5-20.エグダインの行方
アカナはそこにも考えを持っていた。
「聖剣エグダインの行方は誰も知らない。この国を作った後、ジェイザックは生涯を王都で過ごした。晩年は戦いとも無縁な日々を送っていたわ。王都の周りに魔物はいなかったから。聖剣を抜くこともなくなり、周りもそれを意識しなくなった。そしてジェイザックが死んだ後、誰かがふと思い出した。聖剣はどこにあるのかと」
誰も知らない。見つけることもできなかった。だから本物の聖剣は今も行方不明。
「けど、今もどこかにあるのでしょうね。そして、力を誰かに与えた」
「そんなこと出来るんですか?」
「聖剣よ? それくらいの奇跡は起こせる。史実でも、エグダインはまるで引き寄せられるようにジェイザックの手元に来たと言われているわ。聖剣それ自体に意思があったとしか思えない」
剣が意思を持つ。伝説ではそうなっていたのだから、ありえないとは言い切れない。
「ただし、聖剣が何を求めているかは、あたしも知らない。なぜヨナくんなのかも。けど、聖剣の力はあなたに宿った」
「……」
きっと僕が子孫だから選ばれた。父や他の兄弟ではなく僕になった理由はわからない。
自分が王として相応しい器とは思っていない。聖剣を手にするべき人間とも思わない。
手にした理由も見当がつかない。
「ヨナくんがジェイザックに似ているからかもしれないわね。似た子供を選んだ。うん、ありえるわ」
なおも興奮した口調で話すアカナ。像があの顔になったのはアカナの趣味だけれど、彼女の中では本当にジェイザックは当時あの顔だったということになったらしい。
自分の立てた仮説は、ほとんど事実だと思おうとしている。
本当のことを話せない以上、僕も訂正はできなかった。
だから話を進めた。
「アカナさん。聖剣がなぜ僕に力を与えたのか、その理由が知りたいです。調べるにはどうすればいいでしょうか」
「それは……そうねえ。本物の聖剣を探すしかないと思うわ」
「本物の?」
「それで何かがわかるという確証はない。そもそも、聖剣が見つかる保証もない。けれど、他に手がかりがない」
「たしかに」
聖剣のことは、聖剣を調べなければわからない。
本物の聖剣を手にするのが一番というのは、なんとなく理解できる。
旅の、次の大きな目標が決まったな。途方もなく大変なことになりそうだけれど。
聖剣を探すにしても、その手がかりがそもそも無いし。
「何日か待ってて。ジェイザックがどんな旅をしてきたのか、足取りを地図にまとめてあげるわ」
「ありがとうございます」
何日か。ありがたいけれど、その間僕は町を出ることができない。町の人間が出してくれないらしいけど、強引にでも脱出するのも、数日待たないといけない。
その間、町の人たちは僕を英雄と呼び続ける。居心地の悪い日々を送るのか。そしてゾンビと戦わされる。奴はまた出てくるだろうから。
自然に溜息が出てしまった。
アカナとヴァニアに見送られて家を出て、町長の屋敷に戻る。
日はすっかり暮れていて、人々は一日の仕事を終えて家路についている頃。
町がゾンビに襲われていても、英雄が訪問してそれを退治しても、人々はそれに騒ぎながらも日常を送っていた。
騒ぎにならないように、僕は仮面を被って歩く。これはこれで目立つけれど、少なくとも顔を見られて騒がれることはない。
サイラス町長の待つアリンガム邸へと戻ると、一家は暖かく迎えてくれた。ゾンビの襲撃の後、注目されるのを厭って逃げて行方をくらましたようなものだけど、咎められることはなかった。
あの後兵士とは接触しているし、アカナの所にいると所在は町長にも伝わっていたらしい。アカナと対面することは、昨日の時点でお願いしていたからね。
「本日はご苦労さまでした。ゾンビが出てくるとは思いませんでしたが、対処していただきありがとうございます。住民たちも喜んでいましたよ」
ゾンビが出たこと以上に、英雄のおかげで平和が保たれたことを喜んでいるようだった。
僕がいる限りは、何が起ころうと町の秩序は保たれる。この人はそれを期待している。
ジェイザックとして見られる現状に思うところはあるけれど、それでも町が混乱に陥って欲しいとも思わない。
「どういたしまして。僕は明日も警備をするのですか?」
「それなのですが、町の貴族たちが是非ヨナ様に会いたいと言っておりまして。会合に出ていただけませんでしょうか」
「会合、ですか?」
「格式張らないお茶会のようなものと思ってください。大変だとは思いますが、みんな町の英雄に挨拶したいと言っていまして」
格式張らないのか大変なのか、どっちかにしてくれ。町長が、僕を行かせたがらず気を遣っているのは伝わるけれど。
貴族とやらに会わせたくないのだろうな。脳裏に、さっきのヴァニアのニヤケ面が思い浮かんだ。みんな、娘を僕と結婚させようとしている。
行かないわけにはいかないのだろう。町長の顔を立てるためにも。
「みんな、ついてきてくれる?」
「あまり大勢で行くものでしょうか」
「行けばいいと思うけど……」
「あたしは行けないわ。明日は師匠と一緒に資料の編纂をしたい」
「えー」
こういう場で一番頼りになりそうなゾーラが不参加を表明した。




