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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第5章 魔女の師

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5-2.ゾーラの師匠

 ゾーラは少しだけ遠い目をした。


「あたしの歴史学の方の師匠よ。異能者じゃないから、魔法については専門外。どこかの貴族の娘だったそうだけれど、学問に興味を持って家を飛び出し、これを極めることを決めた才女。王都の小役人の娘でしかなかったあたしの才覚を見抜いて、学術院に推挙してくれた恩人でもある」

「才覚?」

「ええ。物覚えがいいとか、物事に興味を持って調べたがるとか。視点が独特だとか。元々の知識が無くてもわかる、頭の良さをあたしに見出したらしいの。自覚はないけどね。あとはまあ、趣味も似たようなものだったから気が合ってね」


 今言った才覚は、師匠がゾーラに告げたことなんだろう。ゾーラは自分からそういうのを堂々と言う性格ではない。ちょっと恥ずかしそうな様子だ。


 趣味っていうのは、よくわからないけど。


「ああそうだ。あたしを見出したのは、異能者だからなのも少しはあるかもしれないわ。師匠は口には出していないけどね」


 そう付け加えた。


「歴史を教えてくれたわ。それから、書物に書かれているのは既知の歴史しかないってこともね。過去の未知の出来事を探り、歴史の見えない所に光を当てるには、書庫から飛び出すしかないと」

「だから村の祠を開けようとしたのか」

「ま、そういうことね。見たことのない情報を集めて記録して、それをまとめて過去の出来事を探る。これが歴史学のやり方よ」

「では、師匠さんも未知のものを記録するために旅に出たんですか?」

「そうよ。今でも時々は旅に出て、研究をしているはず。けど基本的にはサラシオの町に定住しているはず。そこを終の住処とするって言っていたわ」

「ジェイザックの研究のために?」

「ええ、そう。師匠はジェイザックに強い興味を持っていた。その生誕の地で、生涯研究をしたいと言っていたわ」

「素敵な生き方ね。今もジェイザックのこと、いっぱい調べてるんでしょうね!」

「だといいわね。あたしも会うのは久しぶり。師匠が向こうに行って、もう五年くらい経つから。元気にしてるといいんだけど」


 伝説が大好きなアンリは目を輝かせていて、ゾーラも微笑み返した。彼女にとって師匠は、大切な人だとわかった。


 一方で、ふと疑問に思ったことを口にした。


「ゾーラってさ、学校には行ってたの?」


 学術院は学問の追求と、学校の運営を担当している役所だ。学校とは、国内に唯一存在する王都のあれだ。


 金持ちしか行けない場所だ。国中から貴族やそれに準ずる家の子息がやってきて、金持ちとしての振る舞いを学ぶ場所。学問を身に着けることは当然としても、将来的に国を運営する人たちが交流を持つための場所という役割の方が、今は大きくなっている。

 僕の兄ふたりと姉ひとりも、今まさに在籍している。グラドウスやテナンドウスもかつては行っていた。そしてあんな人間になった。


 それなりに学はあったのだろうに、人間性は身につかなかった。学校教育の結果があれでは、もったいない。

 もちろん、きちんと学んで為政者に相応しい人格を得る学生もいるだろうけれど。


 そんな学生たちは、爵位を持つ者家の子息がほとんど。爵位を持たない家といえば、高位の宗教関係者とか、有力商人とか、いずれ爵位を得るのが確実視されている高級官僚とかだ。

 ゾーラは小役人の娘と言っていた。学校に行ける身分じゃないだろう。学費も払えなさそうだ。


「ええ。行ってないわ。両親のおかげで、読み書きは教わったけどね」


 王都の民と言っても、庶民たちの識字率は高くはない。それでも他の村々や地方都市と比べれば優れているけれど。


 ティナみたいに、実家がそこそこ利益を生み出している店の子は、文字を習う暇があったりする。王都には国立の図書館も建てられているし。

 ただし学校には行けない。そこは身分の隔たりがある。ゾーラもそうだった。


「師匠に個人的に教えられたのよ。家に伺ってね。あとは図書館にも連れて行ってもらった」


 こうして学校を使わずに、学術院で働けるだけの知識を手に入れた。


「学者さんって全員が学校に行ってたわけじゃないんですね」

「そうなのよ。意外でしょ? でも考えてみればわかるわ。学校に行く金持ちたちは、卒業したら金持ちの座を引き継がないといけないのよ。学者なんかしてる暇はない」

「た、たしかに……」

「家を継げない貴族の三男坊とか、さらにその弟とかが、学問の面白さに目覚めて学者になるケースもあるそうだけど」


 貴族の長男は跡継ぎ。次男はもしもの時の予備と、兄の仕事の補佐役。娘は他所の貴族との政略結婚や、有能な配下を見つけた時に婿入りさせて取り込むための道具。そんな役割が貴族の子息にはあるけど、三男以下は特にない。

 家の地位を継げる見込みは薄く、自分で仕事を見つけて生きることが推奨される。厳格でまともな家ほどそうだ。


 学者は、そんな生きる道のひとつ。


「所属している学者たちが、見込みのある人間を見つけて誘う。そうやって職員の登用をすることが多いのよ」

「知らなかった……」

「各地の歴史の痕跡を探すために旅をする歴史学者は、その役目にもぴったりね。もしかしたら師匠は今も、それをやってるかも。サラシオの街で庶民の子供たちを集めて読み書きを教えて、学問を身に着けさせる。見込みのある子供を見つけたら学術院に紹介する、みたいなね。今でも定期的に研究成果を王都に送っているから、そのついでに有力な子の情報も送ってるかも」

「なんだかゾーラさん、いつも以上に口数が多いです。それに嬉しそう」


 ティナがそっと耳打ちした。


「うん。師匠のこと、よほど尊敬してるんだろうね」

「ゾーラさんにも、大好きで憧れる人っているんですね」

「僕たち、ゾーラのことあまり知らないで一緒にいたからね」


 ちょっと変な所があるけれど、物知りで頼れる学者。そんな彼女の過去が知れたのは良かった。


「ねえねえゾーラ。あなたも、将来の学者を探しているの?」

「そうね。まだまだ、有望な子供を見つける目は身についていないわ。あたしには師匠みたいなことは出来ない。まだ、だけどね」


 それからゾーラは僕に目を向けた。


「ヨナくんは学者向きかもね。学があるし頭もいい。行動力もある。なってみない? あたしが手取り足取り教えてあげるわよ?」

「なんか教育に悪そうなので、駄目です」

「そうよ! ヨナは英雄になるんだから! 学者とは違うの!」


 なんで僕の将来をティナとアンリが止めるんだろう。学者になるの、ちょっとありかなって思ったけれど。

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