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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第5章 魔女の師

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5-19.英雄の幼い頃

 時計。例の異能者か。


「ジェイザックだけあれば、とりあえず観光地としては十分って言ってた。それよりは市民に実用的な道具を作るのに予算を回したい。銅像はいつでも作れる。ふんっ。町中にいろんな像があった方が町が賑やかになるのに。時計なんて」


 ヴァニアな不機嫌なのは、師匠の仕事が放置されているためだろう。

 それか、家同士の力関係もあるのかも。アカナやヴァニアの家は町で二番目の地位にある貴族。そこにあまり大きな影響力を持たせるのはまずいとか、そんな思惑が町長にある。


 少なくとも、ヴァニアは町長をそう見ている。自分たちの家が主導して作った像が人気になりすぎないよう、手を回してるとかで。

 アカナはそんな弟子を穏やかに宥めた。


「まあまあ。いいじゃない。お客さんたちにお茶を淹れてきて」

「……はい」


 キッチンに向かうヴァニアを見送って、アカナは小さな銅像に目を向け直した。


「銅像はいずれ建つわ。他の試作品も渾身の出来。作られないのは勿体ない。この女の子はシルフィーネの少女時代の姿。こっちはジェイザックを育てた両親よ。それに武術を教えたとされる師匠。こっちはスクリュード」

「誰よ。名前だけ言われてもわからないわ。アンリーシャのはないの?」

「いないわ。この町に住んでいた頃のジェイザックの周辺人物を扱っているから」

「えー」


 アンリは興味を無くしたとばかりに、近くの椅子に座った。


「なあ、スクリュードって何者なんだ? なんというかこう。こいつだけ不細工に作られてる気がするんだけど」


 キアは興味を持ったらしい。主に、美男美女の中にひとりだけ醜男がいることについて。


 ジェイザックの両親も、子持ちとは思えない若々しさと美しさで造形されている。これはこれで不自然だけど、美少年ジェイザックを産んだ以上はこういう顔にするべきか。

 それよりスクリュードは。


「この町にいた悪い役人よ。不正で私服を肥やして、権力をかさに町の人を虐げていた。少年時代のジェイザックが倒した、初めての敵」

「だから不細工に作ったのか。しかもデブ」

「でしょうね。実際、資料にはスクリュードの容姿なんかロクに伝わっていない。ですよね、師匠?」

「ええ。だからこういう顔にしたの。まあ、正直こいつの像は建てるべきじゃないと思っているけどね」

「嫌いなのか」

「好きではないわねえ。ジェイザックの伝説を盛り立てる存在として、一応案だけ出しただけ」

「へえー」

「それよりもヨナくん。あなたの力を見せてくれないかしら。あなたの英雄の力、間近で見たいわ」

「はい」


 美少年の敵に好意など持たない。その気持はわかるし、アカナも楽しいとは思ってないらしく話題を変えた。

 ようやく、この町に来た本来の目的を果たすことができる。


 異能についてアカナに聞ける。


「アンリ。矢を一本くれる?」

「いいわ。用意するわね」


 背負っている矢の鏃と羽の箇所を折って棒にする。


 その作業の間、アカナに異能の説明をした。

 本当のことを話すわけにはいかないけれど、異能に目覚めた時の話もした。王都で暴漢に襲われた時に、咄嗟に落ちていた枝で反撃したとか、そんな感じで。


 それから王都にドラゴンが出た時に、棒を使って怯ませたことも。離れたところにいるドラゴンを、棒から出た光が殺したことも伝えた。


「へえー。王都にドラゴンが出たって話は聞いていたけど、あんたたちが関わっていたとはね」

「関わったというか、巻き込まれただけですけれど」

「ヨナ、できたわ」


 アンリが一旦テーブルに置いたそれを手に取る。体が熱くなる感覚がした。


「今、この棒は聖剣です。僕の手以外の、触れたものをなんでも切り裂く。鉄の塊だろうが石畳だろうが、なんでもです」

「威力を見せてほしいわね。ちょっとこれを斬ってみて」


 アカナが見せたのは、陶器製の乳鉢。薬草を擦り潰すのに使うもので、かなりの硬さがある。

 軽く棒を振れば、乳鉢の半分くらいの箇所で切断された。


「切り口が綺麗すぎる。欠けた箇所も見当たらない。この硬さのものを、こんなに簡単に切れる刃物は他に知らないわ。まさに伝承の中にあるエグダインそのものね。すごいわ……。ねえ、これも切って」

「いいんですか?」

「もちろん」


 部屋の片隅に置かれた大きな瓶。薬草を乾燥させたものでも入っているのかな。


 棒を掲げて、瓶に振り下ろす。人の店の商品を傷つけることに遠慮があって、切り方はお世辞にも上手いとはいえなかった。

 にも関わらず、瓶は真っ二つに切れた。中から薬草がザラザラと音を立てながら流れ出てきて、その香りが鼻をくすぐった。


 いい匂いだ。しかし強すぎて、一瞬体がふらついてしまった。


「すごい……」

「完璧ね。間違いない」


 お茶を淹れてきたヴァニアが、目を輝かさせて僕を見つめている。アカナも同じだ。

 陶器を剣で断ち切るのは困難、というか不可能だ。硬く作られている乳鉢もそうだし、壺とか皿とかも同じ。


 よほどの鋭さを持つ武器と、使い手の腕の両方がいるとされているけど、実際問題どうやっても無理だろう。

 剣で切ろうとすれば、衝撃で切れる前に粉々に割れてしまうから。 


 そんな芸当が出来る人間は、それこそ伝説の中の剣豪だけだ。


 なのに僕には出来てしまう。腕は剣の達人に遠く及ばないのに、剣の力だけでやれた。


「ジェイザックは出来たそうよ。悪人が隠れた大きな瓶を、中の悪人ごと真っ二つにした。聖剣の力に人々は驚き畏怖したと伝えられているわ。あなたはまさに同じことをした」


 目をキラキラ輝かせて語るアカナは、まるで夢見がちな少女で。数十歳は若返っているように見えた。


「魔物に対する性質も素晴らしいわ。邪悪なものを寄せ付けない。恐れさせ遠ざける。なおも襲ってくる魔物を聖なる光で断ち切る。ドラゴン退治の逸話も伝説の通り。しかも倒した? ジェイザック本人も、倒すには至らず封印しただけなのに」


 それはまあ、色んな人の協力があってこそ殺せたから、聖剣だけの功績ではないけれど。


「ヨナくん。あなたのそれは、間違いなく聖剣よ」

「そうなんですか?」

「ジェイザックの専門家は聖剣の記述にも誰よりも詳しい。聖剣の専門家でもあるの。そのあたしが断言するわ。あなたは聖剣を手にしている。伝説の記述にある通りの力を持っているもの。なぜ、木の枝が聖剣と同じになるかは、ちょっと推測が必要だけれど」


 そこが問題だ。なんで木の枝なんだ。

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