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28. 第六皇妃


タタタッと軽い足音が回廊に響く。


綾艶リンイェン翠霞宮すいかきゅうを出て第六皇妃の宮、晴耀宮せいようきゅうへと来ていた。


雯艶ウェンイェンに会いに頻繁に来ているため、今や宮の者達も綾艶がいる事に疑問を持たず自由に通してくれる。

綾艶も慣れたもので、道に迷う事なく真っ直ぐ第六皇妃の部屋へと向かう。


第六皇妃の部屋の前まで来ると女官が御用向きを聞いてくる。


「第六皇妃様!!母上を助けて下さいっ!!」


涙ぐみながらそう懇願する綾艶の声が聞こえたのか、中から第六皇妃の「通してあげて!」と言う声が響いた。



第六皇妃…

彼女は平民出身の女性だ。

宮女募集の試験を受けに来たところを、何故か第六皇妃に抜擢された稀有な経歴を持つ。


更には皇帝と頻繁に茶を共にしていることから、“皇帝の寵愛”を受ける元平民妃として有名だ。


その事から周りからの嫌がらせや反発は大きく、彼女に仕える者達も少ない。普通の者なら挫けてしまいそうな肩身の狭い状況下だが、彼女はとても強い女性だった。

元々、明るくさっぱりした性格だったため、周りからの評価や対応などは気にも止めず真っ直ぐ前を向いて笑っているような人だ。


第二皇妃は、気の弱い自分にはないものを持つ彼女に憧れと尊敬を持ち「お姉様」と言い慕っている。今や本当の姉妹のような関係で、お互い皇子を産んだ今でもそれは変わらない。



駆け込んできた綾艶を片膝をついて出迎えた第六皇妃が抱き止める。


阿綾アーリンそんなに慌ててどうしたのよ?それに、あの子に何かあったの?」


綾艶をそのまま抱き上げ、椅子に座らせる。

幼い手を握り、その場に膝をつき綾艶を見上げる形で問いかけた。


「…グズ…。母上が泣き止んでくれないんです…。ずっと震えてて、辛そうで…。」


鼻を啜りながら話す綾艶の言葉に第六皇妃は少し考える素振りをする。


「…確か、実家に呼ばれてて今朝帰って来たのよね。……。」


何か思い当たる節があったのか瞼を閉じ眉間に皺を寄せる。少し間を置きいつもの雰囲気に戻ると、綾艶に優しく問う。


「…それで?阿綾アーリンは私に何をしてほしいのかしら?」


「…母上とお茶会をしてあげて下さい。母上は第六皇妃様が大好きだし、第六皇妃様といるととっても楽しそうだから…。


きっと、いつもみたいに第六皇妃様に会ってお話しすれば、いつもの母上に戻ってくれると思うんです!」


綾艶は握られた手を握り返し、幼いながらに考えたことを精一杯伝える。


その言葉に第六皇妃は「…元に戻ってくれるといいけど…」と小さな声で呟き顔に影を落とした。


すぐに気を取り直し綾艶の気持ちに応えようと口を開いた時、タタタッと軽い足取りが聞こえ扉が開けられた。


「リン兄上!!いらっしゃっい!」


入って来たのは第六皇妃の息子で御年四歳の雯艶だ。真っ直ぐ綾艶の元に来て椅子に座った義兄の腰に抱きつく。

そして、綾艶の顔を見て心配そうな顔をする。


「…あれ?リン兄上、ないてるの?

…ハッ、まさか母上におこられた?!」


お説教中だと勘違いし、何を思い出したのか頭を手で押さえ警戒した顔で母の方を見る雯艶。


綾艶は可愛い義弟の登場に涙を袖で拭い、椅子から降りると雯艶の頭を撫でる。


「ううん、怒られてないよ。今ね第六皇妃様にお茶会のお誘いをしていたんだよ。」


そう言い撫でる綾艶の手に擦り寄りながら、ハッとする。


「ハッ!おちゃかい?きょう??きょうはダメ!きょう母上はボクとお出かけするんだ!」


こちらを見上げ頬を膨らませそう言う雯艶に、綾艶は眉を下げる。


「…そ、それじゃぁ…明日なら…」


「いいえ。お茶会は今日やりましょう。

…“早い方が”あの子の為にもいいわ。」


言い淀む綾艶の言葉を遮る第六皇妃。

母の言葉に「えー!!なんで?!おでかけするって言ったのにー!!うそつき!うそつきババァー!!」とごねる雯艶の頭に「誰がババァじゃ!」と軽く拳を入れつつ、第六皇妃は二人を両腕に抱き上げる。


「今ね、第二皇妃がとても悲しんでいるんですって。阿雯アーウェンもあの子が泣いてるのは嫌でしょ?」


母の問いかけに頬を膨らませつつ「…うん。第二こうひさまは、笑ってる方がいいよ…。」と答える雯艶。


「いい子ね。

お出かけは…“いつかきっと”、また出来るわ。」


「うん!明日しよ!!」と元気よく答える雯艶に、第六皇妃は苦い顔で笑うだけで頷くことはなかった。


「…?第六皇妃様?」


母の反応を気にすることなく、“明日”はあそこに行きたい、あれをしたい。と喜ぶ雯艶とは違い、第六皇妃の表情に気付いた綾艶が心配そうに呼ぶ。


「…阿綾アーリン。どうかこれからも、この子のことをよろしくね…。」


第六皇妃は綾艶を抱き寄せ、絞り出したような小さな声でそう言った…。



————————————



「…。


今思えば、第六皇妃様はあの時既に

お茶会が“どの様なもの”になるのかを察していらしたんでしょう。


幼く、意図を読み取れなかったとはいえ、軽く返事をしてしまったあの時の僕を消し去りたいです…。」


綾艶が昔話を始めたので、景色と茶を楽しみつつ耳を傾けていた。


今まではスラスラと人形の様に語っていたが、気持ちのガタがきたのか握る拳に力が入りだした。


消し去りたい…てか、

今にも消えそうな表情しやがって…。


俺は慰めるのとか苦手だかんな?


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