5-10.ソフィ
屋敷の使用人から寝室に案内される。客間として使われている、広く豪華な部屋だった。ここで五人で寝る。元から置いてあるベッドはひとつしかなかったから、使用人が人数分の布団を敷いてくれた。
なんとなく、英雄の僕がベッドを使って、女たちが床の布団で寝るってことになると、みんなが思っていた。けどそれだと、僕が落ち着かない。
みんなと一緒に床で眠ることにした。
「ヨナ様、本当に良かったのですか? その、ジェイザックと重ねて見られることは」
「いいんだ。町に必要なことだと思うし。ゾーラのためだし」
僕の心中を慮ってくれるティナが、そっと尋ねた。
思うことは無いではない。ジェイザックのことは英雄として尊敬はしているけれど、同時に憎んでもいる。彼が国を作って子孫を作った結果が父であり兄だ。僕の苦しみの原因だ。
遠い祖先であるジェイザックに罪はないとしても、好きになりきれない。
けど、今は必要なことをしてあげたい。
「わかりました。何かあれば、わたしがお守りします」
「うん。頼りにしてるよ、ティナ」
名前を呼べば彼女は微笑んで、僕の隣で横になった。
翌朝。
別に課せられた使命に期待をしていたというわけではないけれど、よく眠れなくて早起きしてしまった。みんなぐっすり眠っている。
起こすのも悪いしそっと部屋を出て、外の空気を吸いに庭に出た。
町の最高権力者に相応しい庭園が広がっている。色とりどりの花が咲き誇っていた。
ソフィの姿があった。慈しむように、花に水をやっている。しばらく眺めていると、彼女は僕に気づいた。
「おはようございます、ヨナ様」
「おはよう」
ティナ以外にそう呼ばれるの、ちょっとくすぐったいな。
彼女の容姿を改めて見る。ぱっちりと開いた目が特徴的な、可愛らしい子だ。亜麻色の長い髪が揺れている。
僕を少し照れながら見ている彼女は、挨拶を返されるとその後の言葉を繋げられない様子で。だから僕から質問してみた。
「庭の手入れは、ソフィがしているの?」
「はい。庭は屋敷の顔。これを美しく保つのは女の仕事だと、母に言われていますので」
「そっか。綺麗だね。僕は花は詳しくないけど、よくお世話されてるのが伝わってくる」
「ありがとうございます。ヨナ様に言われて、すごく嬉しいです」
「そっか……」
僕とソフィは昨日顔を合わせたばかりで、ほぼ初対面。そんな彼女が僕に褒められて喜ぶ理由はひとつしかない。
そんな気はなかったけれど、表情を陰らせたのだろうか。ソフィは慌てた様子で話す。
「ごめんなさいヨナ様。いきなりジェイザック様にお姿を重ねられて、戸惑っていると思います。町の人も、父も、あなたに余計な期待を寄せてしまっている。町を代表してお詫びします」
頭を下げるソフィ。町長の娘として責任を感じているのかもしれないけれど、もちろん彼女にそんなことをする必要はない。
「頭を上げて。気にしていないから」
「本当ですか?」
「まあ、最初はかなり面食らったけれど。本当にあの像、僕とそっくりだから。なんでなんだろうね。あの像って、昔からあったの?」
「いいえ。作られたのは、ええっと……そうだ四年前です。わたしが八歳の時ですから。新しい町のシンボルとして作られたんです。除幕式にわたしも出ました。その時から、ジェイザック様のお姿はあれだと、みんな思うようになりました」
「四年前」
じゃあ、お土産屋で売ってた小さな木像や、この家に飾られてるジェイザックの肖像も、その後に作られたもの。
「ジェイザック様が格好良くて、みんな好きになって。観光客も大勢来るようになったから、町も活気づいて良くなったとお父さん喜んでます」
あの像は間違いなく町を豊かにしている。
けど、昔からあった像ではない。ジェイザックの姿そのものを表したものじゃない。
「ジェイザックをあの姿にしたのは、誰?」
「アカナさんです」
「ゾーラの師匠が?」
「はい。ちょうどその時期に、王都から移住したそうです」
「うん。そう聞いてる」
ゾーラが言うには五年前だ。そこから一年ほど経っている。町の人に高名な学者だと認知されて、英雄の子供の姿を再現する計画に参加するのに必要な信頼を得るのに、それくらいの時間が掛かったのだろう。
そしてなぜか、僕そっくりの像が出来た。
「王都かー。いいなぁ。わたしも行ってみたいです」
「そう?」
「この町はいいところですよ。でも、やっぱり田舎じゃないですか。ジェイザック様についていって町から飛び出した、シルフィーネ様みたいになりたいです」
英雄が旅に出た時からの仲間であり、建国の母となった女の名前を口にするソフィ。彼女の憧れなのだろう。
「本当に素敵ですよね。強くて思慮深くて美しいジェイザック様を支え続けた、生涯のパートナー。わたしもそんな女性になりたいです。そしてできれば、冒険をしたい」
うっとりとした表情で語る彼女は、僕の視線に気づいて慌てた様子で。
「よ、ヨナ様! 町の警護の件、よろしくお願いします。期待されているのは大変かもしれませんが、わたしも応援させてください!」
「うん。わかった。頑張るよ。力を尽くすし、町の人たちは守ってみせる。ソフィ、君もね」
「は、はい!」
まっすぐソフィを見つめて言えば、彼女は顔を真っ赤にした。
「あ、あの! そろそろ朝食の用意があるので! 失礼します!」
そして逃げるように屋敷に入っていく。




