5-15.師弟で同じ趣味
で、薬草屋をやってるアカナが、さっきのゾンビ案件と関わっている。
「あそこの旦那が、夜に眠れないって言っててね。よく眠れるようになる草を処方してたのよ。お茶にして飲めば眠りやすくなるってね。時々、家族にも分けてたそうだよ」
「ああ。それで間違えて毒を処方してしまって殺したとか、そういうのを疑われているわけですね」
「疑われているのは間違えてじゃないわよ。意図的に毒を盛ったとかさ。死んでも、その後に何か細工をしないとゾンビにはならないのよ」
「それは聞いています。魔道具が関係しているのですよね」
「そうそう。そういうのはゾーラの方が詳しいんじゃない?」
「あたしにはなんとも。紙の実物を見ましたが、死体にどう作用するかなんかは少しだけわかりますが、後はなんとも言えません」
「あれを作った人は特定できそう?」
「無理です。いやそれよりも、町の兵士は師匠が犯人だと疑っているのですか?」
「まあね! 少なくとも、あの一家を殺す方法は持っている。ゾンビには出来なくてもね。重要な手がかりさ」
「ひどいですね」
「なに。あらゆる可能性を考えてるだけよ。彼らも立派に仕事してんのよ。それに、学者として遺体を見て見解を教えてくれって話でもあるんだろうさ」
「なるほど……一部の遺体はバラバラになってしまいましたけれど」
「はい。僕のせいで」
ずっとゾーラとアカナだけで話しが盛り上がっていて、僕たちは口を挟む隙がなかった。尊敬する師匠との再会だから、それでいいとも思ってたけれど、こちらに話題が向いたら出てくるしかない。
さっきも自己紹介はしたけど、アカナは改めて僕を見て。
「あなたが噂の、ジェイザックの生まれ変わりね? しかも聖剣使い」
「いいえ。僕はただのヨナです」
「師匠。本人も言っているように、彼がジェイザック像に似てるのは偶然で」
「ええ。わかっているわ。それにしても本当によく似ている。ふふっ」
僕の頬を撫でるよう触れながら、アカナは微笑みかけた。
「本当に、美しいわ」
「師匠?」
「ああ。ごめんなさい。あまりにも、素敵な男の子すぎて」
「気持ちはわかりますけれど」
「理想と言っていいわ。こんなに美しく格好いい男の子、本当にいるのね」
「はい。あたしも初めて見た時、同じ気持ちになりました。可愛いですよね、ヨナくん」
「とても。とても可愛いわ」
なんか様子が変だ。ゾーラとアカナが僕を見る目がおかしい。獲物を狙う獣の目に見える。
「お、おふたりとも? どうしました?」
異変を感じたのはティナも同じようで、僕の体を引き寄せて後ろに庇うように立つ。
「あー。そういえばゾーラは、師匠と趣味が同じって言ってたよな。これがそうなんだな? まったく。小さい男の子が好きってのはわかるけど、本物の男の子を怖がらせるなよ」
「それは……」
「悪かったわ……」
キアに指摘されて、師弟はそろって気まずそうな顔を見せた。
え。そういうことだったの? アカナも僕のこと、そういう目で見てたの?
「ほら師匠。ヨナくんが怖がってるじゃありませんか。いきなり頬を撫でるとか、良くないですよ」
「僕としてはゾーラも十分不気味に感じたけどね」
「ごめんなさいね、ヨナくん。本当に、あたしの理想のジェイザックの少年時代に似てたから。理想の男の子が現れたって思ったのよ」
「だからって興奮して、そんな目で見てはいけません。今の師匠は既婚者なのですし」
「そうね」
「ヨナくんはあたしのものですから」
「そうだったのね。いい子を見つけたのね」
「違いますから。変な所で外堀を埋めようとしないで」
ティナに隠れながら言い返す。ふたりは聞いちゃいない様子だけど。
なんで師弟で、そんな趣味が似ているんだよ。学者にはありがちなことなの?
「ねえアカナさん。気になったんだけど。ヨナとあなたの好きな男の子の顔が似てるのと、町のジェイザック像が似てるのって関係あるのかしら」
もふもふを動かしてアカナの近くにやりながら、その上のアンリが尋ねた。
たしかに気になる。この町に来てからずっと、僕を困らせてるあの像は。
「関係あるわ。あの像のデザインを作ったのは、あたしなの」
「えぇ……」
なんでそうなるんだよ。
でも納得はいく。
アカナが町に来たのは五年前。像が出来たのは四年前。アカナは町の有力貴族と繋がりを持ち、そしてジェイザックに誰よりも詳しい。
だから町の事業である銅像製作に協力を要請されるのは当然だろう。というか、アカナが来たから製作の話が持ち上がったと考えていい。
「王都にある石像や、この町で見つかった文献から少年時代彼の容姿に関する記述を抜き出して、少年期のジェイザックを推測した。だから学術的に根拠のある姿ではあるのよ。でも、文献からわかる情報は少ない。だからわからない所には趣味を混ぜさせてもらったわ。あたしと好きな男の子の感じをね」
やめて。お茶目な感じでウインクしないで。ゾーラもわかるって感じで頷かないで。
ジェイザックの資料を元にアカナの理想の男の子の像を作った所、ジェイザックの子孫でありアカナが好きな容姿でもあるらしい僕に似てしまった。
偶然ではあるけれど、そこに至る根拠がしっかりとあるのが頭が痛い。
建国の英雄を醜男にする理由もなく、アカナの案はあっさり受け入れられて、美少年であるが故に住民からも支持を受けた。
で、そっくりな僕に注目が集まってしまったわけだ。
「あうー」
「やっぱヨナ、この町で相当無理してるな」
「ヨナ様、大丈夫ですよー。わたしが守りますから」
「うん……」
ティナの胸に顔を埋めると、優しく頭を撫でてくれた。
なんか、こっちに恨めしい目が向いてる気がするんだよね。
「なんでそっちに行くのかしら。あたしというものがありながら。胸だって圧勝なのに」
「羨ましいわねぇ、あの子。美少年を抱きしめるなんて。あたしもそういうことしたい人生だったわ」
なんでこの師弟、こんなに似てるんだよ。




