6-3.年末の雰囲気
レダウスは学園に入ってから、武の道が好きになった。そして前線で戦う冒険者のことが気になって、情報を集め始めた。彼らのことも好きにになったわけだ。
けれど、カレンに褒められることの方が好きだった。
当のカレンは、やはり不安が拭えない様子だった。
「レダウス様の仰っていることは立派です。王族として相応しいことだと。でも心配で」
「大丈夫。危険なことはしないよ。それに、困難に打ち勝つために鍛えてきた。ラルフたちも一緒だ」
「存じております。ですが……」
カレンは意を決した顔になった。
「お願いします! わたしも連れて行ってください! レダウス様を外に出すために、策を講じました。なのにわたしだけ留守番は嫌です」
「でも……」
気持ちはわかる。けど危険だ。説得しようとして、無理だと気づいた。危険は無いと、今言ったばかりじゃないか。
普段は大人しいカレンがここまで強く言うことは珍しい。
それに、レダウス自身もカレンと一緒に過ごしたいと考えてしまった。きっと楽しいだろうな。
カレンだって友じゃないか。それも誰より大切な。
「わたしだって武術の嗜みはあります。それに異能を使えば、万一傷を負っても治せます。だからレダウス様、どうか!」
「わかった。だから泣かないで」
「あ……」
カレン自身が気づかないうちに目にためていた涙を、そっと拭ってやる。
「ごめんなさい、わたし。あはは。泣いちゃいけませんよね」
「いいんだ。カレンが俺のこと心配してくれているのは、よくわかった。そこまで言われたら放ってはおけない。……一緒に行こう、ヴォンネルまで。漆黒の森の近くにある小さな町だ」
「はい!」
満面の笑みのカレンを見れば、俺は幸せだと心から思えた。
揃って庭園から離れて、他の友人たちを探す。今年の年越しは楽しくなりそうだ。
隣を歩くカレンがそっと手を握ってきた。レダウスは拒まずに握り返した。
――――
サラシオの町を抜けた僕たちは、西へと進路を向けて進んだ。
道中、ほとんど事件らしいことは起こらなかった。経由した町や村では、年末が近いこともあり、なんとなく忙しない雰囲気が漂っている。
「年末の雰囲気って、なんか好きだな」
「あ。ヨナ様もわかりますか? みんなそわそわしていて、今年のうちに仕事を終えるために頑張っていて、それでいて新年が楽しみで。なんかいいですよね」
「うん。そんな街の雰囲気が好きだった。慌ただしいけど、みんな楽しそうだった」
「新年ってそういうものなのか? アタシは毎日過ごしてたら、いつの間にか年が変わってたことしかない」
「キアは森の中で暮らしてたからよ。わたしも新年は好きよ。孤児院で出る食事が、ちょっとだけ豪華になるの。ほんの少しだけだったけどね」
「今年は、もっと良いものを食べましょう、アンリさん」
「ええ! そうね! 孤児院の暮らしよりも今の方が楽しいし!」
「今年はヴォンネルの町で年越しになりそうね。新年らしいこと、しましょうか」
「新年らしいことってなんだ?」
「伝統的な食事が出たり。大人はお酒を飲んで騒いだりするわよ」
「そうか! 酒が飲めるのか! そりゃいいな!」
「ほどほどにしてね」
「お酒を飲むのは、親類で集まった席で良い料理とかが出て、そのついでなんですよキアさん。わたしたち、そんなことしませんから」
「なんだよー。確かにアタシらは旅の途中。アタシやアンリに至っては親戚どころか家族もいねぇ。ヨナも似たようなもんだしな! けどいいだろ。アタシたちが家族だ。家族で集まって酒を飲む! それでいいじゃねえか! 酒を飲ませろー!」
「キアさんうるさいです!」
「今日の夕飯でも飲むぞ!」
「させません!」
ワイワイ騒ぎながら経由地の町を通過する。ここからさらに西に行けばヴォンネルの町だ。
新年か。僕も楽しみだよ。キアの酒癖は別として、ティナたちが家族だって考え方は素敵だ。
僕の家族はあんなのだから。新年を迎えても会いたいとは思わない。会ってしまったら、僕は間違いなく殺しにかかるだろうな。
こうした平穏な道程も、漆黒の森が近くなれば様相が変わってきた。
ヴォンネルの町にほど近い村に泊まった翌朝のこと。漆黒の森にも近い立地で。
朝から村をゴブリンが襲撃した。
「ちょっと!? なんですかこれ!? 村にゴブリンってこんなに来るものなんですか!? おかしいのではないでしょうか! 抗議します!」
襲いかかるゴブリンを剣で追い払いながら、ティナが騒がしく声を上げる。抗議って、誰にだよ。ゴブリンはそういうの聞いてくれそうにない。
別に答えを期待した質問ではないだろうけれど。
「まわりの村人の様子を見るに、滅多にないことだと思う! 少なくともこんなに多くゴブリンが来ることはなかったはず!」
「そ、そうですね! 確かに! 皆さん困惑してます!」
借りてきた物干し竿を振り回しながら答えた僕に、ティナは納得したようだった。返事をしながらゴブリンの一体を踏みつけて、剣で首を切断。
前線地だから、魔物が襲来自体は日常的にあったのだと思う。森の方に向けた見張りの塔が建てられてたし、背の低いものながら防護柵が用意されていた。
襲撃を受けた村人たちが武器を取って戦いに応じている。この対応を見るに、想定していたことではあるらしい。
ただし大軍勢が夜闇に紛れて接近して、起きがけの時間に一斉に襲いかかってくる事態は初めてのことらしい。
だから対応は遅れたし、抵抗も上手くできていない。既に襲われて犠牲になったり、連れて行かれた村人も数人いると、誰かが叫んでいる。
宿屋に泊まっていた僕たちも、見てるだけってわけにいかず、加勢しているわけだ。




