5-4.僕に似ている
こういうの、自分ではわからないものだけど。
「えー。そうかな?」
「ヨナ様はご自身の顔を見慣れていないんですよ。鏡をしっかり見たことは最近ありますか?」
「無いけど」
「わたしたちはヨナ様の顔をよく見ていますから!」
「一緒に過ごしているから当たり前なんだけど、なんか言い方変じゃない?」
「なあ、君」
男がひとり、話しかけてきた。ごく一般的な市民といった出で立ちだ。
「見かけない顔だけど、旅人かい? この街には初めて来たの? 観光とか? ジェイザック様となにか関係があるのかい? それとも、本物のジェイザック様なのか……?」
待って待って質問が多い。しかも男はぐいぐい来ている。
「お待ち下さい!」
すかさず、僕と男の間にティナが割り込んだ。
「彼はジェイザックとは無関係です! 子孫とかそんなことは一切ありません! 王族関係者とかの事実はまったくありむぐー!?」
「逆に面倒になるから、お前は喋るな」
「ヨナ! 逃げるわよ! 乗って!」
キアがティナの口を塞いで、アンリは馬上から手を伸ばして僕の体を引っ張り上げようとした。もふもふの上によじ登った僕を、住民たちは目で追っている。
アンリが馬を走らせると、住民たちは追いかけようとした。ティナたちもそれに続くけど、もふもふには追いつけない。
なんか追いかけてくる人たちを振り切れるのはいいけど、みんなとはぐれたら後で合流できないかも。
広場を出て大通りから外れた道に入る。大きな馬が疾走するのを住民たちはぎょっとした顔で見ていた。そこで初めて僕たちを目にした住民は、馬に気を取られて僕の顔には気づかないらしい。
「ヨナ! あそこに宿屋がある! 後でそこで合流しよう!」
頭上から声がした。キアが近くの建物に登って屋根から屋根に飛び移り、追いついたらしい。頷くと、彼女はティナたちを連れて行くべく広場に戻っていった。
もふもふが路地裏に入って、ようやく僕たちも追ってから逃れられる。
「なんだったんだ。さっきのは」
「ジェイザックのことがよほど好きな人たちなのね。で、そっくりなヨナを見つけて騒ぎになった」
「似てるだけの子供を見て、本気でジェイザックだと思ってるように見えたけど」
「ええ。そうね」
似てるからって、あんなに人が集まってくるものだろうか。なにか様子がおかしい。
「お婆さんなんて、本気でジェイザックが復活したみたいな顔になって、跪いて祈ってた」
「それだけ本当に信じてるってことね!」
「迷信深いお年寄りでも、そんなことするかなあ」
「わからないわよねー。とにかく、みんなと合流しましょう。ヨナ、わたしの背中に顔をつけて」
「うん」
顔を隠すには、そうした方がいい。さすがに顔を押し付けるのはできないけど、俯いて額をアンリの背中につける。
「キアが言っていた宿屋はこっちね」
路地裏から抜けても、もう騒ぎは起こっていなかった。少なくとも、僕を探して大勢が走り回るみたいなことには、なっていない。
宿屋の前に着くと、そこには小さな木の像が飾られていた。
僕と似ているジェイザック像だった。
「これ、町のあちこちに飾られてるのかしら。町のシンボルみたいな感じで」
「勘弁してくれ……」
ティナたちはそこにいた。アンリが宿屋の主人に話してもふもふを裏に繋ぎに行ってる間、僕はゾーラのローブの中に隠れるようにしていた。
「それは嬉しいんだけどね。ヨナくん、こんなことするのね。女性の服の中に隠れるなんて。積極的ね」
「やりたくてやってるんじゃないんだよ。でも」
宿屋の中に、装飾として絵画が掛かっていた。
僕とそっくりな子供が剣を掲げる絵だった。
「宿に行く途中、お土産屋さんみたいなのを見ました。木彫りで、あの像を小さくしたような置物がたくさん売られていました。この町の観光資源なんですね」
「僕に似てた?」
「簡略化はされてましたけど、たしかに似てました」
「なんでだ……」
「あれだけ作られてるってことは、売れてるんだろうなー」
「セイホレハの街の仮面みたいなものね。需要があるから、あちこちで売っている」
「そうだ仮面!」
いいことを思いついた。あの街で手に入れたセイホランの眷属の仮面を、僕は今も持っている。
それをつければ、誰も僕の顔を見れない。
「よし完璧!」
「……そうですね。さすが、ヨナ様、ですね……。なんというか、はい。賢いと思います。わたしは、あくまでわたし個人としては、賢いと思いますよ」
「新しいパターン来たな」
「ヨナくんの考えを否定はしたくないけど、内心では馬鹿だと思ってるのね」
「なっ!? そんなこと思ってませんよ!? ヨナ様が馬鹿なはずないじゃないですか!」
「じゃあ、ヨナくんがこの町にいる間、ずっと仮面を被ってるのが正解だと思う?」
「あー。えっと。それは。なんというか」
「ヨナが変なことしてるなら、止めるのもお前の仕事だぜ? 近衛兵として」
「はい。あ、いえ。ヨナ様が顔を隠すのは大事だと思いますよ。ただその。仮面は余計に目立つというか。ヨナ様の芸術センスが素晴らしいので、鮮やかな彩りが光っていますので」
「うん。やっぱりティナはヨナのこと褒めるのが好きなんだな」
「包帯で顔を巻くとかして、もっと自然に隠しましょう」
「あー。その手があったか……」
というわけで、アンリが戻ってきたら宿の部屋に入る。僕は部屋に引きこもり、みんなが包帯を買ってきてくれた。
目を出して、その周りを隠すように巻く。少し前に火事に巻き込まれて、顔に火傷を負って治療中って設定にしよう。
「これでよし、と」
「どんな感じですか、ヨナ様。前が見えないとかはありますか?」
「大丈夫。問題ないよ。締め付ける感じがちょっと気になるけど」
「どうしても外に出ないといけない時だけつけましょう。基本的には宿でじっとしてれば、騒ぎにはならないでしょう」
「でも、この町に来た理由って」
「そうなのよねー。師匠に、ヨナくんの異能について訊かなきゃいけない。そのためには、ヨナくんを外に出さないとね」
「わかった。我慢して包帯つけたまま出歩くよ。お腹もすいたし、外に出て食べない?」
「いいの? じゃあ行きましょう」
「酒も飲みたいしなー」
「面倒になるから、それは駄目よ」
「なんでだよ!?」
抗議するキアをなだめながら、宿屋から出る。もふもふは宿屋に預けた。




