第19話 追跡
数分後。今度はメアがやってきた。
「本当に位置を把握できるらしい」俺は言った。
「バレバレです。宿は取れました?」
「問題ない」
「ありがとうございます」
彼女は赤黒い長髪に指を通して払った。毛量が多いから羊みたいだといつも思う。
「接続者の情報は手に入れられたか」
「あの山にいるのは間違いないようです。特徴もわかりました。白い服を着ていて、髪が生えていない。かなり目立つ容貌だそうです」
「ああ、やっぱりあれか」
「あれって?」
「さっき接続者の特徴と一致する人物が通った」
メアは俺の肩を掴んだ。
「なんで追わなかったんですか!」
「確信がなかった」
「ちょっとは興味持ってくださいよ! 誰かに質問するくらいはできるでしょうに!」
肩を揺さぶられ、説教が続く。
「どこへ行ったんですか! ほら立って!」
「山の方角だ」
「確定で接続者じゃないですか! 走れ!」
言われるがままに走った。
接続者の足の速さから考えるに、まだ遠くへ行っていないだろう。後ろを見る。メアは少し離れた場所で地面を触っている。魔術か何かで追跡を試みているのだろうか。とりあえず、できることをしよう。
接続者が向かったであろう方角へ走り続ける。
杖を見つけた。路上に落ちている。誰も触ろうとしない。住民たちは杖を指差して立ち話していた。不穏な雰囲気だ。
「接続者を見なかったか」ある住民に尋ねる。
「いたいた、人攫いだ。接続者の服は高級品だからね」
「誰が攫ったんだ」
「盗賊に決まってるさ。あんた知らないのか? 服だけじゃなくて、奴隷としてどこかに売られるって噂だ。接続者は世間と関わりないからね。今さっき、ここでそれが起きたんだ」
「どこへ行った」
「馬を使ってあっという間。馬主も気の毒だ」
住民は頭を抱える行商人を見つめた。荷台がある。馬を二頭繋げるものだが馬はいない。その隣にも同様に頭を抱える別の行商人。馬が一頭残っている。
「確かに気の毒だ」
俺は残りの一頭を奪った。
本当に、気の毒な話だ。
馬の足跡を追跡する。馬術の練度は落ちてない。久しぶりに跨っても体は覚えているものだ。
果物や野菜が散乱した屋台を横切る。荒々しい走りだ。馬が混乱しているのがわかる。
「あれか」
前方、三頭の馬を目視する。三頭の前方、荷台付きの馬車が一台。
荷台も奪っていたとは欲張りな盗賊だ。盗賊だから当然か。
腰の拳銃を手に取る。最後尾の馬、盗賊の背に照準を合わせる。
激発。
一人が崩れ、地面に転がる。激鉄を起こす。盗賊たちは首を回した。遅いぞ。引き金を絞る。命中。二人目はすぐに落馬した。
荷台の後方、幌を手でわけて男が顔を出した。小銃だ。
馬を右へ。
身を落とし、馬体側面に隠れる。
当たるな。
祈りは通じた。
右折後、次の角で左折。
全力で馬を走らせる。馬の息遣いが荒くなる。
商店街の並びが途切れた。
左方に馬車。追い越している。
手綱を握る盗賊。後方に向かって何か叫んでいる。
狙いを定める。
馬が跳ねた。
外した。
二発目。
盗賊が腹を折る。前転するように落馬し、荷台の下に消えた。
二頭が別々に走ろうとして荷台が大きく傾く。それを見届けた後、俺の馬が大きく跳ねた。馬が聞き慣れぬ銃声に耐えきれなかったのだろう。投げ出され、落馬。地面に転がって衝撃を分散する。
呼吸に違和感はない。折れてない、大丈夫だ。
荷台は草原で横転している。後続は三人いたはずだ。二人は途中で落馬したが、まだ一人どこかにいる。しかし見渡しても馬の影は見えない。
荷台から呻きが聞こえる。息を殺して待つ。
男の頭部が幌から出る。顔を見合わせる。射撃。これで弾切れだ。
男の手から小銃を引き抜く。重心部分が割れて機関部が露出してる。この程度の衝撃で破損するとは、なんて粗悪な銃だ。
馬の足音が聞こえた。通過してきた道から一頭、馬が来る。残りの盗賊だ。盗賊は離れた位置で止まり、馬に身を隠しながら降りた。こちらの状況を伺っているらしい。馬を盾にして近づいてくる。
「お前は同業か!」
声の届く距離になると盗賊は叫んだ。
「違う」
盗賊は短刀を抜いた。
猫店長のナイフを手に取る。
「何が目的だ。お前も金か。二人でわけてやってもいいぞ」
盗賊はそう提案したが、俺は刃先を向けた。その返答に盗賊は舌打ちで答える。
「あんたの運命は変わらない」




