「わからせる」スパー
私は、ジムにいる一般会員とスパーリングをする時は、基本的にゆるく(はっきり言うと手加減して)やります。ガチでやるのは、プロやプロレベルだと認めている会員が相手の時だけですね。
なぜかというと、一般会員の大半が六十キロから七十キロ台です。八十キロあれば重い方なんですよ。
そんな人たち相手に、九十キロ近い私がフルパワーを出してしまうと、ほぼほぼ相手に何もさせないまま一方的に蹂躙してしまうのですよ。これでは、お互いの練習になりません。そのため、じゃれ合うようなスパーリングが多くなりますね。
ただ、時には例外もあります。
格闘技や武術の初心者でありがちなのが、自分は強いと勘違いしてしまうことです。
まあ、習う前より強くなっているのは確実なんですが、時には「俺は、街のチンピラ連中より強い」と勘違いする人がいるんですよ。
まあ、そういう勘違いをする人の大半は試合やスパーリングのない武術系ですが……時には、スパーリングをしている格闘技のジムでも起きてしまうことがあるのですよ。
冒頭部分でも書きましたが、私は一般会員が相手の時は、ゆるい当たりでスパーリングをします。一本取らせてあげることも珍しくありません。
これは私だけではありません。プロもしくはレベルの高い会員なら、当然のようにやっていることです。
しかし、プロから一本取れたことにより勘違いしてしまう人がいるんですよ。初心者レベルでありながら「俺は、プロから一本取れた」などと思ってしまう人がいるのです。
まあ、思うだけならいいのですが、時にはそれをネットなどで吹聴してしまう人もいるのですよ。たまにネットで「ちゃんひの○○とスパーリングしたけど全然大したことない。俺は一本取ったし」などと言い出す者がいたりします。
それだけならまだしも「俺は強い」と勘違いし、ジムや道場で傍若無人な振る舞いをするケースがあるのです。
もう何年も前のことですが、私の通うジムに三十歳くらいの人が入会してきました。背はさほど高くないですが腕力は強く(素人にしては)、気も荒そうなタイプです。顔つきを見ると「昔は悪さしてたんだろうな」という印象を受けました。
この人は、とにかく当たりが強いのですよ。寝技のスパーリングでも、三人にケガをさせていました。また、打撃のスパーリングでは女の子を泣かせてしまった(詳しい状況はわかりません)という話も聞いていました。
その彼が、ある日ジムの皆にこんなことを言っていたのです。
「俺、赤井さんとスパーして何本も取ったことある」
そう、私は彼とスパーリングし何度か「取らせて」あげたことはありました。しかし、当人はそれを自身の実力によるものと勘違いしているようなのです。
こうなると、そろそろ天狗の鼻を折っといた方がいいのかな……と思い、私はモードチェンジしました。
そして、彼と寝技のスパーリングをしました。最初の一分は、完全に本気モードです。すると、やはり私の敵ではありませんでした。抵抗はしてきましたが、意に介さずフロントチョークであっさり一本です。
その後は、六割くらいの力で何もさせずコントロールしました。ケガはさせないようにしつつも、相手に攻めさせず何もできない状態にしたのです。それは哀れですらありました。私が「ほら腕極めちゃうよ」と言わんばかりの大きな動きで腕を取りにいくと(本気の時は小さく無駄ない動きで極めにいきます)、相手はビクッとして腕を引っ込める。
そこで「はい首が隙だらけ」と首を攻めると、慌てて首を防御する……そんな感じでした。普段、他の会員には横柄……とまではいかなくても、それに近い態度でスパーリングをしている彼が、私相手にはオロオロしてる感じなんですよね。
可哀想ですらありましたが、最近の彼は態度が悪いと思っていたこともあり、スパーリングの四分間を完全にコントロールし実力の違いをわからせました。
これで私のことを「性格悪いな」と思った方もいるかもしれません。実際、ちょっとやりすぎたかな、と思った部分もあります。
ただ、ジムや道場で身の程知らずな発言や振る舞いが目立つと、自身の実力やポジションをわからせるためのスパーを仕掛けられることがある……ということは覚えておいてください。
一応言っておきますと、これはまだマシな方です。もっと恐ろしい「制裁スパー」みたいなのをやる人がいるジムもあるそうです。




