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29. 明日…。


「で?」


「まー大体は察してるが、結局はどーなって何がお前の罪なんだよ。」


霓落ニールオが追加で出してきた茶菓子をつまみながら、言葉を詰まらせる綾艶リンイェンに聞く。


後ろで何やら「容赦ないっすね〜」なんて言ってる奴がいるが無視だ無視。


「…。

その後、僕が無理やり提案したお茶会は滞りなく始まりました…。」



-------------------------------


茶会の会場は翠霞宮すいかきゅうの景色が楽しめる東家。支度を済ませ第六皇妃が来ると既に第二皇妃が待っていた。


池をボーッと眺める第二皇妃は、遠目から見てもいつもの彼女ではないと分かる。

疲れ果てたような…全てを諦めたような…。

その虚な目は何を映しているのだろうか。


第六皇妃は足元で心配そうに彼女を見る雯艶ウェンイェンの頭を優しく撫で、目線を合わせる。

じっと、目に焼き付ける様に息子を見つめ抱きしめる。愛おしそうに愛おしそうに抱きしめる。


「…雯艶。

…強く、強く生きなさい。

初めはダメかもしれない…

挫けそうになるかもしれない…

それでも、前を向いて努力をしなさい。

自分の居場所見つけて

好きな事をして、好きな様に生きなさい。

そして一番は…

貴方を愛してくれる者を愛し、守り抜きなさい。


…愛してるわ、私の可愛い阿雯アーウェン。」


雯艶のまろい頬を撫で、互いの額同士をつけながら第六皇妃は穏やかな眼差しのまま、断固とした言葉を紡いだ。


迎えにきた綾艶はその光景になぜか胸が苦しくなり、声を掛けることができなかった。

先程までの第六皇妃が来てくれた事への嬉しさは一瞬にしてどこかへ消える。

少し聞こえてきた第六皇妃の言葉は最後のお別れみたいで…何故そんなことを今言うのか理解できなかった。…理解したくなかった…。


不安で隣に並ぶ兄を見上げれば、錦艶ジンイェンも複雑な表情をして親子二人を見つめている。


ひとしきり雯艶を抱きしめた後、第六皇妃が綾艶達の方を向く。


阿錦アージン阿綾アーリン。お迎えありがとう、さあ行きましょうか。」


明るくそう言い立ち上がる第六皇妃に、俯いた錦艶が問うた。


「…貴方なら、違う道を選ぶことも出来たのではないですか?」


拳を強く握り締め錦艶はさらに紡ぐ。


「…貴方の様な光は…、ここには必要です。

…光の消えた地獄は…ただの地獄です。

…この方法しかないのですか?

それに、これでは傷つく者が多すぎます…。

…これでは、きっと…」


顔を歪め言い淀む錦艶の言葉を遮る様に、第六皇妃は幼いその頭を乱雑に、それでも優しく撫でる。


阿錦アージン。前々から思ってたけど、やっぱりあなた、本当に頭が回る子ね〜!」


感心した様にそう言い、フッと眉を下げ困った顔をする。


「…きっとこれからも人一倍、沢山のことに気付いて、頭を巡らせて…人一倍苦労しちゃうわね。

あなたみたいな子は“先”を見据えすぎて、自分の気持ちをすぐ無下にするんだから。」


小さく息を吐き


「まったく誰に似たんだか…“ここ”には“そんな人達ばかり”ね…。」


独り言の様に呟いた。


「いいこと?“せめてあなたは”この先、自分の気持ちを犠牲にする生き方はしちゃダメよ!」


茶化す様にそう言い錦艶の頭をクシャクシャにする。


「因みに“これ”は、自分の気持ちと向き合って私自身で決めた事よ。

…“後の事”は、ごめんねとしか言えないけどね。

だからこの先、私のことを憎んでくれていいわ。

…でも、あなた達ならきっと大丈夫だと信じてる。

阿鳳アーフォン阿斐アーフェイ阿蕾アーレイにもよろしくね。」


そう言いポンポンと錦艶と綾艶の頭を撫でる彼女の笑顔は、いつも通りとても眩しい。


錦艶は悔しそうな表情をしつつ、拱手をし

綾艶は…これから“何か”が起きてしまうのかもしれないという予感が頭の中をグルグルと巡り、言いようのない恐怖に震えた。


そして、第六皇妃は不思議そうにこちらを見ていた雯艶を振り返り「じゃ、私は“いってくる”わね。あなたはここで兄上達と仲良くしてるのよ。」とひと撫でし東家へと足を進めた。


「明日はおでかけだよ!わすれないでね!」


雯艶は無邪気にそう言って笑顔で手を振りかえす…。


……。


“彼女との明日”など…



第二皇妃と第六皇妃は茶会を開始し

しばし言葉を交わしていた。


しばらくして、第二皇妃が

「お姉様のために特別に用意したお茶です。

どうぞお召し上がり下さい。」

と新たな茶を出した。


第六皇妃は嬉しげに礼を述べ

その香りを楽しむ様に一口、また一口と味わう。


---だが、茶器を卓に戻した刹那


その身体は崩れ落ち、

床に付したまま動かなくなった。


それに気付いた子供達が駆け寄った時には…


…息は、

すでに途絶えていた…




彼女に明日は


なかった…



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