26. 物騒だなおい。
…。
綾艶に向き直り、真っ直ぐに目を見る。
「つまり、お前は“王座には興味がない”と?」
核心を突く俺の質問に、綾艶は背筋を伸ばし真っ直ぐに俺を見返してくる。
「はい。僕は王座を望んでいません。」
ピシャリと言い放つ。
その言葉にいつもの弱々しさなど欠片もなく、
確かな意志と覚悟があった。
…。
……。
「っはぁぁーー…。」
張り詰めた空気の中、俺のため息だけが響く。
…あーー!!
ックソ!
ここが“万姫帝国じゃなけりゃ”
こんな言葉に、こんな面倒くせぇ気持ちにならんですんだってのに!!
どこの国でも皇子達の気持ちなんて関係ない。
最終的に決定を下すのは選定者だ。
本人達の「なりたい、なりたくない」なんて言葉、決定のための一つの参考として聞き流せたんだろうよ。
結局、だれが“王になろうが、ならなかろうが”俺たちには関係ないし、責任もない。
…だがここは万姫だっ。
まあ、ここでも関係ないし、責任もないことには違いないが、選定者の気持ち的にそういうわけにもいかないのがこの国だ…。
だから、誰もここの選定者をやりたがらないし、ずっと師匠が受け持ってたわけだからな。
“なる・ならない”が“他の国より重い国”だ。
こいつらは“それ”を“知らない”ってのは分かってるがよぉ…。
選定後の事を考えれば、どうにも後味の悪りぃものになるのは確実だ…。
あぁ、こんなこと聞かなきゃよかった…。
俺がグルグルとそんなことを考えてるなんて知らずに、綾艶は続ける。
「僕は王の器ではないことは自覚しています。
…王には、錦兄上か雯がむいているでしょう。」
そう言いきり「あ、すみません出過ぎたことを…これは僕の意見として聞き流してくださって構いません、ハハ。」といつもの雰囲気に戻った。
…。
いやっ!!
聞き流せるかっ!
お前、“それ”が何を意味してるか分かってるのかっ!?いや、分かってないんだったなっ!!
そりゃそうだ、この事実を知ってるのは天界と“それを経験した本人”だけだからな。
知ってたら“消さなきゃならねぇ”んだ、これで良いんだ。
ハァーーーー……。
…お前の言った通りになるとしたら、
お前と、今名前が上がってなかった兄達は……
…やめよ。
今からこんなこと考えても時間と気持ちの無駄だ。
…まあ、“その時”になって知った時には
優しいこいつは、今の自分の言葉の意味を理解して自分を責めるんだろうな…。
…。
気を取り直すため、自分の頬を引っ叩いておく。
バッチンッッ!!
…思った以上に良い音が鳴ってしまった。
痛い…。
突然の俺の奇行に綾艶は目を丸くし、霓落は「なんだこいつ…」という目で見てくる。
…おい、そこの怠け者従者
視線がうるせぇっての。
「ハァ〜…まあ、お前の思いは分かった…。だが、最終決定を出すのは選定者だかんな。」
一応、釘を刺すため伝えると「はい。承知しています。」と微笑まれる。
…ゔ、いたたまれん…。
…。
「あー…お前は兄達に随分可愛がられてるんだな。」
苦し紛れに話題を変えたが、話題選びの才能がないな俺…。
ほら、突然の話題転換で綾艶も不思議な顔をしてるぞ。
「…あ、そ、そうですね。
鳳兄上はいつも沢山話しかけてくれて、出先で僕の好きそうな物を買って来てくださって…本当に格好良くて、太陽のような方です。
斐兄上もお土産を沢山くださいますし、体調が悪いととてもよく効く薬を作ってくださって。ああ、僕が楽器を奏でてていると、いつの間にか裏庭の梅の木の枝上にいらっしゃって、静かに耳を傾けてくださっているんです。たまに、二胡を弾いて合奏してくれる時もあります。」
フフと微笑んで話す綾艶だが、
まあ、引っかかるよな…
「錦艶とは上手くいってないのか?」
可愛がってくれる兄達、の括りに実の兄は入ってないらしい。ま、そんなもんか?
おれの疑問に綾艶は寂しげに笑う。
「錦兄上は…。上手くいってないと言いますか…。僕が不甲斐ないばかりに、兄上には失望ばかりさせてしまっているので…。叱られてばかりですよ。…こんな出来損ないが実の弟だなんて、きっと兄上もお嫌でしょう。」
…失望ねぇ。
ああいうタイプは、失望するような奴には
叱るなんて無駄な労力すらかけない気がするけどな。
「ふ〜ん。じゃあ、兄じゃなくて弟とはどうなんだ?雯艶とお前が話してるのまだ見たことねぇけど。」
この際、兄弟同士の関係を聞いとくか、
と残りの兄弟…雯艶の名前を出すと、綾艶の表情が明らかに凍り付いた。
…?なんだ。地雷でも踏んだか?
唇を強く噤み、下を向いた綾艶は少しの間の後、震える声で話し出した。
「僕は…雯に、恨まれているんです…。
…きっと殺したいほど…。」
物騒だなおい。
「…僕は、それだけのことを
あの子にしましたから。」
顔を上げた綾艶は今にも泣きそうだ。
霓落が綾艶の肩に手を置き、静かに止めに入る。
「綾艶様」
そんな霓落に綾艶は「大丈夫。」と笑いかけ
「選定者様なら知っておいた方が良い事です。
今言わずとも、いずれ知る事と思いますが…せっかくなので、当事者の僕から伝えさせてください。」
間を置き、儚い笑顔で言葉を紡ぎだした。
「あの日の僕の罪を…。」




