5-42.ゾンビの発生源
こちらにゾンビの注意が引きつけられて背後を見せた途端に、本部の兵士たちも門を開けて打って出た。槍や剣で素早くゾンビたちを無力化していく。
「サイラス様、よくぞご無事で!」
「状況を教えよ。ここに兵士は何人いる? 指揮官は?」
「それが、総司令がゾンビに襲われて帰らぬ人に。他の幹部もこちらに来ておらず。いくつかの部隊が町に出て市民の救助に向かいましたが、我々も行こうとしたところゾンビが押し寄せてきて」
返事をしたのは、周りの兵卒とあまり変わらない装備の兵士。部隊長くらいの偉さなんだろうな。
「わかった。これより私が指揮を取る。動ける兵士は全員出動だ。アンリさん、あなたも手伝ってください。戦える者はみんな動いてもらわないと」
「ええ! 任せて! 英雄の力、見せてあげるわ!」
「他の部隊と合流を急いで戦力の確保をしながら、冒険者ギルドへ向う」
そこでギルドマスターと合流。冒険者たちに協力を要請する。この状況で戦っている冒険者も多いだろうけれど、敵が多いから家から出られないのもいるかも。それを道中のゾンビを倒しながら訪問して外に連れ出して戦力にする。
なるほどね。わたしは、その先頭に立ってゾンビたちを蹴散らす役をすればいいのね。
「よし! やってやるわ! ゾンビたち全員、ぶっ殺してやるんだから! あ、もう死んでる人たちなのかしら! どっちでもいいわやってやる!」
ヨナたちが近くにいないから、ちょっと心細いけど。でも英雄ごっこに口を挟む人もいない。
もふもふを走らせて、目についたゾンビに当てに行く。
「ひゃっはー! わたしはアンリ! 伝説の英雄アンリーシャの名を継ぐものよ!」
その姿に兵士たちは驚き、また頼りがいを感じたようだった。
これなら、ゾンビたちを壊滅させるのも難しくはないと。
――――
アリンガム邸を出た僕たちは、スレンディル邸に向かった。
市街地に出てゾンビの数を減らすことも大事だけれど、そこは兵士が頑張っているはずだ。
僕たちは町の軍の指揮下にはない。有事に英雄のそっくりさんとして動くよう要請されているけれど、命令に従う義務はない。
どう考えても、スレンディルの屋敷がゾンビの発生源だ。昨日のお茶会でゾンビが出てきて、当主の押印によって運ばれてきたというのも無関係ではないはず。
ゾンビにされてしまったスレンディル当主が犯人だとは思ってないけど、なにか手がかりはあるだろう。
「おーい! そこの角! ゾンビだ!」
「わかった!」
近くの建物の柵の上にいるキアが知らせてくれたから、そちらに走る。出くわしたゾンビに、さっき拾った木の枝を振り胴体を両断。そのまま相手の体を蹴り倒してとどめを刺す。
ここは富裕層の住む区画で、建物同士の間隔が広い。キアは屋根から屋根へ跳び移ることはできなくても、屋敷の敷地を囲む木や鉄製の柵や、街路樹の上に乗って周りの状況を見てゾンビの位置を知らせてくれる。
ゾンビが登ってくることはないから、キアにとっては安全で楽な仕事らしい。
柵なんて、あんな細いものの上によく乗れるなあ。バランスを崩す様子も一切ない。
とにかくキアのおかげで、こちらもゾンビを楽に倒せている。
「そこにもいるぜ」
「うん!」
キアに指差された方へ駆ける。上等な服を着ているゾンビがいた。貴族の馬車の御者なんだろうな。馬車で逃げようとする貴族を待っている間に襲われたのだろう。
そいつの胴体を思いっきり蹴って、バランスを崩しただけで倒れなかったから、ぶん殴って今度こそ転倒させた。
そのまま聖剣で奴の体をバラバラにする。下の石畳ごと、まるでバターのようにスパスパと切り刻まれていくゾンビ。
なんで。なんでこんなに簡単に殺せる相手なのに。僕はソフィを。
「こいつ! このっ!」
「ヨナ様。そこまでです。もう動けません」
「あ……。うん」
ティナが僕の肩に触れる。バラバラの肉塊になったゾンビは微動だにしない。
「ソフィさんのことは残念でした。本当に無念です。けれどヨナ様。思いつめないでください。あなたは悪くありません。そして、やるべきことを忘れないで」
「うん」
深呼吸する。後悔は消えないけれど、それで立ち止まりたくはない。
やるべきことがある。
「ほら。スレンディルの屋敷はもうすぐだ。見覚えのある木がある」
「木に見覚えなんかあるんですか?」
「登ったからな! どう登ればやりやすいか観察したら覚えるだろ」
「その感覚がわかりません」
「屋敷の門、開いてたらいいな。もし鍵がしまってたら、柵を登って入らないと」
「そんなことはキアさんにしかできませんから! わたしたちはもっとスマートな方法で中に入ります!」
「スマートな方法ってなんだよ」
「ヨナ様が門を切り刻んでくれます! ね、ヨナ様?」
「え。うん。必要ならやるけど」
「それ、スマートって言えるか?」
「キアさんみたいに、人目につかない方法でこそこそ入るよりも、正門から堂々と入る方がスマートです。あと優雅で格好いいです!」
「人のこと馬鹿にするのはいいけど、全部ヨナの力に頼りきりなお前は格好悪いぞ」
「なっ!? なんてこと言うんですか!?」
「というかほら。門は開いてるぞ。普通に入れる」
「無駄な言い争いでしたね」
本当にね。
ふたりが僕のためにやっていたのは、なんとなく理解できる。だから冷静でいられた。
屋敷の中は荒れ果てていた。ゾンビが暴れたって感じだ。門と同様に屋敷の正面扉も開け放たれていて、そこから多くのゾンビが町に出たのだろう。
そして往来の人間を片っ端から襲って、新たなゾンビに変えていった。貴族の住む区画だから、最初に襲われたのは富裕層とその使用人たち。
あるいは町の施政を担う人たちと言えるだろう。そこが被害を受けて、無事だった権力者たちもゾンビから隠れて動けなくなる。さっきのサイラスみたいに。
だから町として有効な反撃が遅れ、ゾンビが広がる事態となった。犯人はこれを目論んでいたのだろうか。




