第27話 接続と存在
接続者の後ろをついていく。
建物は増改築を繰り返している。ところどころ内壁が木材だったり煉瓦だったり、場所によって雰囲気が変わった。
連れて行かれた先は中庭だった。位置的に中庭というだけで花壇があるわけではない。砂利と細々と雑草が生えているだけの空間。人はいない。
「他の接続者さんはどこへ?」メアがたずねる。
「外で接続を試みております。ここを通って外へ出ます」
敷石の道が外へ繋がっている。
「私は『接続者は宇宙と接続する』という知識しかありません。これも間違った知識かもしれませんが……接続って本当のところ、どういった行為なのですか?」
接続者は「こちらへ」と言って、外へ案内した。
外はもちろん高山の肌なのだが、道には人型の枯れ木が多く点在していた。
「われわれの多くは『存在』に疑念を持つ者です」
枯れ木のそばを歩きながら接続者が語り続ける。
「星を見たとき、こうは思いませんか。なぜわれわれはここにいるのだろう。なぜ世界は在るのだろう。望遠鏡をご存知でしょうか。遠くを見るための道具です。クランツァ様は似たものを使ったことはあるでしょう」
銃の照準器のことだろう。軍の記憶からか。
「望遠鏡を使えば、この星の外を覗くことができます。しかし覗くだけ。観察し、軌道の計算はできますが赴くことはできない。最も近い双子月でさえ手が届かない。いつか遠い未来では実現できるかもしれませんが、われわれが生きている間には不可能でしょう。この世界の全貌を知るには人類の寿命はあまりに短い」
「天文学者もいらっしゃるのですか」メアが問う。
「はい。異国の学生もおります。われわれが言う接続とは、精神を宇宙と接続することを意味します」
「精神を? 何ができるのですか」
「地球を俯瞰することができます」
「地球を遠くから眺められる、と」
「実際に目で見ているわけではありません。視覚器官は身体に残しているわけですので、われわれは感じているのです。これは接続した者のみ理解できます。精神を分離するのは容易なことではなく、精神修行を何年も行います。お二人の記憶を覗かせていただいたのは、この接続によるものです。われわれはこれを『脳を掴む』と表現します。接続の基礎です。自分の脳を掴んで、自分の位置情報を把握してから宇宙へ接続する。これは全接続者が最初に行う修行となります」
接続者は立ち止まった。
「メア様は魔女、クランツァ様は不死者と認識しております」
メアと二人で顔を見合わせた。永遠の呪いを知られてしまった。
「口外はいたしません。われわれの興味は宇宙の存在真理に到達することのみです」
「ありがとうございます……」メアが動揺した声で言った。「ずっと気になっていたのですが、この人型の枯れた植物というか枝というか、これはいったい……ここへ来る道中も目にしました」
「これは接続者の化身と言い伝えられています。接続者は死後、接続を手助けするためこの地に戻ると言われています。杖は亡くなった接続者の杖であり、これが目印となります。杖に戻ると枝が生え始め、やがて生者であった頃の姿を象り始めるのです」
メアは接続者の化身をじっと見つめた。
「墓標と思っていたので背景に驚きました。真理の追求に人生を捧げる人は、ここまで可能性を広げられるのですね」
「しかし接続にも限界があります。一人では、せいぜい山を降りる程度の距離まで。しかし、他の接続者と協力すれば星の外へ飛び出せます。われわれ一人一人が大きな望遠鏡の一部になるのです。われわれはこれを何百年と続け、今もなおより遠くを目指して日々接続しております」
離れた場所に他の接続者がいた。見える範囲には六人ほど。みな座り、黙って目を閉じている。
その後も接続者は説明を続けた。接続中は五感が消え、それによって餓死する者もいるらしい。痩せている者が多いのはこれが原因だろう。ある意味、生存本能から解放されていると思った。
案内役の接続者も竜殺しの接続者を知らなかったが、日誌の閲覧を許可した。接続者は一日の記録を必ず残すことが習慣で、ページの埋まった日誌をすべて保管していると言った。
「これが歴史……」メアが静かに呟く。
書庫の壁はすべて本棚で埋まっていた。メアが言ったように歴史を感じる量だった。ある一角の日誌は木の皮で作られていて、紙の歴史すら学べそうな書庫だ。
「お荷物はあちらです」
机の上に荷物があった。銃も立てかけてある。すぐに拳銃を手に取って腰に下げる。体の一部を取り戻したような気になる。小銃も動作に異常はなかった。
日誌は、各接続者個人のもので年代順に整理されていてる。一番古いもので三六〇年前。試しに開いてみたが、皮脂の汚れや黄ばみで劣化が激しく、文字の古さから解読が困難だった。
「クランツァさんは百年前から読み進めてください。私は色々な文字を読めますので一番古い日誌から読みます。竜や不死に関する記述があれば報告してください。見逃さないように。よろしくて?」
「わかった」
「本当にわかってらして?」
「もっと感情を込めたほうがいいか」
「へー。クランツァさんって感情あったんだ」
メアは日誌を次々と本棚から引き抜いた。
「しばらくは引き篭もることになりそうですね。さて、がんばりましょう」




