4-6.夜襲
深夜。僕が見張りをする番になった。横になると眠りそうだったから、目を擦りながら壁にもたれかかる。
静かな夜だ。小さな村の人間、全員が寝静まっているように思える。それが普通なはずなんだけど、何かおかしなことになっている疑念は拭えなかった。
ふと、視界の端に動くものがあった。アルレナがむくりと起き上がり、キョロキョロと周りを見回した。心細いって顔をしながら、フラフラと歩く。
「こんばんは。どうしたの?」
近づいて静かに声をかければ、彼女はピクリと肩を震わせた。僕を見ながらもじもじしていたけれど。
「トイレ……」
恥ずかしそうに言う。
「そっか。一緒に行こう」
「うん」
知らない場所で怖いよね。そのために両親を起こすのも悪いと考えているのか、ひとりで行こうとしていたらしい。
僕がついていくと言えば、不安げな顔が少しやわらいだようだった。
みんなが寝ている大部屋から、ふたりで出てトイレの方へ向かう。アルレナが中に入っている間も、僕は周囲に目を向けていた。腰に差している剣をすぐに抜けるように触れている。
何事もなくアルレナは出てきて、大部屋に戻ろうとして。
大部屋を覗く男の姿が目に入った。こちらからは彼の後ろ姿が見えている。位置的には僕たちの近くを歩いて来たはずなのに、その足音は全く聞こえなかった。
そしてどうやら、男はひとりだけではなかったようだ。建物の入口のあたりで、微かに人の気配がした。
何人もの男が足跡を立てないように、建物内に入っていているところだった。上は五十代ほど、下は二十に届かないような若い者もいた。
明らかに様子がおかしい。全員、手には武器を持っている。太めの棒とか農工具が多いけれど。
彼らは僕と鉢合わせすることになった。武器を手にした男たちは動きを止めて、こちらと見つめ合う。彼らの表情からは感情が読み取りにくい。夜だからよく見えないのもあるけれど、それだけじゃない。
武器を持っているのに、殺意とか闘争心とか、そういう物が感じられなかった。ただ、やるべきことを作業的にやるっていう雰囲気だ。
それが不気味だった。
「怖い……」
アルレナが僕の服の裾をぎゅっと握った。震えているようだった。
僕は息を吸い込み、口を開けて。
「みんな起きて! 様子が変だ!」
大声を出せば、向こうも足音を殺す必要はないと判断したのだろう。武器を構えてこちらに襲いかかってきた。
無駄のない動きだ。僕もすかさず剣を抜いた。
「アルレナ、トイレの中に隠れてて」
そうお願いすれば、彼女は弾かれたようにトイレに戻っていく。
僕は鎌を振り下ろしてくる先頭の男の一撃を回避して、逆に奴の体を斬りつけた。向こうが咄嗟に身を引いたから、胸のあたりに切り傷を作っただけ。止めを刺そうとしたところ、別の若い男が棒を槍のように突いてきた。先端に包丁が括り付けてあって、本当に槍として使えるようにしている。
これを回避して剣を振り、槍の先端を床に叩きつけ、さらに踏みしめた。男が棒を取り落とし、包丁が括られている箇所が折れるのを見れば、すかさず掴んですくい上げるように振った。
体が熱くなる感覚。聖剣となった棒は、元々それを握っていた男の手を逆に切り裂いた。指がボトボトと音を立てて地面に落ちるのを見ながら、奪った棒でそいつの首を貫く。この武器を使うのに専念するため、片手で持っていた剣は床に落とした。
狭い屋内では長い棒が容易く人間を切断できるのは大きな武器だ。振り回すだけで手近にいる敵の体がスパスパと切り裂かれていく。
大部屋の方でも動きがあった。騒がしくなり、声が聞こえて、扉が開いた。これで窮地は脱することができそうだ。
結局、この人たちが何者なのかはわからないのだけれど、それは後でゆっくりと聞こう。今は敵の戦意を削ぐことに集中して……。
「動くなガキ! こいつがどうなってもいいのか!?」
横から粗暴な声が聞こえた。見れば、片手に斧を持った男が、もう片方の腕をアルレナの体に回して拘束していた。彼の背後には、無残に壊されたトイレの扉。
恐怖のあまり大声で泣き叫ぶアルレナ。そちらに注意が引きつけられた瞬間、床に転がっている男が突進してきた。さっき棒で切り倒した男のひとりだ。片腕の肩から先がなくなっていて腹も割れて血が出ているというのに、まだ生きていた。そして全力でぶつかってきた。
咄嗟に棒を構えて迎えるが、向こうの勢いはすごかった。奴の胴体が真っ二つになったけれど、聖剣の鋭さゆえに男の勢いを削ぐことはできなかった。ふたつに割れた死体が勢いのままぶつかり、僕は弾かれるように背後の壁に叩きつけられた。
ヨナ様と、僕を気遣う悲鳴が聞こえたけれど、応じることはできなかった。
――――
ヨナの声が聞こえて、キアは即座に飛び起きた。
「おい! みんな起きろ! 緊急事態だ!」
声を張り上げながら、周りで眠っているゾーラたちを起こす。
商人の護衛たちは、何事かと戸惑いながらもすぐさま起き上がって武器を取っていた。宿自体は不審に思っていなかった様子だけど、有事の時の動きはさすがだ。
守られている商人たちは、ろくに動けずオロオロするだけ。すると母親が、娘がいないことに気づいて叫び声を上げた。




