4-4.護衛の依頼
重傷を負った男だけは、なんとか荷台に寝かせる余裕があったため、セイホレハの街までは運ぶことにした。そこで降ろして病院に運び、その後の生き方は彼自身に任せる。
一連の仕事を終えた時には昼過ぎになっていた。今からこの村を出て、日が暮れるまでに次の町なり村なにり着くことはできるかな。
今夜もこの村に泊まって、狼の襲撃に怯えながら夜を明かすのは御免だな。次に泊まるのがやはり村だったら、狼が出かねないのは同じだけれど。
でもとりあえず、重労働を終えた僕たちは村の片隅で座って休んでいた。これからどうするか、みんな悩んでいて。誰から切り出すべきか互いの様子を伺っていると。
「……」
人が近づいてきた。小さな女の子。ザサール商会の娘の、アルレナだ。こちらを見て、何か言いたげな様子だ。けれどよく知らない人たちの前で切り出せないのか、もじもじしてるだけ。
人見知りするタイプの子なんだろうな。
「こんにちは! どうしたの?」
それに気づいたアンリが、すぐに自分から話しかける。こういうのが本当に得意だ。アルレナの方はビクリと体を震わせた。
少し怖かったかな。けど、ニコニコと笑顔を向けているアンリに敵意はないと察したのか、意を決したようで。
「お、お父さんたちが。呼んでいます」
「お父さん?」
つまり、この商隊を率いる責任者だ。確かラマルさんだったかな。
アルレナの案内で宿屋の部屋へ向かう。昨日も夜の戦闘でも、ついぞ姿を見せなかった男が、部屋の椅子に座ってにこやかな笑顔を浮かべていた。
ラマルは恰幅の良い男だった。普段は良い生活を送っているのだろうな。こういう村に泊まることも少ないに違いない。
狼に襲われ続けるなんて、生まれて初めてなのだろう。
傍らには妻のソノレナも控えていて、こちらに会釈を向ける。
「昨夜はありがとうございました。こちらがご迷惑をおかけした立場なのに、狼の襲撃に共に戦ってもらうなんて」
「いえ。そういう約束でしたので」
「さ、おかけになってください」
ラマルはゾーラに視線を送りながら声をかける。僕たちの中で最年長で、雰囲気も落ち着いている。リーダーとして見られやすいのだろう。昨夜ソノレナと主に話したのもゾーラだし。
ゾーラ自身、この五人の中では自分が交渉ごとに臨むのが最適だとわかっているのだろう。ラマルの正面の椅子に腰掛けた。仕事を終えたアルレナは、母の後ろに隠れる。
「お尋ねしたいことがあります。昨夜そちらの男の子が、木の棒で狼を切り裂いているのを妻が見ました」
「ああ。そういう異能です。珍しいですが、効果がわかりやすい単純なものですよ」
ラマルの質問に、ゾーラはこともなげに答えた。別に隠すことじゃない。
堂々とした返事に、ラマルとソノレナは顔を見合わせ頷いた。
「わかりました。今回は皆さんにお願いがあります」
「なんでしょう?」
「昨夜の襲撃で、雇った護衛を多く失いました。そして危機は去っていません。狼はまた来るでしょう。移動中であっても容赦なく」
「ええ。そうですね。理由はわかりませんが、奴らは人間を積極的に襲って、食べようとしています。商隊など格好の餌でしょう」
昨日の狼の行動から、それは明らか。理由はわからないけれど、警戒するしかない。
「そこで、皆さんにセイホレハまで護衛をしていただきたいと考えています」
「護衛ですか」
「はい。皆さんの実力は聞いています。みんなお若いのに、狼を相手に一歩も引かなかった。しかも戦いに使える異能を持っている者もいる。その力を見込んで、我々を守っていただきたい。もちろん報酬は出します」
「あたしたちは冒険者。ギルドを通さない仕事を安易に受けるのは、本当は規則違反ですわ」
「承知していますとも。街に着けば、すぐにギルドに事情を説明します。状況と死人の数を出せば、ギルド側も危機回避のための措置と納得します。そういう規則はギルドにありますので」
「なるほど。確かに、こちらとしてもメリットはあるわね。思ったより危険なこの森、あたしたちだけで抜けるよりは楽になる」
「それはそうだね」
僕たちはセイホレハの街に行く必要はない。ゾーラの知り合いがいるサラシオには、別のルートから行ってもいい。
とはいえ報酬が貰えるのは魅力的。別ルートは必然的に遠回りになるから、嬉しい方法とも言えない。
「やりましょう! 困ってる人を見捨てるなんて出来ないわ!」
アンリが最初に声を上げた。
まあ、そう言うだろうな。英雄アンリーシャなら迷いなくそうするとかの理由で。
みんなも同じような意見らしかった。
「わかりました。ご依頼、引き受けます」
「ありがとうございます。助かりました。早速、今から村を出ようと思います」
「少しでも街に近づきたいと。目標は?」
「隣にある村です。また、囲いのない集落で夜を明かすことになりますが。そこさえ抜ければ、翌日にはセイホレハの街に辿り着けます」
「わかりました。行きましょう」
今日動かなければ、街に着く日が一日遅れる。セイホレハに着きさえすれば、城壁で囲まれた環境でのんびり過ごすことができる。
たぶんそのうち、街の政治家たちが森の異変を問題視して兵を派遣することだろう。狼の大量発生の原因を突き止めて対策してくれる。それを待ってサラシオに行けばいい。
今から動くべきか。
というわけで、慌ただしく出発。お世話になった村人たちにはお礼を言っておいた。




