第20話 盗賊と兵士
盗賊は黙った。
間合いを取る。
刃物の戦闘は短期勝負。先に切りつけても油断はできない。抱き合って刺し合う醜い結末は避けたい。
盗賊が足を滑らさせる。
俺の動きを注視している。
足を滑らす音だけが鳴る。
こちらから仕掛ける気はない。
相手の実力を図りたい。
盗賊が動いた。
俺の右手を狙った素早い振り、引いて回避。
続けて水平に喉、回避、体勢低く踏み込む。
頭上で半円を描く。刃が骨に触れたのを感じた。
「クソ!」盗賊が叫ぶ。
下がる。
一度距離を取る。
盗賊の表情が険しくなっていく。盗賊は左手で右手首を握った。そうだ、痛みを感じろ。興奮が冷めれば激痛の波がやってくる。出血が止まらない。血の玉が地面に落ちる。だが彼の目はまだ死んでない。息を吸って調子を整えている。
来た。
回避。
回避。
踏み込む。
脇腹、刺突、抜く。
盗賊が短刀を落とした。
足を払い、転倒させる。
頭部を踵で踏みつける、蹴り飛ばす。
胸に刺突、半回転。肺、血管、神経の何もかもを抉る。
盗賊の目の焦点は空にあった。そしてぐったりと脱力し、血の泡を吹いた。ナイフを抜く。
「勝手に死んでくれ」
盗賊は息絶え絶えの虫のように腕を動かしたが、彼の最期を俺は見届けなかった。
荷台に戻る。しゃがんで幌を上げる。
「生きてるか」
髪のない男が荷台の奥で倒れている。
「あなたは……」怯えた低い声。
「俺は盗賊じゃない」後ろに首を回した。「盗賊は死んだ」
男は這って荷台から出てきた。
「聞きたいんだが、あんたは接続者か」
「はい。左様でございます」
馬主たちは拝むように謝意を述べた。
一番手っ取り早い方法は盗賊ではなく、馬を撃つことだったが、酷な止め方だと思って盗賊を狙った。よって全頭が戻った。二頭はメアが回収していた。
馬主から謝礼を受け取ったメアが戻ってくる。
「お手柄でしたね。盗賊はどうなりました?」
「転がっていなかったか」
「見なかったですけど」
逃げたか。だが人体の中心線を狙った。長くはないはずだ。
「三人は死んだ。今夜は野良犬の餌になる」
「よくそんな恐ろしいこと軽々と言えますね。で、肝心の接続者はどこへ?」
「そろそろ戻ってくるはずだ」
通りの奥へ目をやると、ちょうど接続者が見えた。彼の右手には杖が握られている。
「あの杖を探すために途中で馬から下りた。大事なものらしい」
「杖。へえ」
戻った接続者は頭を下げた。
「繰り返しになりますが、命を救っていただき誠に感謝しております」接続者の頭が深く下がっていく。「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「クランツァ。クランツァ・ハザリー」
「クランツァ様。女性の方は……」
「私はメアです」メアが手を挙げて名乗る。
「クランツァ様、メア様。お二人は私の————」
メアが接続者との間に入る。
「わたしたち、接続者の皆さんに用があって都から来ました。お話いいですか」
「と言いますと、お二人も接続の道に……」
「ああ、違います。竜殺しの接続者って聞いたことありますか。竜に食べられてしまった接続者の話です。その真意を確かめるためにこの地を訪れました」
接続者は「竜殺し……」と呟き、数秒間沈黙した。
「申し訳ございません。私の記憶にはございません」
メアがくるりと回転し、俺に正対した。無表情で硬直する。それはどういう感情だ。
「しかし」
メアが再び回転する。
「われわれ接続者は過去の記録を保管しております。接続の過程で得た景色や感覚、世界に散らばる接続者との交流をわれわれは記録しています。メア様のおっしゃるお話も記録されているかもしれません」
「読みたいです!」メアは即答した。
「われわれはあのスペラルジェ連峰で修行をしております」
接続者は道順を説明した。山道、積み重なった小石、階段、祠といったわかりやすい特徴を教えてくれた。
「わたくしは修行地へ戻ります。ご案内したいのですが、お二人の来訪を事前に伝える必要があるのでお連れすることはできません」
「わかりました。大丈夫です」
「われわれは接続を試みる者は歓迎しております。その他の御用の方は拒否する方針がありまして、申し訳ございません。無駄足とならないよう説得いたします」
メアが思い出したように「あ」と一言漏らした。
「私のことは魔女だと伝えてください」
「承知いたしました」




