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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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治癒魔術科 泣く

教室に入った瞬間、空気がいつもと違った。

春。新学期。二年生。

その三点セットが揃えば、だいたい碌なことが起きないのは、治癒魔術科の共通認識である。


「君たちは二年生になった!おめでとう!」


教官の声はやけに明るかった。

明るすぎる。これは危険信号だ。


教室のあちこちで、視線が泳ぐ。

前? 後ろ? 教官の手元?

いや、皆が見ているのは――教官の“次の一言”。


「今年からだな」


その一拍が、心臓に悪い。


「騎士科、治癒魔術科に――魔術科が加わる」


……。


静寂。


そして次の瞬間。


「……重り」

「重りを……」

「二倍……いや三倍では……?」


ガタガタガタガタ。


誰かが机を押さえ、誰かが椅子を掴み、誰かがすでに半泣きだった。


「下手すると死滅する」


追い打ち。

完全に追い打ち。


「あ、終わった」

「今年こそ遺書…書こう」

「お母さま……」


教官は満足そうに頷いた。


「というわけで!」


その声が、やけに楽しそうに弾む。


「楽しい春の合同訓練だ!」


ガーン……。


誰かの心の音が、教室中に響いた気がした。


――そして、訓練場。


今日は魔術科が基礎体力重視の日らしく、火球も氷壁も飛んでこない。

その代わり。


「うわああああ!」

ドーン!!!


騎士科が飛んでくる。


バン!!ゴロゴロゴロ…ゴギャッ!!


いつも通り。


「了解、治癒展開」

「次、骨折」

「はい、ビンタ」


パンッ。


治癒して、殴って、戻す。

治癒して、ビンタ、戻す。


それを見ていた魔術科が、ざわついた。


「え……なにあれ?」

「治癒魔術科、近接じゃない?」

「回復役だよな……?」

「戦闘民族?」


アイナは内心で小さく頷いた。


そうだ。

自分たちは、一年の間に――


毒を飲まされ。

重りを付けられ。

野外訓練で削られ。

騎士科に吹き飛ばされ続けた。


泣いて、吐いて、倒れて、それでも起き上がった。


その結果。


恐怖が来る前に身体が動く。

判断が遅れない。

手が迷わない。


魔術科の一年生が基礎体力をしている間、

治癒魔術科は“即応部隊”になっていた。


「……なんか、私たち強くない?」

「いや、強いっていうか……おかしい」

「環境が狂ってた」


アイナは汗を拭いながら、ふっと笑った。


「でもさ、生き残ったでしょ」


その一言に、B班のみんなが顔を上げる。


「……生きてる」

「確かに」

「生きてるな……」


教官が遠くから、満足そうに頷いていた。


治癒魔術科は、今日も泣いていた。

でもそれは、恐怖の涙じゃない。


――鍛えられすぎた結果の、ちょっと誇らしい涙だった。




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