5-13.熱狂的すぎる
子供とはいえ、わんぱく盛りの男の子。それが体の動きをフル活用して襲ってくるのだから、驚異としかいいようがない。
走って突っ込んでくる兄と、飛びかかってくる弟。剣を抜いて弟の体を思いっきり打って地面に叩きつけながら、兄と激突する寸前に体を一歩引いて回避。それから彼の襟を掴んで勢いに乗りつつ振り回して、近くの建物の外壁にぶち当てた。
申し訳ないと思ってるさ。小さい子供にこんなことをするなんて。けどゾンビだし。襲ってきてるし許してほしい。
僕よりも少しだけ年下の男の子の体を何度も壁にぶち当てていると、弟の方が腕を掴んできた。
力が強いな。振りほどこうとしたところで、ゾンビの方から離してくれた。
ティナが腕に剣を振り下ろして、大きく傷を付けつつ下げさせたから。
「ヨナ様これを!」
そして片手で持っていた木の棒を放り投げる。どこかの家から調達した物干し竿なのだろう。一度地面に落ちたそれを拾い上げて、ティナに襲いかかる弟の方に向ける。
ゾンビ弟は片腕が半分切れかかっているのに、なおも動かし続けていた。ティナの振った剣を掴み、血が流るのもお構いなしに奪い取ろうとする。力比べではティナの方が不利だけれど、ゾンビの首を僕の聖剣が切り落とした。
「ヨナ様! 全然弱まってません!」
「そうだね! 頭が無くなっても動くって考えられないな!」
体に貼られたはずの、あの紙がある限りは体が動き続ける。物干し竿を動かして、ゾンビの小さな手足を順番に切り落としていく。
それから、背後で足音がした。何度も壁に叩きつけられた兄の方が立ち上がり、襲いかかるつもりらしい。
「ティナ伏せて!」
「はい!」
無力化されたゾンビを前に剣を持ち続ける必要もなく、あっさりと手放して姿勢を低くした。彼女に当たらない高さで竿を横に薙ぐように振る。近くの建物の外壁を切り裂きながら、竿は半円を描いて後ろに到達。ゾンビ兄の胴体に切り込んで、半分くらいまで到達した。
両断はしていない。しかしゾンビは力を失い、がっくりとうなだれながら崩れ落ちた。僕が持ったままの竿で、胸から頭まで切り裂かれて倒れ、動かなくなった。
切られている最中に死んだらしい。
「?」
竿を手放し遺体に近づく。聖剣が切り込んだ脇腹あたりに紙が貼られているのが、服の裂け目から見えた。紙は真っ二つに切られていて、それがゾンビを無力化したのだとわかる。
「これさえ剥がせばゾンビはただの死体になるのか。それでも、服の下に貼られれば見つけるのは難しい」
「はい。やっぱり、ゾンビたちを切り刻んで動けなくした方が早いですね」
近くに駆け寄ったティナが返事をする。
ゾーラたちの方を見れば、向こうも終わっていた。ゾンビ夫は手足を切り刻まれて動けなくされているし、妻の方も矢に刺された上に馬の体重で体中の骨を折られて、無残な姿になっていた。
それでもなお動こうとしているが、弱々しいものだった。市民の避難と野次馬になった人たちの整理に人手を割かれていた兵士にも増援が来て、ゾンビの残骸を拘束していく。
野次馬は僕たちに喝采の声を上げた。ジェイザック様がまた、ゾンビから人々を守ってくれたと。
「どうしましょうか。町の人たち、完全にヨナ様のことをジェイザックと重ねて見ています」
「うん。伝説の英雄が復活したと、本気で思ってるみたいだね。物干し竿で敵を倒すなんて、英雄としてはあんまり格好よくないのに」
「いえ。ヨナ様のあれは格好良かったです」
「そ、そっか。でも、家を壊しちゃったな」
さっき竿を振った時に巻き添えにした家を見る。外壁に長い切れ目ができていた。中に家具とかがあれば、それも真っ二つになっていることだろう。
聖剣になった棒は何でも容易く切ることができるから、こうなったことに驚きはない。けど、誰かの家を傷つけた気まずさはある。
「あの! ジェイザック様!」
すると家から人が出てきた。住民か。家に大きな傷をつけたことに怒っている様子はなくて、僕に向かって跪き涙を流して語りかけた。
「ありがとうございます! 我が家にジェイザック様の御加護を頂けるなんて」
「加護……?」
「はい! 聞いております。それがジェイザック様の聖剣なんですよね?」
「それは……そうらしいです。詳しいことは僕もよくわかってなくて」
「聖剣とは邪悪なものを振り払う力を持つと伝説にあります! 切られた我が家もそうなのでしょう! 一生大事にいたします!」
「えー……」
たしかに魔物は怯ませられる。けど、傷がついた家はさっさと修理すべきだよ。
ティナに助けを求めようと目を向けると、彼女は別の住民に話しかけられていた。たぶん、物干し竿を借りた家の人なのだろう。
僕が放り投げたそれを大事そうに抱えて、ティナにお礼の言葉を尽くしていた。向こうも大変そうだなあ。
「わ、わかりました。皆さんを助けられて良かったです。でも、家が壊れるとまずいので、補強はちゃんとしてください! では!」
強引に話を切り上げて、ティナの方に行く。彼女も相手の話が終わらないで困っているようで。
「ティナ行くよ! ほらみんなも! アンリも!」
ティナの手を引き、みんなに声をかけて群衆から逃げる。住宅街の奥の方へ向かう。
「なんでさ。僕が木の棒を振っただけで、みんな大騒ぎするなんて。ちょっと熱狂的すぎない?」
「集団心理で、みんな盛り上がっちゃってるのね。ゾンビ騒動で不安がってた気持ちの反動もあるでしょう。それに、ジェイザックといえば聖剣だし」
「でも、ジェイザックが聖剣を手に入れたのは、町を旅立った後だよ?」
「それほど有名な伝説なのよ、ジェイザックと聖剣エグダインは。それにジェイザックが復活したなら、聖剣もセットになるでしょう?」
「でも。聖剣は木の棒じゃない。というか、僕が完全にジェイザックの復活した姿だって町に思われてる。うわー……」
「すごく嫌そうだな」
「ねえ! 旅立った後のジェイザックが復活したなら、アンリーシャも一緒じゃなきゃおかしいじゃない! なんでアンリーシャは目立たないのよ! 不公平よ!」
「そうだそうだ。町の人の考えてることは筋が通らない!」
「ヨナのやつ、嫌すぎて子供っぽくなってる」
「そういうヨナ様も素敵ですよ」
「お前は相変わらずだなぁ」
「あ、でも。さっきのわたしの活躍、みんな見てたわ。話しかけられてアンリーシャの話をしたから、そのうち有名になるし、わたしがアンリーシャだってみんな思うようになるかも」
「うあー!」
「あ。ヨナが限界になった」
地面に座り込んだ僕をみんなが見下ろした。




