31. 失ったもの。
…まあ、確かに。
この国で幼い皇子が、母王妃なしで生きてくのは難しい。
幼なけりゃ殺すのなんて簡単。
あの手この手で他皇子の派閥の奴らから狙われるだろう。それに、母親が元平民なら味方勢力はほぼいないに等しいだろうしな。
そう考えると、確かに雯艶は相当キツイ幼少期だったのは想像に難くない。
当時四つだろ?
よく生きてたなぁ。
雯艶にとって“原因を作った”のが綾艶で、殺したいほど恨んでる…てのも、まあ、なくはない話だな。
「長々と語ってしまいましたが…こうして僕が起こしてしまったあの事件をきっかけに、派閥争いが本格的に動き出してしまったんです。」
「で、今のお前達の関係になったと。」
「はい…。」
寂しそうに頷く綾艶を横目に、梅の花弁が舞う庭先を眺める。こんな重苦しい話しの間にも、景色は変わらず美しいままだ。
…世は無情…か。
「兄弟同士で争い合って、自由に関係を築けないだなんて…“お前ら”も大変だよな。」
ボソリと出た呟きに、綾艶がフッと表情を緩める。
「…選定者様にはご兄弟が?」
「ん〜、兄弟…か。まあそうなるか。
同じ土から生まれ造られた兄姉弟子達がいるな。」
俺の返答にクスッと笑う。
「フフッ、成程。選定者様はその兄姉弟子の方達から愛され、とても仲がよろしいのですね。」
「…まあ、そうとも言うな。
導人には争いや仲違いする環境も理由もねぇからな。てか、何で分かんだよ?気持ち悪りぃな。」
そう怪訝な顔で言ってやると、綾艶は驚いた顔でこちらを見ていた。
…んだよ。
「…否定しないんですね。フッ、貴方の故郷はそれだけ暖かな場なのですね。貴方の今までも言動を見ていれば…貴方が愛されていたことは分かりましたよ。」
俺の言動を…て、どこを見てそう思うんだよ?
変な奴。
「ケッ、そーかよ。」
…。
それから暫く、互いに静かに茶を飲み外を眺めた。
そよそよと吹く風が梅の香りを乗せ頬を撫でる。
こーしてると、この国も平和に思えるんだがな…。
「なぁ、もし…元の関係に戻れたら、お前達の地獄は少しは軽減するのか?」
意味のない質問が口から溢れる。
それに綾艶は外を眺めたまま答える。
「…そうですね。兄弟仲良く何もなくここまで来れていれば、この息苦しい宮廷でも少しは息がしやすかったかもしれませんね…。」
そこまで言うと一息つき瞼を閉じる。
「…でも、それは周りが許さないでしょう。あの事件がなくとも、結果は同じだったでしょうし。
…もし今、元の関係に戻れたとしても…
もう元通りには戻れない。
…失ったものが多すぎますから…。」
そうだな。
何もなくここまで来れてれば別だったかもしれねぇが、それはあり得ないし。
今更関係だけ戻っても元通りって訳にもいかねぇーよな。
そりゃそうだ。
何聞いてんだ、何も考えず聞いたにしても
バカすぎる。
…
そうだ、失ったものっで言えば
「蕾艶。」
こいつのことは説明書にもあんま書いてねぇし、よく知らねぇんだよな。
俺の言葉に綾艶が反応する。
「…そうですね。あの子を失った事は、僕達にとって大きな喪失となりました…。」
「あー、どんな奴だったんだ?
斐艶の実弟で、11年前に死んでて…髪と瞳が王族の色じゃなかったから、正式に王族だと認められずに公的な場には出てなかった。てことぐれぇしか情報がなくてな。」
それに、切なそうな表情をする。
「…そう、ですね…。
あの子は、ひだまりのような子でした…。」




