4-3.狼との戦い
とてつもない数の狼の襲撃に、村人たちも客人だけに対処を任せるわけにはいかないと考えたのか、村の男たちが武器を持って各々の家を守っていた。普段仕事に使う農耕器具だけれど、無いよりはマシだろう。
そんな彼らにも狼は襲いかかる。鍬を振り回して遠ざけようとする村人を、狼は飛びかかるタイミングを測るみたいに睨んでいて。
それを僕は横から蹴飛ばした。怯んだ狼の胴を、聖剣で切り裂いた。
別の狼が側面から飛びかかってきた。咄嗟に姿勢を低くして避けながら、奴の後ろ足を掴んで強引に地面に叩きつける。側面から地面に激突した狼の鼻を踏みしめながら、首を枝で撥ねた。
どこかから悲鳴が上がった。商人の護衛らしい男が、狼に手首を噛みつかれて持っていた剣を取り落としてしまった。
抵抗する術が無くなった男に、複数の狼が襲いかかる。手足や胴体に容赦なく噛みついていった。
「あれ、明らかに人を食おうとしている……?」
僕も狼の生態に詳しいわけじゃない。けれど人間よりも適した食べ物は村の中にたくさんあるはずだ。牛や馬といった家畜なんかを狙ったほうがいい。抵抗もしないし。
なのに狼は積極的に人間を襲っていた。なぜだ?
考えてる暇はない。僕の方にも狼が迫ってきた。足首に噛みついてきたそれを回避して蹴飛ばす。なおも喰らいつこうとする狼だけど、横から飛んできた闇の球体に殴られて横転。すかさず剣で止めを刺す。
「ゾーラありがとう!」
「どういたしまして! そろそろ狼の数も減ってきた頃じゃないかしら!?」
「かもね!」
一時は何十体といた狼は、残り数頭となっていた。アンリがもふもふを走らせて、狼たちを蹴飛ばしながら追い立てていた。人間よりも、あの大きな馬の方がキックは強そうだ。それにより、群れの多くは森に帰っていったのだろう。
まだまだ人間の肉に執着がある狼たちも、順次狩られていった。
村には数十もの狼と数体の人間の遺体が残った。死んだのはみんな、ザサール商会が雇った護衛たち。さっき狼に群がられていた男も、地面に横たわって息も絶え絶えな様子だ。
「ゾーラ、治療できる?」
「学者だからって何でもできると思わないで。医者じゃないんだから。……まあ診てみるわ」
「狼に噛まれた所の血は、少し抜いた方がいいぜ。膿が少なくなる。傷口は焼いて塞ぐのが一番だ。血が止まる」
「そういう知恵はキアの方が詳しそうね。手伝って」
傷だらけの男に駆け寄るキアとゾーラ。
「ひどいわね。今後、ちゃんと護衛の仕事を続けられるか微妙なところ。けど、死ぬことはないわ。安心しなさい。誰か包帯持ってきて! それまでに応急処置するから」
「熱いけどお前のためだ。我慢しろよ。ほら、この布を噛んでろ」
ランプの炎でナイフを熱して、それを傷口に当てていく。火傷にはなるけど血は止まった。
そこに闇を包帯のようにして巻いていく。本物の包帯が来るまでの応急処置だ。
やがて商人たちが荷馬車から包帯を持ってきて、彼の傷口に巻き始めた。とりあえず包帯に血がにじむ様子はない。
なんとか処置を終えて、命を救うことが出来た。
「疲れたわ。今日はもう休ませてもらうわね。狼の襲撃がまたあったら起こしてちょうだい」
ゾーラにとって異能を使うのは疲れること。フラフラと村長の家に戻っていく。
まだ日が昇るまでは時間がかかりそうだ。
「ヨナ様。わたしたちも休みましょう」
「うん。……また、誰かは起きないとね」
「そうですね。わたしがしばらく起きておきます。ちょっと眠れそうにないので」
「ティナも疲れてるでしょ?」
彼女も狼を相手に戦っていたのは、よくわかる。
「いえ! 大丈夫です! わたし、ヨナ様の近衛兵なので! 頑張って起きますね!」
あ。このパターンは。
「すう……すう……」
案の定、ティナは村長の家ですやすやと寝息を立てる。しかも僕にくっつきながら。
僕も横になっていて、それでも眠るわけにはいかないから必死で眠気に耐える。キアもアンリも疲れて眠っているから。
「ヨナしゃま……わたしが守ります……」
僕の手をぎゅっと握ってそんな寝言を言っている。夢の中では、近衛兵として大活躍しているのかな。
寄り添ってくれるティナを振り解いて起き上がるわけにもいかず、僕はティナの頭を撫でながら、横になったまま起き続けた。
窓の外を見ると、星空がきれいだった。平和だな。外には今も、いくつもの死が転がっているというのに。
「申し訳ございません! またヨナ様を差し置いて眠ってしまいましたー!」
ティナが起きた時、随分騒がしくなったことは言うまでもない。
翌朝、その死体の片付けを、村人や商隊と共に行う。僕たちがそれをする義務はないけれど、単に見ているだけなのも居心地が悪いものね。
狼の毛皮を剥がして活用する。商人にとっては商材になるだろうけれど、荷物はいっぱいとのことだから、村で有効活用してもらうことにした。狼の肉は森まで運んで置いていく。木々が育つ栄養になってもらおう。
問題は人間の遺体だ。彼らの多くは近くの街で雇い入れた冒険者。登録証はあっても、身元なんて名前くらいしかわからない。家族がいるかもわからない。
街に戻って、その死を伝えに行く暇なんかない。遺体を運んで、いるかもわからない家族に引き渡す手間をかける暇も、もちろんない。
だから名前だけ控えて、街に戻った時に冒険者ギルドに報告することにした。遺体は、村にお願いして外れにある墓地に埋葬する。
葬儀もごく簡単なもので、掘った穴に遺体を入れる際に祈りを捧げるだけ。ちゃんとした祈りができる神父はいないから、なんとなく言葉を知っている者がそれっぽく言うだけ。
冒険者なんてこんなものだ。誰でもなれる代わりに、その命は軽い使い捨ての存在。死後の扱いも丁重ではない。気楽な仕事の結末は、こういうもの。
僕たちだって他人事ではない。もちろん、死ぬつもりはないけれど。




