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あなたの永遠の物語  作者: 水埜アテルイ
第1部 クランツァ・ハザリー

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第29話 ユボ・エト

 書庫に戻る。するとメアが待っていたと言わんばかりに席を立った。


「ありました! 百九十年前のものです!」


 メアは日誌の一文を指さした。


「ここです。要約します。夜間に接続を行っていたら咆哮とともに竜が襲来し、ある一人の接続者が喰われた。だが、喰われた接続者は竜の腹を内側から裂いて生還した。そのように書かれています」

「ラマチェフで読んだ内容と同じだ」

「そうなんですよ! ですが、これは竜殺しの接続者本人の日誌ではありません」


 メアはある本棚へと移動した。


「ここには百九十年前、月明暦一四五〇年前後の日誌があります。八月三日。この日は竜に食べられた日です。あとはわかりますね?」

「楽しそうだな」

「そりゃもう! 雷が当たったかと思って叫んじゃった。ていうかこんな大事な瞬間にどこ行ってたの!」

「日光を浴びていた」

「あなたは植物ですか」


 メアは「月明暦一四五〇年」と書かれた背表紙の日誌を次々と手に取って渡してきた。手の上に重なっていく。合計二十冊で彼女の手は止まった。


「さて。正解はどれかなー」


 メアは机上の日誌を前に腕を組んだ。

 日誌は劣化があるが激しくはない。小さな穴を二つ開け、紐で結んでまとめた日誌だ。メアが重なった日誌を手で崩す。表紙が大きくあらわになる。年月日と姓名だ。

 ある姓名が目に入った瞬間、誘われるように自分の手が伸びた。


「これだ」


 日誌を手に取ってページをめくる。四月、五月、六月、七月。そして八月、八月二日。竜に喰われた日の前日。それが最後の記録。以降の記録はない。白紙だ。


「どうしてこれだと?」メアが言った。

「ユボ・エト」日誌の表紙を見せる。

「エトって……」メアは口元に手を持っていく。「あのエト一族のエト? 信じられない。たまたま同姓ってだけじゃないの?」

「いや、間違いなく帝国のエトだ」

「待って、ちょっと待って整理したい。まず一つ。クランツァさんはどうしてあのエト一族だと確信しているのですか。根拠は何?」

「歴代皇帝の名前を知ってるか」

「そんなの誰も知りません。だから疑問なのです。皇帝の名は非公開。素顔も監視官と同じように仮面を被ってるからわからない」

「暗殺を恐れているから隠している。仮に暗殺されても本当に皇帝だったか知る術がないから、エト側には体制維持に都合がいい。本当の皇帝を誰も知らないからな。エトの身内しか皇帝の顔を知らないが、俺はこいつを知ってる。ユボ・エトは先代皇帝だ。俺が脱獄した話は覚えてるな?」

「刑務官だったオルトさんが、クランツァさんを脱獄させたって話でしたよね」

「あの監獄にはブーチョと繋がった囚人がいた。それがユボ・エトだ。向かい側の檻にいた」


 弱々しい魔術灯がある通路。

 魔術師をただの人間にする封印牢。

 処刑を待ち続けたあの地下牢の匂いが蘇る。やけに湿っていて、不衛生で、空気が重かった。

 メアは目を閉じて鼻先を上に向けた。


「竜殺しの接続者はユボ・エトという名前で……食べられた後は記録は途絶えているから、ここを出ていった。そして百九十年後の現在は帝国の地下牢にいて、もう不死者ではなくなってて?」

「永遠の呪いは分け与えたり、不死者を増やしたりはできないのか? 俺はエトが呪いを手放すとは思えない。特に帝国軍なら絶対に利用する」

「増やすことはできません。私は継承方法について一度も話してませんよね」

「あえて話してないと思ってるが」

「実は覚えていないからなんです。おそらく継承方法は不死者にしかわからないようになっています」

「瀕死状態が条件と言ってたが」

「条件は覚えています。肝心の継承方法がどうしても思い出せないんですよ。クランツァさんに継承したとき、自分が何をしたのか全く覚えてません。そこの記憶がごっそり欠落してます。不死者になった今、何か感じるものはありませんか」

「ない」

「本当に?」

「自分が不死者かどうかすらわからない」


 メアは肩を落とし、不服そうな目で見つめてきた。目で感情を表現するのがうまいとつくづく思う。


「これは推察になりますが、ユボ・エトが本当に不死者だった場合、母が不死者であったことも、帝国が呪いの存在を知っていることも説明ができます。ある事情があって、ユボ・エトは永遠の呪いを隠した。一族への継承を拒否したのかな。その罰として投獄されたと解釈できませんか」

「魔女たちなら呪いを守り通せると考えたんだろう」

「もしかしてユボ・エトは善人寄りですか?」

「さあ」

「魔女との利害は一致していたんだろうなって思います。そもそも魔女の谷は偶然辿りつかないよう永劫迷路が周囲に展開されていました。魔術の迷路です。だから不思議に思ってたんです。帝国はどうやって魔女の谷を見つられたんだろうって。ユボ・エトを利用して情報を引き出したんでしょう」

「ユボは現在も生きているかわからない」

「監獄にいたんですもんね。でもブーチョさんなら知ってるのでは? 二人は繋がってるって話ですよね」

「望みは薄い。俺が脱獄した件で刑務体制が大きく変わったと聞いた。帰ったら訊いてみよう。でも期待しない方がいい。処刑された可能性もある」

「わかりました。もしユボ・エトの消息がわからなかったら帝国に行くしかないですね!」

「俺たちは帝国のお尋ね者だ」

「あ」


 メアは丸く口を開けた。


「ど、どうにかならないかな」

「死を覚悟して入るなら、どうにかなるかもな」



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