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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第5章 魔女の師

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5-5.大人のジェイザック像

 城塞都市ではないとはいえ、人口は多い町だ。飲食店はたくさんある。冒険者向けの安い店もあるし、賑わっている所を見ればギルドの仕事は盛況のようだ。

 周りを山と森に囲まれているし、魔物も潜んでいそうだ。仕事はあるのだろう。


 包帯で巻かれた僕の顔は目立つけれど、みんな驚くだけでジェイザック像と似てるとは認識しなかった。だから騒ぎにはならない。これが当たり前なのだけど、なんか嬉しかった。


「それで、そもそもの疑問なんだけどさ。なんでヨナとジェイザックが似てるんだよ。偶然なのか?」


 酒を頼むのを許してもらえなかったキアが、ちょっと不機嫌そうに尋ねる。

 なぜなのか、理由は誰もわからない。けれど。


「決まってるじゃない! ヨナがジェイザックの子孫だからよ! 顔が似てるのは当然よ!」


 アンリは自分の中で答えを持っているようだった。


 確かに、血の繋がりがあれば顔は似るものだ。とても不本意なことに、僕の顔は父や兄と似ているのだろう。考えるとはらわたが煮えくり返りそうになるが、血縁とはそういうものだ。

 だから遠い先祖を辿っても、ジェイザックが僕とどこか似た顔つきになっている可能性は大いにある。


 あるのだけど、この件に関してはそれでは説明がつかない。


「ジェイザックの顔がどんなものだったか、後世の人間が知ることは不可能じゃないわ。王都の博物館には、立派な石像が展示されている。建国の王であるジェイザックの姿を彫ったものだと言われているわ」

「……」


 アンリもキアも、王都在住だったティナまでもが、よくわからないって顔で首をかしげた。博物館、行ったことがないのか。


 僕はその石像を見たことがある。ジェイザックの生前の容姿を知るための、最も正確な資料だ。


 さっきの銅像よりも巨大な、見上げるほどの高さのある像。


 正直、自分に似てるとは僕も思わない。しかしあの像を根拠として、王族はよく褒め称えられるそうだ。かの英雄の面影を残しているとか。だから同じような偉業を成し遂げられるだろうとか。

 父も兄も、よく言われてきたことだろう。


 だから、傍から見れば似てるのかもしれない。僕自身の評価は別として。


 けれど。


「あれは成長した、大人のジェイザックだよ。子供の頃の姿じゃない」

「ええ。成長するに従って、容姿は大きく変わっているはずよ。王都の石像は、当時国内で最高峰の彫刻家が作ったものとされているから、当時のジェイザックをできる限り忠実に再現してるのは確かだけど、子供の姿じゃない」


 既に英雄になっているジェイザックの顔を石像として残すことはできる。

 けれど、山に囲まれた辺鄙な場所で、英雄でもなんでもなかった少年時代のジェイザックの顔を今に伝える資料は、無い。当時その姿を記録できるような芸術家もいない。


「ヨナくんによく似た銅像が立っていることも奇妙だけれど、そもそもあの像がなんなのかも奇妙なの。あれは、なに?」


 ゾーラの問いに、誰も答えることはできなかった。

 しばし、テーブルに沈黙が降りる。みんな、黙って料理を口に運んでいた。


「やっぱり師匠に訊くしかないわね。この町で一番、ジェイザックに詳しい人のはずだから。なにか知っているはずよ」


 ゾーラが自分で出した方針に、頷くしかなかった。


 師匠が町のどこにいるかはゾーラにもわからない。隠居みたいなものだから、中心部からは外れた所にいるのではという推測があるだけ。

 今日は遅いし、明日誰かに尋ねて探そう。そう方針を話し合いながら宿に戻っている途中。


「ん? なんだろ」


騒ぎが起こっていることに気づいた。悲鳴や怒号が上がっていた。



 最初は、いつの間にか包帯が取れて、さっきの騒ぎがまた起こったのかと思った。しかし包帯はしっかり巻き付いている。それに、誰かが逃げろとか、兵士を呼べと言っている。

 なにが起こってる?


「見に行こう」

「あ! ヨナ様!」


 反射的に駆け出した僕をみんなが追いかける。市民たちは逆に騒ぎが起こっている方から逃げ出していた。


 騒ぎの中心に、人がふたりいた。ひとりは若い男で、もうひとりは若い女。カップルが痴情のもつれで騒いだのかと一瞬思ったのだけれど、様子が変だ。

 男が女の首を締めている。しかも全力で。女の方は苦悶の表情を浮かべて相手の手を剥がそうとしているけれど、力の差は歴然で出来ていない。

 それどころか男は首を締めたまま、女の体を持ち上げ始めた。女の足が地面から離れて、バタバタともがいている。


 痴話喧嘩にしてもやりすぎだ。


「ねえヨナ。男の人の首を見て」


 言われてそちらに目をやる。

 彼の首にはナイフが深々と刺さっていた。背中側からひと突きで、刺さったままのそこから今も血が流れ続けていた。


「なんで、刺された状態であんな力が出せる? そもそも、あれで生きていられるのか?」


 当然の疑問が口から出たが、ティナたちに答えられるはずもない。

 しかし、人々の中で逃げ遅れた者がひとりごとのように言った。彼はあまりの恐怖に腰を抜かしたのか、僕たちのすぐ近くで地面に座りこんでいた。


「あ、あれはゾンビだ……」

「ゾンビ?」

「生きてる死体だ! 死んでるのに生きて動くバケモンだ! 助けてくれ!」


 死んでいるのに生きている。矛盾に満ちた言葉だけれど、妙に納得できたのは確かだ。男の目は虚ろで、生きているようには見えない。けれど確かに動いている。

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