話した感じでは地元の冒険者らしい。それも実力者。この地域で快適に過ごすために、強い冒険者の友達はいた方がいい。
僕も一応冒険者だからね。
「いいですよ。とりあえず仲間と合流したいです」
「わかった。そういえば自己紹介が遅れたな。わたしはミレーネ。二等級の冒険者だ」
「僕はヨナ。冒険者です。等級は……いくつだっけ」
「最初の十等級から上がってないわね、そういえば。色々してはいるけど、どうやったら上がるのかしら」
馬上のアンリが会話に入ってきた。ミレーネは、もふもふの巨体に驚き、それを動かしているのが子供であることに再度驚いた。
「ふふっ。はじめまして。ヨナの仲間のアンリよ。アンリーシャみたいな英雄を目指しているの! こっちは友達のもふもふ!」
「よ、よろしく。立派な馬だな。手懐けるのも大変だっただろう」
「そうでもないわ! 撫でてあげて、お話すればすぐに友達になれるわ!」
「そ、そうなのか……」
アンリはちょっと特殊すぎるから、参考にはできないよね。
けれどアンリはお構いなしに、ミレーネとも距離を縮めようとグイグイ迫る。
「ねえ、ミレーネはこの村の人なのかしら?」
「いいや。近くのヴォンネルという町の冒険者だ。近隣の村が魔物に襲われることが多いから、ギルドからの依頼を受けて見回りをしていたんだ」
「そうなのね。やっぱり漆黒の森から来ているのかしら」
「詳しいことは不明だが、そう推測されている」
「この村の人とは仲いいの?」
「そうだな。依頼でよく出向くことがあるし、顔見知りだ」
「よかったわ! ねえミレーネ、動物の革を誰かから貰えないかしら!? 巻いてスカートにできそうなやつ!」
「構わないが……君が使うのか?」
「いいえ! そこの屋根でお尻丸出しにしている仲間が使うの!」
キアが登った建物を指さす。一階建ての家の屋根の上にいて顔だけ出しているキアは、僕からは横顔しか見えない。馬に乗ってても、さほど変わらないとは思う。でも状況はさっきと変わらないんだろうな。
「なあ! 早く何か持ってきてくれ! ずっと降りられないんだけど!?」
「いいじゃないですかキアさん。高いところ好きですよね?」
「ふふっ。登って降りられなくなるなんて、猫みたいね」
「降りられないんじゃなくて! 降りたくないんだ! 見られるから!」
面白がってるティナたちと、困ってるキア。このまま見ていたい気持ちはあるけど、ミレーネが困惑しているから止めよう。
「みんな。ヴォンネルの町の冒険者と知り合いになった。せっかくだから話を聞こう」
ミレーネの知り合いの狩人から、余っている革の帯を譲ってもらった。投げて渡されたそれを、屋根上のキアは腰に巻いて飛び降りる。
「おー。いいな。新しい革にすると、なんか気分も一新した感じになるな! どうだ? ちょっと印象変わったか?」
「前と同じに見えます」
「そうか? 違いがわからねえなんて、ティナは意外におしゃれとか興味ないのか?」
「ありますよ! キアさんのおしゃれを理解できないだけです! というか! その格好でファッションを語らないでください! 同じ格好してるくせに!」
「同じじゃねえ。前よりほんの少しだけ、スカートの丈が短くなってる」
「なんでさらに痴女になってるんですか!?」
「痴女言うな! いやそれより! お前は代わりのスカート寄越さなかっただろ! なんの真似だ!?」
「ヨナ様ー。その女性はどなたでしょうか」
「あ! おい話しを逸らすな!」
「ヨナ様が連れてきた方のお相手が優先です! キアさんは今夜、お酒飲んでいいですから!」
「そ、そうか! じゃあ仕方ないな! 忘れてやるよ!」
いいのかそれで。




