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【百合】可愛い友だちに告白されたから、お試しで付き合ってみることにした。  作者: 夏野恵


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第9話 望月は彼氏欲しいとかないの?

 葉山が泊まった日を境に何か変わるのかと思っていた。


 キスしたから葉山がもっと積極的になるとか、私の意識が大きく変わるとか。


 でも私たちはそこまで大きく変わらなかった。


 たぶん葉山が意外にも初心で奥手だったからで、私も私でキス以上のことをする関係になる気になれなかったからだと思う。


 だからあの日以降しばらくは連絡を取り合う程度で、直接話すことはなかった。



 *



「てかさ、望月は彼氏欲しいとかないの?」


 水瀬の声がファミレスに響く。


 9月中盤に差し掛かり、久しぶりに3人で会うことになった。

 水瀬はほんの雑談程度で聞いてきたのだろうが、かなり気まずい。


 だって私の真横に恋人がいるから。


 当の本人は興味なさげにストローをくるくる回しているが。


「今はいらないかな。ていうか水瀬はどうなの?」

「そう、それを聞いてほしくって!」


 どうやら、今日私たちが集められたのは愚痴を聞いてほしかったからみたいだ。


 なんでも、バイト先にいい感じの人がいて2人きりでご飯に連れて行ってくれたが、相手に恋人がいることがわかって問いただすと、浮気相手として利用されそうになっていたことが判明したらしい。


「私こういう感じの見た目だから軽そうって思われるんだよね。でも私、マジで一途だし浮気前提で付き合うのはほんと無理っていうか……」


 そこで言葉を切って、水瀬は飲み物を口にする。


 たしかに水瀬の服装とか容姿は軽そうに見えなくもない。

 でも根は真面目で、講義にだって休まずに毎回出席している。


 そんな水瀬を、誰かが利用しようとしていたと考えると腹が立った。


「……バイト先で恋愛するのって、普通にあることなの?」


 しばらく黙っていた葉山が水瀬に尋ねる。


「めっちゃ多いってほどじゃないけど、普通にある話だね」

「へぇー……」


 そうなんだ、と呟いた声は小さくて、水瀬には届かなかったかもしれない。


「え、なに、葉山もバイトして彼氏見つけよう的な?」

「いや、そんなつもりはないけど……」

「てかさ、葉山はいつバイト始めるの?」

「今はまだ考えてないっていうか……」


 水瀬の質問攻めに葉山はどんどん声が小さくなっていく。


 そういえば葉山、水瀬のことが苦手って言ってたな。

 こういうグイグイくる感じが合わないのかもしれない。


 ここは助け舟を出すべきだろう。


「水瀬はこういう感じの人がいいみたいなのってあるんだっけ?」

「もちろん。例えばフェイスラインがしゅっとしてて鼻筋が通ってて……」


 頷きながら水瀬の話を聞いていると、私の腕にちょんと何かが当たった。


 ちらっと確認すると、葉山が私の腕に軽く触っている。


 たぶん助けてくれてありがとう的な何かだろう。


 どういたしましての意味を込めて、私も葉山の腕に軽く触れた。



 *



「じゃあまたねー」

「バイバイ」


 ファミレスを出ると、水瀬はすぐに私たちの元を離れる。


「ねぇ、望月」


 水瀬が見えなくなると、葉山は私の裾を軽く引いた。


「……今日さ、望月の部屋に行ってもいい?」

「ごめん、私これからバイトなんだよね」

「あーそっか……」


 葉山はしゅんとした表情になる。


「だから途中まで一緒に帰ろっか」

「……そうだね」


 いつもよりゆっくり歩き始めた。


 私が車道側で葉山が歩道側。

 付き合うようになってからはなんとなくそうしている。


「望月のところでもさ、その、かっこいい人とかいたりするの……?」


 おずおず、といった感じで葉山が聞いてきた。


「かっこいい人はいるけど、別に好きじゃないよ」

「でも望月って……」


 男の人が好きなんでしょ? という言葉は続かなかった。


 葉山は苦虫をかみつぶしたような表情で歩き続ける。


「今のところは彼氏を見つけるつもりないから安心して」


 車の走行音で声の輪郭はぼやける。

 でも葉山にはきっと伝わっているはずだ。


「……なら、いいんだけど」


 葉山の声は微かに聞こえる程度の大きさだった。


 ――こういうとき、葉山の手を取ってあげたらいいのかな。


 そうすれば葉山を安心させることができるかもしれない。

 今は葉山のことしか見てない、というのを行動で示せるから。


 でも私には、外で手を繋ぐ勇気がなかった。


「じゃあ、また何かあったら連絡して」

「……うん、またね」


 まさに消化不良と言う感じで、葉山はゆらゆらと手を振る。


 しばらく歩いてから振り返ると、葉山はもうそこにいなかった。

 別にどうでもいいことなはずなのに、私にはそれがとても悲しかった。


 はぁ、と溜め息を吐いて足早に自宅に向かった。

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