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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第5章 魔女の師

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5-38.点で描かれた楕円

 その日の昼のこと。相次ぐゾンビ事件にも関わらず、町の人々は明るい表情で日々を過ごしていた。


 何かあっても英雄が助けてくれる。ジェイザック様なら遠からず事件を解決してくれるだろう。平穏な日々はすぐに戻ってくる。

 無責任にもそう思い込んでいるから、住民たちは呑気に暮らしていた。


 サイラスたち町の為政者たちにとっては、それこそ望むこと。不安に駆られた市民が暴動を起こしたり、家に引きこもって町の機能が止まることを阻止できているならば上出来だ。


 町の中心部にほど近い市場には、今日も多くの人々でごった返して活気が溢れていた。

 そこに、生気が無くフラフラと彷徨うように歩く女がいたとしても、誰も気にも留めない。女が、スレンディル家のお茶会で暴れたゾンビの妻で、今も行方不明のはずの人物だとは、誰も気づかなかった。


「おい邪魔だ」


 その女に肩がぶつかって、男がひとり文句を言った。直後、女は大口を開けて男の腕に噛み付いた。


 悲鳴が上がる。男は女を振り払って自らの腕を見た。歯型がくっきりと残っていた。


 歯型は、点線で描かれた楕円。それがなぜか、急速に黒ずんでいく。


 何かおかしい。そう思う暇もなく男は全身を硬直させて倒れ込む。何事かと周りの人々が彼の顔を覗き込むと、男はすぐに起き上がった。

 ゆったりと生気を感じさせない動きだった。そのまま、近づいた者のひとりに掴みかかって暴力を振るう。


 ゾンビの動きそのものだった。


 たちまち周囲は大混乱に陥った。元々人が密集していた場所で、大勢が一斉に動いたものだからお互いがぶつかり合い転倒する者も多数。露天の商品に躓いて怪我をする者もいた。もちろん、ゾンビにやられる者も。


 そうやって動けなくなった者に最初の女のゾンビが近づいて噛み付いた。楕円形の歯型が残った彼らは同じく体を硬直させて、そしてゾンビのような振る舞いをして周囲に襲いかかる。また動けなくなる者が出てきて女が噛み付いた。


 こうして、ゾンビの数は際限なく増えていった。


 さらに同時刻、町の複数箇所で同じことが起こっていた。



――――



「ヨナ様! ヨナ様起きてください! 緊急事態です! 大変です!」


 気持ちよく眠っていたのに揺り起こされた。なんなんだ。


「またゾンビが出たそうです! それも百体近く! もっと増えるかもしれないらしいです!」

「え」


 確かに屋敷の中が騒がしい。それに外でも何か起こっている雰囲気だ。


 窓に駆け寄った。アリンガム邸の敷地の正面には立派な門があるのだけど、その鉄柵の向こうに十体ほどののゾンビの姿があった。

 中には上等な格好をしたお金持ちっぽいゾンビもいる。というか、あの顔は知っている。


「スレンディル家の当主? ヴァニアの父親だよね」

「ですね! あそこを見てください! 見覚えのある使用人もいます!」

「え? じゃあスレンディルの屋敷の人間がみんなゾンビにされたの?」

「全員とは限りませんけど! なんかこう、無事な人もいるって信じたいです!」

「そうだね」


 あの家の家族と使用人の顔を全員覚えているわけではないけれど、少なくとも奥さんの姿は見当たらないな。

 それにヴァニアも。彼女は無事なんだろうか。好きな相手とは言えないけれど、ゾンビになったら目覚めが悪い。


「彼らはなぜゾンビに?」

「わかりません。町内の各地に同時多発的に現れて、しかもゾンビに噛みつかれた人間もゾンビになったという目撃証言があったそうです」

「そんなこと、あるの?」


 疑わしいけど、実際そうなのなら仕方ない。


「サイラスさんに報告に走った兵隊さんがいて、わたしたちも状況を知れました。けれど直後にゾンビが屋敷に押しかけて」

「ああなったわけか」


 アリンガム家の使用人は、敷地にゾンビが入ってくる寸前に門を締めて侵入の阻止に成功した。しかしゾンビは暴行する対象である人間を求めて、鉄の柵で構成されている門を破ろうとしている。

 門の前では兵士と、アリンガム家で雇っているらしい数人の私兵が槍を構えてゾンビと対峙していた。けれど相手の方が数が多い。明らかに腰が引けている。門も今にも破られそうだ。


「門で足止め出来ている間に、敵の関節を狙って刺して無力化するべきなのに。なんでできないんだろう」

「遠慮があるのよ。相手は町の権力者。ゾンビになったとしてもね。知っている相手を傷つけるのには躊躇するものなの」


 ゾンビ集団の先頭にいるスレンディル家当主の顔を見る。正直、そんなに良い印象を持ってる相手じゃないけれど、そういうものかな。

 一度襲われたら、そんなこと言ってる場合ではないとわかるだろうに。


「あたしたちに、そんなしがらみは無いわ。だからサイラスは戦うよう頼んできた。さっさと行きましょう」

「ゾーラも何か焦ってる?」

「ええ。師匠が巻き込まれているかもしれない」


 アカナもスレンディル家とは婚姻関係にある。彼らがゾンビ化した現場にアカナもいたら、ゾンビになっているかも。


 もちろん彼女の寝泊まりする家は店舗であるあそこで、スレンディル家とは普段は別の生活をしている。だから彼女のゾンビ化の可能性は低い。けれど町全体が巻き込まれているのは事実だし、少なくとも彼女は家族を失った。

 師匠を心配する気持ちはよくわかる。


「そうだよね。行こう。アンリは先に行って、弓で攻撃して」

「ええ! もし門が破られても、もふもふで蹴散らしてやるわ!」

「アタシも先に行くぜ。やばくなったら木か柵の上に逃げるから助けてくれよ」


 アンリが部屋の扉に向かって、キアは窓から直接外に出た。

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