第5話 望月が可愛いから見られてたんだよ
葉山のことは好きだ。
でもそれは友だちとしてであり、恋人としてではない。
関係が変わっても、私にとって葉山は葉山でしかなかった。
週末に彼女と出掛けた日、私たちは周りからどう思われていたのだろう。
距離感もそんなに近くなかったし、恋人らしいことをしたのはバスの中でだけ。
だから私たちは、仲の良い友だち程度にしか見られていないはずだ。
でも実際は違って、私たちは付き合っている。
周りから見た私たちと実際の私たち。
そのどちらとも、私には違和感があった。
*
「さっきのグループワーク、望月めっちゃ男子から見られてたね」
講義室から出たタイミングで葉山が口を開いた。
今日の講義では近くの人と話すグループワークの時間が設けられていた。
それで近くの席に座っていた男子たちと話すことがあったのだ。
「私には葉山の方を見てたような気がしたけど」
「そんなことないよ」
望月が可愛いから見られてたんだよ、と葉山が耳打ちをする。
ちらと足元を見ると、彼女は少しだけ背伸びをしていた。
私より身長が低いから耳まで届かなかったのだろう。
「……あっそ」
どう反応するのが正解かわからなかったので、冷めた言葉を投げてしまった。
「望月たちおつー」
食堂に入ると、先に待っていた水瀬が手を上げる。
午後から講義がある日は、食堂で昼ご飯を食べることが多い。
水瀬は別の講義を取っているので、食堂で待ち合わせをしていた。
お昼時ということもあって、食堂はかなり混雑している。
3人分の席を見つけるのに手間取ったが、なんとか腰を下ろして食事を始めた。
「望月ってさ、いま彼氏いないんだっけ?」
しばらくは雑談をしていたけれど、水瀬がおもむろに尋ねてきた。
「いないけど。なんで?」
「さっきの講義で同じ高校出身の男子に望月のこと紹介してくれって言われてさ」
一応本人には伝えるけど期待すんなって話だけしてて、と水瀬が補足する。
「同じ学部の人?」
「そうだよ」
名前を教えてもらったけど、私にはよくわからなかった。
「あの人だよね、オリエンテーションのときから金髪だった」
「そうそう」
さりげなく葉山が会話に入ってきた。
正直、葉山にはこの話を聞かせたくない。
だから私は、さっさとこの話を終わらせることにした。
「今は彼氏とか作る気分じゃないから、その人にはいい感じに断っておいて」
「やっぱりかー」
「ごめん」
いいよいいよ、と笑って水瀬はスマホを開き、何度かスワイプして顔を上げた。
「ていうかさ、望月って好きなタイプとかあるの?」
「あんまないかな」
「へー葉山はどう?」
水瀬の視線が葉山に移る。
「私は一緒にいて落ち着く人が良いかなぁ」
柔らかな声は食堂の喧騒で一瞬にしてかき消される。
その後は雑談をしているうちに、昼休みが終わってしまった。
*
「葉山ってさ、私といて落ち着くの?」
全ての講義が終わった帰り道の途中で昼休みの話を聞いてみることにした。
「んー落ち着くっていう感じではないかな」
彼女の視線の先には青空が広がっていた。
眩しくなったから手で日差しを遮る。
「望月とは一緒にいても気まずくならない、ってくらいだね」
葉山にとって、私はタイプってほどではないらしい。
別にいいのだけれど、私の心には少し複雑な感情が生まれた。
勝手に、自分は葉山のタイプなのだと思い込んでいたから。
「でも、望月のことはちゃんと好きだよ」
そう言って葉山はにっと笑顔を私に向ける。
私も葉山のこと好きだから――。
その言葉は、どうしても口に出せなかった。
葉山が求めているのは友だちとしての好きじゃない。
恋人としての好きだ。
「……ありがと」
私はそれだけ応えて、唇をぎゅっと結んだ。
胸を行ったり来たりするのは、漠然とした不安感。
私は葉山のタイプじゃないから、もし葉山の好きな人がいて、その人も葉山のことを好きだった場合、私は邪魔な存在になってしまう。
そもそも私たちの関係は、お互いフリーならという不安定な条件の中で成立しているのだ。私が葉山を縛る理由もなければ、葉山が私を縛る理由もない。
どっちかの興味が薄れれば、すぐに解消されるような関係――。
そう思うと、隣に歩く葉山との距離が急に遠く感じてしまった。
もっと近づかないとどこかに行ってしまう。
葉山には私の手の届くところにいてほしい。
そんな焦燥感に駆られて葉山との距離を詰めようとすると、
「じゃあ望月、また明日ね」
「あっ、うん、バイバイ」
ちょうど別れ道に差し掛かったらしく、葉山は私から離れていく。
どんどん彼女の姿は小さくなり、曲がり角に入ると完全に見えなくなった。
「……はぁ」
私はいったい何をしてるのだろう。
行き場のない思いを押し殺して、私は再び歩き始めた。




