6-4.革のスカート
ゴブリンは見たところ、百体あまりはいる様子だ。
それを聖剣となった物干し竿でザクザクと切り裂いていく。
「もふもふ! いっけー! みんな蹴飛ばしちゃえ!」
アンリの指示で巨大な馬がゴブリンの塊に向かっていく。次々に蹴飛ばされ踏み潰されていくゴブリンの中には、根性があってもふもふにしがみつく者もいた。
それを上から射殺していたアンリだけれど、面倒になったらしい。
「あの家のすれすれを走って!」
もふもふは近くの木造民家の外壁に、体を擦らないギリギリの距離で走る。ゴブリンは壁の角の所でぶつかって落とされるか、さらに根性を見せた結果、壁と馬体に挟まれて押しつぶされて体中の骨を折られて地面に落ちるか、壁を彩る血の染みに変えられていた。
その間も、馬上のアンリは周りのゴブリンを次々に射抜いている。
もふもふの力もあって、アンリは誰よりも多くの敵を倒していた。僕も負けてられない。
「ほらヨナくん! ゴブリンどもを足止めしておくから! どんどん殺して!」
ゾーラの声がした。複数のゴブリンが駆けてくるのを、闇の蔓で足元を拘束して留めていた。何が起こったのか把握されないうちに薙ぐように棒を振って奴らの首を切断していく。
必要がなくなれば蔓は消して、また別の目標の足元へ目を向ける。
「集中力がいる仕事だから、無理しないでね」
「ヨナくんは優しいわね。けれど頑張るわ。あたしだけ楽するわけにはいかないもの」
「そうですよ! あの! こっちのゴブリンもなんとかしてもらえますでしょうか!?」
「あんたは自力で倒しなさい」
「ゾーラ、手伝ってあげて。僕は大丈夫だから」
「ああもう! わかったわよ! ヨナくんの頼みなら仕方ないわね!」
ティナは二体のゴブリンに同時に対峙していた。
あんまり嬉しそうじゃないゾーラだけど、同時に飛びかかろうとしていたゴブリンの片方の足に蔓を巻き付ける。片方だけ眼の前まで迫ったゴブリンを、ティナは冷静に剣で叩き落として首を折り、もう一体も斬りつけて殺した。
「ありがとうございますヨナ様!」
「お礼を言うならあたしにしてよね!」
「ゾーラさん最初無視したじゃないですかー!」
「そうだけど! ほら次が来るわよ!」
「お、おい! こっちも助けてくれ! うわやめろ! スカート引っ張るな!」
大量のゴブリンに困っているのはキアも同じらしい。身軽さ重視でナイフくらいしか武器を持ってないキアはゴブリンに接近を許してしまっていた。
短い革製のスカートを掴まれて、脱がされないよう必死で抵抗している。
「頑張ってくださいー。脱がされたら色々丸見えになってしまいますからねー」
「あの下、裸なのよね?」
「そうなんですよ。ヨナ様の教育に悪いから、もっと露出の少ない格好してほしいって思ってるんですけど」
「今更だけど、あんな痴女みたいな格好して恥ずかしくないのかしらね」
「もっと厚着すればいいのに」
「おい! 話してないで助けてくれよ。ああもう! これが動きやすいんだよ! うおっ!?」
声をかけるだけで助けようとしないティナたち。やがて、スカートは脱げてゴブリンに持っていかれてしまった。
「なにしやがんだよ! こいつ! 死ね!」
キアは蹴りを放ったが、スカートを手に逃げていくゴブリンには当たらなかった。キアもまた、逃げるように近くの建物の壁へと言ってよじ登る。その際お尻が丸出しになってしまったけど、僕はあんまり見てないからね。
「なあ! 誰かスカート取り返してくれ!」
「えー。どうしますか?」
「やってあげよう。キアにずっと裸で過ごされても困るし」
「そうですね」
屋根の上に座って顔だけ出して、見えないようにしたキアの呼びかけに答えてやる。革製のスカートをヒラヒラと振りながら小躍りしているゴブリンの前に出た。
「アンリ手伝って!」
「ええ!」
ゴブリンの逃げ道を塞ぐと、奴は背中を見せて逃げ出した。その脇腹に矢が刺さる。
「あ。スカートごと射抜いちゃったかも」
「おい! なにやってんだ!?」
「粗末なものだし、別にいいでしょ!? 新しいのなんかいつでも手に入るわよ!」
「そうかもしれないけど!」
「新しいのは、もっと丈の長いのにしてくださいね! とりゃー!」
「それかスカートじゃなくてズボンスタイルにしなさい」
スカートごとゴブリンを斬りつけるティナと、やりやすくするようにスカートごと蔓で縛るゾーラ。
「やめろー! やめてくれもっと丁寧に!」
屋根の上で狼狽えてるキアの言うことなんか、誰も聞いちゃいなかった。
僕としても、これを機に新調してもいいとは少しだけ思ってるから、止めはしない。
ゴブリンたちはなおも村で暴れているけれど、かなり数を減らしている。殲滅も近いだろう。ティナたちが馬鹿なやりとりを出来ているのも、そういう状況から。
ところが、まだ油断できないのも事実で。
大きな悲鳴が聞こえた。向こうの家からだ。
「誰か! 誰かぁ! 娘を助けて!」
女の必死の声が聞こえる。そちらに走れば、ゴブリンが小さな女児を数人がかりで掴んで連れて行っているところだった。
家の中に押し入られたのだろうか。玄関先に出た母親らしき女が必死に周りに助けを求めている。彼女もまた何体ものゴブリンに取りつかれている。こっちもすぐに助けないと危険だ。
母と娘。どっちから助ければいい? 迷ってる暇は。
「君は母親を助けろ!」
知らない声がしたと思えば、人影が僕の横を通り抜けて女の子の方へ向かっていった。その後ろ姿は、長い髪をたなびかせた女のもの。高そうな鎧を身に着けている彼女は、冒険者のようだった。得物は長い槍。
明らかに僕へ呼びかけていた。だから駆け出して母親の方へ行き、木の枝でゴブリンたちを切り裂いていく。
ゴブリンは僕を脅威と見なして、母親ではなくこちらに飛びかかってきた。その体に物干し竿を振れば、空中でゴブリンの体がスパスパと切れていく。無残な姿となったゴブリンの欠片が、地面にボトボトと落ちていった。




