第14話 帝国の裏切り者
「裏切り者……?」
メアは首を傾げ、神妙な面持ちになった。
「俺は頭のイカれた異常者ってところだろう」
麦酒をあおる。ある戦場を思い出すため、視線を下に落として脳を働かせる。
「二年前、軍規違反を犯して俺は銃殺刑になった。王城の地下牢に入れられて、そこである囚人に出会った。囚人はラマチェフと繋がっていた。刑務官の一人もラマチェフ側だった。その刑務官がオルトだ」
「つまりオルトさんが、クランツァさんを逃したってこと?」
「そう。あいつは同僚の刑務官を殺して、俺と二人で逃げた。帝国では俺が刑務官を殺したことになってるけどな」
「二人にそんな過去が……」
「オルトは密かに帝国へ送られたラマチェフの諜報員だ」
「オルトさんも兵隊さんってこと?」
「おそらく。確信はない。自分から訊いてもいないし、あっちから明かされてもいない。ただ、俺は色々とラマチェフに協力した。多少なり味方とは思われてるだろう」
「ふうん。どんな協力をしたんですか?」
「俺はエト一族と王城内部を知りすぎている。帝国陸軍の中尉で、銃を使った戦闘にも精通している。帝国軍の作戦や戦術の立案にも関わってきた。ラマチェフは、俺を利用価値のある男と考えたんだろう」
「……これ、かなり危険な話じゃないですか?」
メアは小声になった。
「もう終わった話だ」
「で、でも……」
「俺もオルトもただの一市民。それにオルト・ゲラスは死んだことになってる」
「え?」
「オルト・ゲラスは帝国の死者になった。脱獄の際、殺害した刑務官の死体をあいつは自分の死体に偽装した。オルトは公式に殉職と記録されてる。だからオルトを追ってるヤツはいない。帝国が追ってるのは俺とオルトを殺した刑務官ってわけだ」
「あ、なるほど。帝国は見つかるはずもない刑務官を探してるってことですね」
「あいつは偽名を使って帝国で暮らしてた。そしてあの体型だ。昔は痩せてたが、今のオルトはもはや別人だな。完璧に帝国から逃げ切ったと言える。オルト・ゲラスって名前も本名か疑わしい」
「ただのお肉屋のおじさんだと思ってた……」
「二度目だが、これは終わった話だ。俺は帝国で指名手配されてるが、ラマチェフにいれば問題ない」
麦酒をぐっと喉に流し込む。
「ただただ息を吸って生きてる。思い返せば、軍にいた頃は楽だった。生き方を誰かが決めていた」
メアは眉を顰めた。
「私と出会う前、ラマチェフではどのように暮らしていたんですか」
「寝て、飯食って、たまに仕事して」
「それはみんなやってることです。好きなこととか、将来やってみたいことはないんですか。夢ですよ夢。でっかい夢!」
「ないな」
「びっくりです。夢がない人っているんですね。なんで生きてるんですか?」
「自分でも、なぜ生きているのかわからない」
料理が運ばれてきた。ナイフとフォークを整え、布巾を取り出して折る。
「夢なんてぱっと思いつくものですよ。ぱぁーっと」
「それは才能だと思う」
「では、私の夢をお話ししてあげます」メアは早速フォークを肉に突き刺した。「私の夢は、魔術の正体を知ることです。呪いの解呪は使命であって夢ではありません」
「いい夢だと思う」
「……わかりました。クランツァさんが質問してこないなら、もう私から話しましょう」
肉の咀嚼を終えたあと、彼女は再び口を開いた。
「呪いは母から継承しました。私の母は、不死者だったんです」




