5-21.ソフィからの好意
わかるよ。ジェイザックの足取りをまとめて、これからの僕たちの指針にする大事な仕事だ。必要だよね。久々の再会で、まだまだ話し足りないことはあるだろうし。
「あんな楽しそうな師匠、初めて見たわ。目をキラキラさせて。今でも夢中になって学問を追いかけている。そういう人なのよ、あたしが学んだのは」
自分も嬉しそうなゾーラに、師匠よりも自分を助けてくれとは言えなかった。
「さあ、夕飯にしましょう。今日はソフィが作ってくれたんですよ」
サイラスが話題を変えた。料理を運んでくるのは使用人たちだけれど、その中にソフィが混ざっていた。
彼女は真っ先に、僕の前に配膳した。
「ヨナ様のお口に合えばいいのですけれど」
「うん。美味しそうだね。……いつも料理はするの?」
「母に教えてもらいました。こうやって家族に振る舞うことはあまりないですけれど、今日はヨナ様のために」
顔を赤くして、かなり恥ずかしがりながら話すソフィ。
娘と僕を結婚させようとしている。サイラスとて例外ではないし、当のソフィも悪い気はしていないようだった。
サイラスもソフィも他の家族も。ついでにティナたちも僕を見ていた。なんなんだ。この町に来てから注目されっぱなしだ。
明らかに大きくて出来が良いのを選んで僕に渡したステーキ。それを切って口に運ぶ。
こんなの、焼き加減に気をつければ不味くなるはずがない。かけてあるソースもレシピ通りに材料を混ぜればいいだけ。
「美味しいです」
「ふふっ。ありがとうございます」
それ以外に言うことはないけれど、ソフィは満面の笑みを浮かべた。
その後もずっと、みんなこっちを見ているわけで。外で感じた居心地の悪さをここでも感じることになった。
ティナたちも僕を見てる。
「こ、これはいけない気がします……」
ちょっと動揺した顔してたけれど、すぐに表情を引き締めた。
「疲れた。もうやだ。町を出たい」
部屋に行ってようやく解放された気分で、ベッドに倒れ込む。
疲れた。ものすごく疲れた。ゾンビと戦うよりも疲れる。
明日もお茶会のせいで、これを味わうことになるの? 最悪だ。
「お疲れ様です、ヨナ様。頑張りましたね、よしよし」
「うん」
「アカナさんが次の目的地を纏めてくれたら、さっさとこの町を出ましょう。ゾンビなんか知ったことではないですよね」
ティナが僕の隣に座って頭を撫でる。
なんて魅力的な提案だろう。
「ソフィさんもなんだか、ヨナ様に向ける気持ちが重そうですし。ヨナ様を余計に疲れさせてますよね!」
「まあ、うん。ちょっとだけ思ってる」
ソフィを嫌いではないよ。でも、ずっと好意を向け続けられるのは疲れる。
逃げたい気持ちはある。けれどそう簡単にはいかなくて。
「それは良くないわ! わたしたちは英雄の一行なのよ! ゾンビ事件を解決しないと名前に傷がつくわ! ……ソフィについては、私も気になるけど」
英雄願望が強いアンリは強固に主張する。最後にちょっと見えた自信の無さは別として。
「ヨナくんには申し訳ないけど、あたしもアンリちゃんと同じ意見。師匠の町の危機を放ってはおけない。それにジェイザックの故郷でこんなことが起こっているのは、国全体の名誉に関わるわ」
「それが問題なんですよ、ゾーラさん。このゾンビの件、王都にいずれ話が伝わるでしょう。町で対処できないとなれば、解決のために王都の軍がこちらに来るかも」
「それも、立場のある指揮官と一緒にね。王族とも面識がある人だ。そうでなくても、建国の父そっくりな子供の存在は、いずれ王都に伝わる」
いずれヨナウス王子の顔を知っている人間が町を訪れ、銅像の顔を見る。そしてヨナウスが町にいることを知る。
僕の生存を王族に知られるわけにはいかない。その時が来たとして、僕が町にいるわけにはいかない。
だから早々に町を出なきゃいけない。貴族の娘と婚約なんてありえない。
貴族たちやソフィがなんと思っていようとも。
「……そうね。事件は解決しなきゃいけないけど、町は出なきゃね。ええ、それがいいわ。次の事件の所に颯爽と行くアンリーシャ。格好いいもの。貴族と結婚は良くない!」
「そこはあたしも同意見ね。ヨナくんをあんな連中にはやれないわ」
わかってくれて嬉しいよ。僕を見る目が邪だとしても。今すぐ出ていくって方針には絶対にならないとしても。
わかった。アカナが資料をまとめてくれる数日のうちに、さっさと事件を解決してしまおう。
「ちなみにキアはどんな意見かしら……キア? どこに行ったの?」
「おーい! 見てくれ! ヘビがいた! 捕まえた! 食べようぜ!」
窓の外から返事が来た。
「こらやめなさい! 捨ててきなさい! てかなんで窓の外にいるのよ!」
「ヘビを見つけたから?」
「普通の人はそんなことしないの!」
「アタシは普通じゃないからなー! 焼くか。部屋の中で」
「なんでここで調理しようとするのよ!?」
「暖炉があるからいいだろ?」
「そういうことに使わない! あ! こらやめて! 部屋の中に持ち込まないで! 捨ててきなさい!」
「やだ!」
「キア、この瓶の中にトカゲもいるけど」
「ああ。今朝捕まえたやつだな。一緒に焼くか」
「遠慮するわ……」
「どっちも捨てなさい! ほら! ポイしてきなさい!」
みんなが仲良く言い争いをしているのを聞きながら、僕は眠りに落ちた。
自分で思ってた以上に疲れていたらしい。




