5-11.英雄の行進
ちょっと格好つけちゃったな。
「ああいう女が好みか?」
「うわぁっ!?」
急に声をかけられて、驚き飛び上がってしまった。
声は高い位置から聞こえた。上を見ると、庭園に植わっている木の上にキアがいた。足を組んでこっちをニヤニヤしながら見つめている。
「なんでそんな所にいるのさ」
「木があれば登りたくなるもんだろ?」
「その感覚がわからない」
「それよりソフィだよ。あの子、間違いなくヨナに惚れてるよなー」
「からかわないで。そんなんじゃないよ」
「向こうは本気っぽいぜ?」
「……たとえそうだとしても、あの子が好きなのはジェイザックだ。それに似ている僕を重ねているだけ」
「まあ、そうだな。ヨナはそれが好きじゃない。けど、あの子の期待には応えたい」
「頼まれた仕事だしね。ゾーラのためでもあるし」
「ああ。ゾーラのためだ」
キアはまだニヤニヤしてる。ソフィのためにやってる面もあると言いたいのか。
「モテる男は辛いよなー」
「だから」
「いいじゃねえか。英雄様らしく堂々としてろ。ほら、飯に行くぞ。ヨナとソフィがいい仲だって、みんなに教えなきゃ」
「教えないで。面倒だから」
「えー。いいだろちょっとくらい。退屈なんだから」
「退屈しのぎで人の噂話はよくないよ」
「トカゲ捕まえるのも駄目か?」
「駄目じゃない。食べるのが駄目」
「そっかー。この町じゃトカゲは食わないみたいだな」
「常食する人はいないんだよ」
「さっき木の上で捕まえたんだけどさ。夜になったら食おうかなって」
「なにが、木があったら登りたいだよ。トカゲを捕まえるためでしょ?」
「まあなー」
「町に出たら、その趣味は隠してね。英雄の仲間がそんなのだと、みんながっかりするから」
「そんな趣味ってなんだよ!? トカゲうまいだろ!?」
「それがわからないんだよ。ほら、屋敷に入るよ。ちゃんとした朝ごはん食べなきゃ」
朝食の席で、サイラスから警護の計画を聞かされた。
馬に乗って大通りを歩いてほしいと。
「もふもふを使えばいいのね! わたしの後ろに乗せてあげるわ!」
「いいえ。馬に乗るのはヨナ様だけです」
「えー。なんでよ!?」
「英雄が、他の人が動かす馬に乗るのは格好がつかないからだよ。だから……僕がもふもふを動かすの?」
「そうなる、かしら。ヨナいける? もふもふって、わたし以外の言うこと聞かなそうだけど」
「やってみよう」
馬小屋にみんなで出て、もふもふの前に立つ。
サイラスたちアリンガム家の人たちは、このやたらと大きな馬に目を見開いていた。
「さすがジェイザック様の馬だ。堂々としている……」
「ジェイザックじゃなくてヨナだし。正確にはヨナの馬でもないし……うー。仕方ない。もふもふ、おはよう。お願いがあるんだけど、今日はわたしじゃなくてヨナに手綱を握らせてほしいの。できるかしら」
もふもふは僕を見つめた。睨みつけけていると言っていい。
けれどすぐに、足を曲げて乗りやすくしてくれた。
「ありがとうもふもふ! やっぱりあなたは優しいわね! ヨナ、乗ってあげて! それからモフモフしてあげて!」
「うん。ありがとうもふもふ。撫でてあげるね」
そうとも。もふもふには何度も乗ってる。今更怖がることなんか何もない。
いつもは馬の背中の高さから見る景色に、アンリの背中があった。けれど今日はそれがなくて、視界が開けている。町の景色がよく見える。
ティナたちに囲まれるようにしながら、もふもふを動かして町に出る。アリンガム邸の前には町の兵士が何人も待機していて、僕を出迎えた。もふもふの大きさに目を見開きながらも、それも英雄の偉大さに重ねて敬礼をした。
門の前には、大勢の市民もいた。
「ジェイザック様だ!」
「本当にそっくりだ」
「この町のために復活してくれたのか」
「ゾンビも容易く退治してくれるに違いない!」
「万歳! 万歳!」
などなど、割れんばかりの拍手と声援に包まれることになった。
事前に僕が市民の前に姿を表すことは発表されていたのだろう。だから町中から人が押し寄せた。
「あー……」
「ヨナくん。笑顔で手を振り返して上げなさい」
「えー」
「頑張って」
「う、うん」
愛想笑いを浮かべて手を振れば、さらに大歓声が沸き起こった。
なんなんだこれは。
兵士たちが群衆を制止しているが、それがなければ僕の方に殺到しそうな勢いだ。
「ヨナ様、ご気分は大丈夫ですか? もしすぐれないなら、すぐに言ってくださいね」
「うん。ありがとう。大丈夫だよ」
ティナはちゃんと心配してくれる。
そして僕以上にはしゃいでいるアンリの姿もあって。
「みんなー! こんにちはー! アンリです! よろしくね! アンリーシャくらい格好よく活躍してるのよ!」
とまあ、自分も英雄になれるチャンスだと思っているのか、群衆に声をかけている。
けれど成果はあまりないようだ。人々はみんな僕の方を見ている。
「なんでよ!? ジェイザックの活躍はアンリーシャとセットじゃないの!?」
「この町にはアンリーシャの像がないんじゃない? だから、アンリちゃんはただの仲間の弓使いにしか思われてない。そもそもこの町では、アンリーシャはあまり知られてないのかも」
「知られてないなんてありえるの!?」
「わかる気はするよ。この町、ジェイザックの生まれ故郷でしょ? 像も子供の姿だし。旅立つ前の話が有名で、旅の頃の話はあんまり意識されてないのかも」
知られてないってことはないだろうけど、重視されない。アンリーシャのファンもあまりいない。
「旅立つ前の話?」
「そう。この町で子供時代を過ごしたジェイザックの活躍の話もあるのよ。母親に愛されて育った逸話とか。幼馴染の女の子のピンチを救う話とか。悪いお役人を懲らしめる話とか」
「へえー。ジェイザックって子供の頃から活躍してたのね。というか、幼馴染って?」
「シルフィーネのことよ。ジェイザックと共に旅をして、後に結ばれた建国の母」
「ふーん。へぇー。そうなのねー」
アンリーシャとは男を取り合ったライバル関係とも言える女。そしてアンリーシャは負けた側と言える。




