寝技は実戦では使えない?
いきなりですが、このタイトルのような意見、よく聞きますよね。いわく──
「寝技は路上の実戦では使えない。そもそも実戦では一対一というケースばかりではなく、相手が集団のこともあり得る。その場合、ひとりと組み合っている間に他の者から攻撃を受け、やられてしまうからだ」
なるほど、もっともな話ではあります。ただ、こういう人たちの九割方が根本的な勘違いをしているのですよね。
はっきり言うと、こういう意見を声高に語る方の大半が、これまでの人生で実戦なるものをしたことがなく、頭の中だけの理論で「わかった気になっている」人種だと思います。
まず知るべきことがあります。人間は「知らない」状況では、咄嗟に動けないのですよね。
寝技主体の競技(ブラジリアン柔術やグラップリング)を学ぶとわかるのですが、未経験の人は倒され抑え込まれると、何をすればいいかわからないのですよ。ただ、闇雲にジタバタ動いて抑え込みから逃れようとします。
しかし、素人が力任せに逃れようとしても逃れることはできません。むしろ、体力を消耗し疲れ動けなくなるだけです。
さらに、馬乗りになられた状態は「殴られるかもしれない」という恐怖も加わります。逃げ方を知らない人は、この状態になったら一発アウトでしょうね。
前述の「寝技は使えない」という意見の人は、こうした局面に陥ることを想像すらしていないようなのですよね。倒される前に、パンチなりキックなりで倒せばいいと思っているのでしょうが……実際の闘いは、そんな甘いものではありません。
もうひとつ大切なことがあります。人間、いきなり倒れると咄嗟に立ち上がるのは難しいのですよ。
特に、投げや足払いなどを食らって倒された時などは、慣れてないと何が起きたのかすらわかりません。頭で「あ、倒されたのか?」と理解するまでは数秒かかることもあります。この間のタイムラグというのは、結構バカにならないものがあるのですよ。
また、倒されたら立ち上がればいい……というものでもありません。倒され、普通に立ち上がろうとして攻撃を食らうことは、総合格闘技の試合でもよく見られる光景です。
ですから、立ち上がる技術もまた必要です。さらには、状況次第によって寝たまま移動する技術もあります。ブラジリアン柔術のエビという動きは、寝かされた時の移動方法として有効ですね。
ここまで読めば、理解していただけたものと思いますが……寝技を学ぶのは、何も絞め技や関節技で相手を倒すためだけではないのですよ。寝技の展開になった時にどう対応できるか、が一番大きいのです。
冒頭に挙げた意見の人は、打撃を学べば、アクション映画の殺陣のように、群がる敵を蹴り一発で倒していけると思っているのでしょう。
しかし、現実にそう上手くはいきません。集団相手に立ち技のみで仕留める、というのは理想なのでしょうが、はっきり言って無理でしょう。組み合ったり寝かせられたり……という状況は必ず出てきます。その状況に対応できるよう、寝技を学ぶのですよ。
経験のない方にはわからないでしょうが、倒れた状態から起き上がる、そこにも技術があるのですよ。そもそも、闘いの場で倒された時点で、寝技経験のない人はどうすればいいのかすらわからないでしょうね。咄嗟の対応力、これは寝技を学ばないと身につかないと思いますね。
寝技を学ぶことにより、組み合った時にどう対応すればいいかがわかってきます。これは、頭で考えるだけでは絶対にわかりません。体で覚えることが何より大事なのですよ。
ついでに言いますと、倒れた時に受け身を取ったり、倒れたところから素早く起き上がる技術……これは、格闘に限らず事故に遭った時などは生死を分けることになるかも知れません。学んでおいて、損はない技術だと思います。
最後に……護身術などで複数人を相手に闘う場合、まず飛びかかってきた者を「立ち関節」(お互い立ったままの状態でかける関節技)で動きを止め、さらにその相手を盾に使うという技術もあるようです。ただ、実際に使えるかどうかはわかりません。




