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32. 皮肉なもんだな


レイは先ほど選定者様が言っていたように…王族を象徴する赤系統の髪色ではなく、柔らかな生成色きなりいろの髪で、瞳も綺麗な菫色でした。その事から王族として認められず、系図にも名を記されることはありませんでした…。」


系図からも省かれてるのか。

んなら…


「当たり前だが、“皇子”じゃなかったってことだろ?なら、どうやって宮廷ここで生きてたんだ?」


皇子じゃねぇってことは、平民も同等…いやそれ以下の地位もあり得る。

そういう面倒な存在は手っ取り早く殺しちまうか、貧民街なんかに捨てるってのが一般的だが…そうではない上に、そんな存在が皇子である兄弟達と一緒にいれた…てのがよく分からん。


「それは…。父上が“王位剥奪”以外の後の事を母皇妃である第五皇妃様に全て委ねたからです。

当時は第五皇妃様が赤子を捨てるだろうと囁かれていたそうですが、彼女はレイを捨てる事はしませんでした。…それ以前に、興味を示すことすらなく…まるでいない存在かの様に、ただただ生まれたばかりの赤子を放置していたそうです。」


なかったことにしてそのまま死ぬのを待ってたのか…?

赤子にとってはこれほど残酷な事はないな。

いっそ、苦しまない様に殺してやればいいものを。


「弱っていく赤子に手を差し伸べたのは…当時5歳だったフェイ兄上でした。兄上も…母である第五皇妃様から無情な扱いを受けていたにもかかわらず、周りの反感を気にすることなく蕾を育て上げました。」


あー、斐艶フェイイェンも魔法使いってことで母親から邪険にされてる様だし、皮肉にも“普通の皇子”よりかある意味自由があったのかもな。

異端者な時点で周りからの評価として失うものなんて既にないに等しいし。


「でも、五歳児に赤子の世話なんて出来るのか?」


俺の疑問に

綾艶リンイェンがクスリと表情を和らげる。


「それは…もうフェイ兄上の才能としか言いようがないですね。それに当時、幼い僕は何もできませんでしたが、フォン兄上とジン兄上のお二人は出来る限り協力していた様です。まあそれでも…基本は誰の手も借りず斐兄上が世話をしていましたね。」


ふーん。

子育ての才能ね…表情の変化がほぼない奴なんて、赤子は大泣きし出して手がつけられなそうだがな。


「あ、もしかして斐艶のあの表情筋って生まれつきか?」


いや、無表情な赤子なんていねぇーか?


俺の質問に綾艶は少しほおけた顔をした後、表情を曇らせる。


「…流石にそれはないかと。

ですが、僕が物心ついた時には既に…。

鳳兄上の話では、昔は可愛らしくよく笑う無邪気な子だった…としか僕には分からないですね。」


「ごめんなさい」と誤り少し間を置くと、小さな声で呟く様に続けた。


「第五皇妃様は…第六皇妃様とは違い、我が子が異端者であっても愛して下さる方ではありませんから…。

彼女は誰よりも“異端”を嫌っていらっしゃる…。」


静かなその声には切なさと共に、

兄の扱いへの不満からか、怒りか滲んでいる様だった。


へー、自分以外にもちゃんと怒りを向けられるのか。


にしても、第五皇妃か。

斐艶の母親なだけあって、ダントツの美貌だったが…

毒親もいいとこだな。

家宴の席でも実の息子だってのに、斐艶へ向ける視線は常に冷ややかだったし、あたりもキツかった。


ありゃ、異端を嫌ってるのは

我が子が異端だからってだけじゃなさそうだ…。


美しいものには棘がある。

とは言うが…

棘がありすぎるものは

いつか排除されるだけだ。


さて、“あの花”は

いつまで咲いていられることやら…。


そんなことを考えていると、綾艶が「話が逸れてしまいましたね」と茶器に手を添え再び話し出す。


「…王家から存在すら消されてしまった蕾は、

厳しい状況下の中でも斐兄上が懸命に守り…愛情を注いで育てて下さった。だからあの子は、周りから不当な扱いを受けていても挫けることなく、明るいひだまりの様な笑顔で僕達兄弟を照らしてくれる優しい子に育ちました。」


ああ、蕾艶の話だったな。

にしても、斐艶の愛情…ね。

当の本人は“親からの愛情”てのを知ってるのかね。

皮肉なもんだな…。


「それに、蕾とウェンは同い年だったこともあって、双子の様に仲が良かったんです。

…第六皇妃様の事件後、独りぼっちになってしまった雯は…蕾の所へは通っていた様でした。

きっと、“兄”を信じられなくなった雯にとって、“双子の弟”である蕾は唯一の心の拠り所だったのでしょうね。」


…。


「でも、そんな蕾艶も11年前に死んでる。

それで更に雯艶ウェンイェンは壁を作る様になったのか。」


ここは聞かずとも分かるな。

蕾艶が支えだったなら、そんな義弟を失った雯艶は更に心を閉ざしただろうな。


そして、兄でありながら

ほぼ親同然に愛を注いで育てた斐艶の心にも大きな穴を作っただろう…。


綾艶は言葉なく静かに、悲しげに笑うだけだった。


「…蕾艶はなんで死んだんだ?」


【補足】

蕾艶レイイェン

・第五皇妃の息子で、斐艶フェイイェンの実弟

雯艶ウェンイェンと同い歳

・享年8歳

・生成色の髪(クリーム色みたいな)

 すみれ色の瞳

※他兄弟…赤系の髪、翡翠・琥珀系の瞳


生まれて来なかった存在として扱われていた。

が、皮肉ながらも“王族、皇子でなかったからこそ”兄達が素直に愛せ、愛情に素直に応えられた部分もあるのかもしれません…。

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